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何考えてるか当ててみて

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/06/08

「何考えてるか当ててみて」


 男は言った。


「えーなんだろ」


 女は言った。


 夕食後の寝室。

 二人はベッドに座っている。


「さあさあ」

「明日の朝ごはんのこと?」

「違うよ」


 男は首を振った。

 笑っている。


「じゃあ昨日のあれのこと?」


 男は口をつぐんだ。

 その目は、じっと女の方を向いている。


「違うよ」

「間が怖い」


 部屋の明かりが明滅している。

 ジジ、という音が鳴った。

 

「何も考えてないて言ったらどうする?」

「前提が壊れるね」

「そうだ。だから考えてはいる」

「うん」


 女はベッドを降りた。

 部屋を出た。

 数秒が経ち、包丁を持って戻ってきた。


 男は動かない。

 女の方を見ている。


 女は男に近づき、包丁を鼻の前に突きつけた。

 

「言え」

「え?」

「何を考えているか言え」

「いやいや、冗談でしょ?」

「言え」


 女は、次第に包丁を近づけていく。

 1秒間に0.01mm程度。

 

 部屋の明かりが明滅した。

 刃が光を反射して、チカチカと光った。

 刃先には少しだけ、水滴がついている。


「言えよ!!」

「言わない!!」

「言えよ!!!!」

「言わない!!!!」


 男が震えだした。

 切っ先を一点に見つめた。

 寄り目になっていた。


 女は包丁を下ろした。

 しばらく無言で固まり、後ろを向いて部屋を出た。

 扉は音を立てて閉まった。


 男は息切れをしていた。

 未だに、さっきまで切っ先のあった部分を見つめている。

 寄り目のまま。

 

 男の息が整ってきたころ、女は部屋に戻ってきた。

 チェンソーを持っていた。

 女の身長の半分ほどの大きさだった。


 男は後ずさった。

 壁に体を押し付けた。

 息はかすれていた。

 毛布で体を包んだ。

 くるまっていた。


 女は近づき、チェンソーを男に向けた。

 鼻っ面に向けた。

 

「言え!!!!」

「言わない!!!!」

「言え!!!!」

「言わない!!!!」


 スイッチが入った。

 刃が高速で回転をし始めた。

 工事現場の騒音と全く同じ程度の音量だった。

 たまに音が途切れたり、鋭くなったりした。


「言え!!!!」

「言わない!!!」

「言え!!!!」

「言わない!!」


 女はチェンソーをベッドに食い込ませた。

 布が引き裂かれ、中から毛玉が溢れた。

 男の前で舞った。

 

「言え!!」

 

 男は何も答えない。

 口を開け、固まっていた。

 ベッドにシミが広がった。


 女はそれを見て、チェンソーを下ろした。

 スイッチを切った。

 音は止んだ。


 部屋の明かりが明滅した。

 ジジジ、という音が鳴った。

 女は立っていた。

 男は座ったままだった。


「誕生日」

「え?」

「明日の誕生日のこと、考えてた」

「そう」


 男は口を開いた。





「ていうことを考えた」

「バイオレンス過ぎるだろ私」

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