バグの胎動
「……真空の刃」
ヴァンスが指を弾いた瞬間、目に見えない衝撃波がカナタの頬を切り裂いた。鮮血が舞う。FランクとCランク。その差は、埋めようのない絶対的な隔絶としてそこに在った。
「無意味だ。Bランクの『鉄』など、私の真空の前では紙同然。……高ランクのボールを持てば勝てるとでも思ったか? 宝の持ち腐れだよ。さあ、そのバグったボールを返してもらおうか」
ヴァンスが冷酷に腕を振り下ろす。数十の真空波が、逃げ場のない網となってカナタを包囲した。
だが、カナタは逃げなかった。
「……追記――ただし、この『鉄』は、衝撃を受けるたびに超振動を起こす」
激突。
金属が軋むような異音が路地裏に響き渡った。ヴァンスの真空波がカナタの肌に触れた瞬間、カナタの全身が目に見えない速度で震え、衝撃そのものを相殺・粉砕したのだ。
「な……!? 私の真空を弾いたというのか!?」
「……スロット1、微風発動」
カナタが地面を蹴る。本来なら肌を撫でる程度の風。しかし、カナタの脳内では新たな「行」が書き足されていた。
(追記:ただし、この風は「ヴァンスの足元」の摩擦係数をゼロにする)
「っ!? 足が……!?」
氷の上に乗ったかのように、ヴァンスの姿勢が大きく崩れる。
その隙を、カナタは見逃さない。超振動を纏った右拳を、ヴィンスの腹部へと深々と叩き込んだ。
「が、はっ……あぁあああッ!!」
物理防御を無視する高周波の振動が、ヴァンスの体内を直接破壊する。
直後、静寂の中に無機質なシステム音声が響いた。
『――勝者、カナタ。暫定D1ランクへ昇格を承認します』
ヴァンスは泥水の中に膝をつき、信じられないものを見る目でカナタを仰ぎ見た。
「……ハッ、ハハ。……まさかこれほどとはな。だが忘れるなよ、カナタ」
ヴァンスが血を吐きながら、呪うような笑みを浮かべる。
「貴様は今、この瞬間から『Dランク防衛戦』の渦中に放り込まれた。一週間以内に3回戦い、2勝しなければ、ランクは剥奪、ポイントは全没収……。格上の座を奪った代償、せいぜい地獄の中で味わうんだな……!」
高級車が去り、静まり返った路地裏。
カナタを襲ったのは、勝利の余韻ではなく、脳を抉るような激しい渇きだった。
(……消えた。また一つ、思い出せない)
お守りを握る。もう、この布の感触から連想できる思い出は、何一つ残っていない。
「……へぇ、面白い。ねえ、そこのバグだらけの君」
影の中から、銀髪の少女――リセットが姿を現した。
「その防衛戦、私が観測してあげようか? あんたが『自分』を全部使い切る前にさ」
第3話を読んでいただきありがとうございます!
FランクがCランクを喰う「ジャイアントキリング」、いかがでしたでしょうか。
新キャラのリセットが登場し、物語はさらに加速していきます。
【お知らせ】
本日よりタイトルをリニューアルしました!それに伴い、今日からなるべく1日2話投稿でいきたいと思います!
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次回、第4話は今日の19時に更新します。お楽しみに!




