今年もよろしく
元カノから「あけましておめでとう」とだけ書かれた通知が、年が変わってすぐに届いた。
スタンプも絵文字もなく、妙に整った文字列だった。
返事を書こうとして、指が止まる。
「あけましておめでとう」まではいい。
問題はその次だった。
今年もよろしく。
その文章が、やけに重い。
「今年も」という言葉は、続きを前提にしている。
関係が当たり前に続くことを、疑っていない言い方だ。
もう別れているのに、そんな言葉を使っていいのか。
それとも、使わないほうが残酷なのか。
考えすぎだと分かっている。
新年の挨拶なんて、ただの形式だ。
でも、形式だからこそ、そこに滲む本音が怖かった。
画面を伏せて、数分。
窓の外を流れる車の音を聞きながら、またスマートフォンを手に取る。
文字を打っては消し、消しては打つ。
「今年も」を消した文章は、どれも不自然だった。
ずっと続く関係にしてもいいのか。
今年もと言うほど、まだ近くに置いていい存在なのか。
そんなことを、正月の静かな部屋で一人考えている自分が、少し滑稽にも思えた。
その時、LINEの通知音が鳴った。
画面を見なくても、誰からか分かった。
元カノからだった。
短く、決定的な一文。
「今年もよろしく」
心が、キュッとなった。
胸の奥をつままれたみたいに、息が一瞬詰まる。
迷っていたのは自分だけだったのかもしれない。
それとも、同じ迷いの先で、彼女はその言葉を選んだのか。
どちらにしても、その五文字はもうここにある。
「今年も」が、急に当たり前の言葉に見えてくる。
別れたことも、距離も、全部抱えたまま、それでも続く時間の存在を肯定するみたいに。
しばらく画面を見つめてから、同じ言葉を打った。
迷いは消えなかったけれど、拒む理由も見つからなかった。
送信ボタンを押したあと、部屋は相変わらず静かだった。
ただ、新しい年が始まったという実感だけが、少し遅れて胸に落ちてきた。
今年もよろしく。
その言葉が、希望なのか未練なのか、
まだ分からないまま。




