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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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9/14

『金亀換酒 (きんきかんしゅ)』 サントリー 角瓶

今回はドワーフ、ヴァインのおっちゃんが初めて部屋の外へと飛び出します。

おっちゃんの異世界デビューの顛末や如何に!?

 夜の住宅街を二つの影がぽてぽてと歩く。

「…道に線が引いてあるでしょう?

こんな風にその端っこを歩いてね、車が通ると危ないからねぇ…」

コンビニに向かいながら、私、飲酒盃小町(いさはいこまち)は少々緊張気味。

「…うむ、備えよう。」

物珍し気に辺りを見回しながら私の後を付いて来るのは

異世界のドワーフ、ヴァインのおっちゃんだ。

おっちゃんはドワーフの例に漏れず横幅が広いから、歩道を並んで歩くのは

ちょっと危ない。

「…あれが信号。

赤い人のマークが光ってる時は渡っちゃダメ、青が光ったら渡るのよぉ?」

「車はあの大きい赤・黄・青に従って通るんじゃな?

成程、分かりやすいの。」

理解が早くて助かる。


私は、(つい)に、と言うか、今夜初めておっちゃんを外に連れ出したのである。


・・・


 「…やっぱり、外、見たいわよねぇ?」

ある日、私はおっちゃんに(たず)ねてみた。

「そりゃ、見たいか見たくないかで言ったら見てみたいぞ?

じゃが、()()()人間(ヒューム)しかおらんのじゃろ?

変に目立ったり、役人に追い回されたり捕まったりするのは嫌じゃしのう…」

そうよねぇ、おっちゃんは好奇心旺盛(おうせい)性質(たち)だし、

本当は外に興味津々(きょうみしんしん)なのだろう。

いきなり繁華街(はんかがい)に放り出す様な真似はしないけど、

近所でちょっとお買い物くらいはさせてあげたい。

人通りの少ない夜に、コンビニに行くくらいなら大丈夫じゃないかしら?

それなら、『変装』と、もしもの時の『カバーストーリー(言い訳)』の

でっちあげが必要ね。


 「…おっちゃん、ちょっと立ってみて?」

巻き尺とメモ帳を取り出して声を掛ける。

「うん? どした?」

「やっぱり外、見せてあげたいからねぇ、その準備よぉ。」

答えつつ、背丈や胴回り、足のサイズなんかを計る。

「おぉ、行けるんか? 外へ出てもいいんか!?」

「えぇ、いいわよぉ?

だから準備に一週間くらいちょうだいねぇ。」

「そうかそうか、楽しみじゃのう!」

「…あ、おっちゃん、服は好きな色とかあるかしらぁ?」

ホクホク顔のおっちゃんを横目で見やりつつ、私はパソコンを立ち上げると

衣料品の通販サイトを開くのだった。


・・・


 (そろ)えた服は、まぁ街歩き用のカジュアル。

届いた服の大きさにびっくりよ。

トップは温かそうなブルゾンにインナーのスエットパーカー。

ボトムはカーゴパンツ。

こちらは大分、丈を詰めなきゃいけない。

太さは私が二人入ってまだ余るんじゃないかしら。

ブルゾンも試しに羽織ってみたら、だるんだるんよ。

ドワーフって、横方向にはお相撲さんサイズなのに、縦方向には詰まってる。

なかなか難しいのだな。

後は耳隠しに小洒落(こじゃれ)た感じのニット帽。

ドワーフも意外に妖精耳だったのね。


 苦労したのが靴だ。

日本人で30cmの足はなかなかない、と思う。

困ってたんだけど、身近に思わぬ解決策があった。

会社の私の部署の係長、安藤君。

彼はかなりのマッチョで身長は2m近い、日本人離れした体格の持ち主。

「…時に安藤君、靴大きいわねぇ、何cmあるのぉ?」

「僕の足ですか? ぼかぁ32cmありますよ!」

「大きいわねぇ…なかなかサイズないでしょぉ、どこで買ってるのぉ?」

安藤君は、即座にパソコンでお店URLをメールしてくれた。

「僕が買ってるのは…この店ですね、横浜にも支店がありますけど、

でも課長が()く訳じゃないですよね、どうしたんです?」

「あぁ、海外の知人が日本で靴を見たいって言うんだけど、サイズがなくて

困ってたのよ、ありがとねぇ。」

成程(なるほど)ぉ、いえいえ、どういたしまして!」

てっかてかの笑顔でサムズアップする安藤君。

…彼の笑顔は、気のせいかワセリンの臭いがした。


こうして、私は良さげなウォーキングシューズの入手に成功したのである。


・・・


 服は用意した。

後は…お買い物するんだからお小遣(こづか)いが要るわよね。

そうだ、()()()貨幣(かへい)制度を教えておかなきゃ!

()()()じゃ、金銀宝石を持ってても物々交換は出来ないのよぉ。

このお金を使ってちょうだぁい?」

一万円札、五千円札、千円札、硬貨も五百円から一円玉まで全部用意して

計二万円分。

「ほぉ…こりゃすごいの。

透かし彫りといい、このキラキラした(はく)といい、どうやって印刷したものか

見当もつかん…この五百円というのも斜めにすると文字が浮かんでくる…」

「後、このメモもお財布に入れといてねぇ。

万一迷子になったら、これを人に見せたら私に電話してくれるわぁ。」

「うむ、まぁ(はぐ)れぬ様、気を付けよう。」

これで準備は万端…ちょっと不安がないでもないけど、当たって砕けるしか

ないわね。

いざ、コンビニへ出発!


・・・


 10分程も歩くとコンビニが見えて来る。

「あれが、今日の目的地、『コンビニ』よぉ…まぁ、雑貨屋さんねぇ。」

「なんと、一面ガラス張りとは豪勢(ごうせい)な!」

そうか、ガラスは豪勢なのか。

()()()だと建物のガラスって教会のステンドグラスくらいかしらねぇ。

入口の前に立つと、するりと自動ドアが開いた。

「! 何じゃ、魔法のドアか!?」

驚いて飛び退()くおっちゃん。

あ、そりゃ自動ドアはびっくりするわよね。

「魔法じゃないけど、入口に立つと自動で開くのよぉ。」

「説明しといてくれ、驚いたぞい…」


 レジを(のぞ)くと今日のシフトは年配のオーナー店長ご夫婦の様だ。

良かった。

一応私とは顔なじみだし、そんなに揉める事もないだろう。

と思ったのだが、店長さん、こちらを見てちょっとびっくりした様子。

…こりゃまずいかな?

おっちゃんは興味深げに品物を見ながら店内をうろついている。


おっちゃんが奥の方に行ったところで店長さんが私に声を掛けてきた。

「飲酒盃さん、お連れさんは外国の方の様ですが…差し支えなければ

どういった方なのかお聞きしても?」

背丈は子供並みなのに体格はお相撲さんみたいな(ひげ)もじゃの外国人、

流石に不信感が(ぬぐ)えなかった様だ。

「えぇ、海外の知人で宝飾品の工房を構えている人なんですけど、

見ての通りちょっと事情があって、ご本人も目立ちたくはないんですが、

それでも日本の日常が見たい、と言われましたので人の少ない時間に

ご案内をしてるんです。

日本語も堪能(たんのう)ですし、問題はない人ですから…」

練りに練られているかは分かんないけど、悩みに悩んでひねくり出した

カバーストーリー(言い訳)』よ!

少なくとも嘘は言ってないし、これでダメならもう知らん!

「…あぁ、成程。

いえ、身元のしっかりした方なら大丈夫ですよ、ごゆっくりどうぞ。」

店長さんは笑顔でレジに戻って行った。

日頃のお付き合いと信用って大事よねぇ。


 買い物かごに色々放り込みながら、さて、おっちゃんは、と見ると

商品棚の前で釘付けになっていた。

()()()()を一心に見つめている。

「どうしたのぉ?」

「この瓶、すごい…これ、酒じゃろ?ウイスキーじゃろ?

買ってもいいかの? 持ってる金で買えるかの?」

あぁ、おっちゃん職人だもんね。

()()()なら()かれるわよねぇ。

「大丈夫よぉ、レジ…あそこのカウンターに持って行くといいわぁ。」

おっちゃん、顔をぱぁっと輝かせて瓶をレジに持って行った。

「店主殿、この酒を頂けんかの。」

「はい、〇〇円になります…そこの年齢確認画面にタッチして頂けますか?」

「おや、歳の確認があるのかの?」

「えぇ、お客様が子供に見える訳ではないんですが、万一にも

未成年者にお酒や煙草(たばこ)を売る事のない様に、法律で決まっているんですよ。」

「成程のう、しっかりしているんじゃの。」

嫌な顔もせず画面をぽちるおっちゃん。

…家でタブレット触らせといて良かったわぁ。

「こちらの雑貨屋は品揃えも多くて良い店ですなぁ。

()ではこれ程の雑貨屋は見た事もないですわ。」

「そうですか、それはありがとうございます。

今後とも御贔屓(ごひいき)に。」

お互い笑顔で会計終了。

おっちゃん、初めてのお買い物は無事終えられて何よりだわぁ。


・・・


 帰り道の途中にある神社のベンチでちょっと休憩。

自販機で温かいお茶を買って、私は(あん)まん、おっちゃんは肉まんを

頬張(ほおば)る。

お金を入れてボタンを押すと飲み物が出て来る、しかも温かいのも冷たいのも

選べると知って、これもおっちゃんはびっくりした様だ。

「道は馴らされとるし、街中(まちなか)も便利なものばかりで、驚かされるわい。

『こんびに』と言ったか?

雑貨屋も大した品揃えだし、店主も良い人じゃった。」

「びっくりする事ばかりで、疲れてなければいいんだけどぉ。」

「いや、そうかと思えば、こんな落ち着いた場所もある。

この建物は、こじんまりとしとるが神殿か?」

「えぇ、お正月かお祭りの時くらいしか人がいないんだけど、

神様を(まつ)ってるのはそうだから、神殿…なのかしらねぇ。

『神社』って言うのよぉ?」

「やはりの、それらしい気配が感じられるからのう。」

そういうの分かるんだ、て言うか、いるんだ、『神様』。


「それに…綺麗な月じゃのう。」

ぶっ。

危ない、お茶を吹きそうになった。

何を言い出すのか、このおっちゃんは!?

()()()の月は丸くて白くて大きいんじゃのう。

向こうにも月はあるが、ちっこいジャガイモみたいな黒っぽい岩っころが

二つ浮かんどるだけで、何とも味気ない。」

あぁ、文字通りの意味なのね。

どこで覚えたのかと思ったわよ、『()()()()()()()』。

「星の並びも全く違っとるし、今更ながら、()()は異世界なんじゃと

思い知らされるわい。」


外に連れ出すのは心配だったけど、今日の結果は良い方に転がった。

これからも、おっちゃんには楽しい思い出を沢山作ってあげたい。

「…さて、お(なか)も温まったし、帰ってお酒にしましょうか。」

「そうじゃの、冷える前に戻るとしよう。」


饅頭(まんじゅう)の包み紙をポケットにしまい、空いたペットボトルを

屑籠(くずかご)に入れると、私達は家へと足を向けた。


・・・


 「嬢ちゃん、今日はこれを飲もうや。」

おっちゃんが買って来たばかりの瓶を取り出す。

『サントリー 角瓶』だ。

80年近い歴史を誇る、わーくにで一番売れてるウイスキー。

そのデザインはおっちゃんならずとも、初めて見たなら目を惹かれずには

いられないだろう。

「それ、『サントリー 角瓶』て言うんだけど、やっぱり職人さんとしては

デザインが気になった?」

「うむ、これは見事な瓶じゃ。」

見つけた瞬間から目が離せなかった、とおっちゃんは言う。

「『薩摩切子(さつまきりこ)』って言うガラス細工があってねぇ、そこから着想を得て、

おめでたい亀甲(きっこう)模様を刻んで作られたデザインだそうよぉ?」

おっちゃんも慣れたもので、タブレットでぽちぽちと調べ始める。

「…成程のう、『薩摩切子』か…美しいもんじゃ…

『亀』と言うのは良く分からんが…甲羅(こうら)か、うむ、良く似とる。」

「山崎と白州って言う二つの蒸留所のバーボン樽原酒を程よくブレンドしてるの。

特にハイボールが美味しくてねぇ、食事にも合うのよぉ?」


 今日のお(つま)みは乾きもの。

醤油せんべいと海苔(のり)巻きあられをチョイス。

まずはストレートでテイスティング。

「かんぱ~い!」

「どれ、香りは、と…樽由来かの?甘やかに香るわい。

口に含むと蜜の様な甘みとコクが広がるのう…ほう、後味は結構辛口じゃの!

ドライな余韻(よいん)がスーッと引いていきよる、面白いの!」

「ハイボールはどうかしらぁ?」

ハイボールを作ったジョッキを渡す。

「ほほう、コクはしっかりあるが、口当たりがキリっと引き締まったのう。

成程、食事に合う、と言うのも納得じゃ。」


「昔はねぇ、この『角』の姉妹品に『白角』って言うのがあったのよぉ。

端麗(たんれい)辛口って言うか、キレの良い味わいだったんだけど、終売しちゃったの。」

「それはもったいないのう、どんなもんか飲んでみたかったわい。」

「だけどねぇ、時々限定品で復活する事があるのよぅ。

これなんだけどねぇ?」

悪戯(いたずら)っぽく取り出してみせたのは限定販売の『白角ハイボール缶』。

「さっきコンビニで見つけて買っといたのよぉ。

きっと飲みたいだろうって思ったのよねぇ。」

「おぉ、でかした! 早よ、早よ!!」

「はい、はい。 急かさないでよぉ。」

缶から氷たっぷりのジョッキへ澄んだ液体を注ぐ。

「はい、どうぞ。」

「ほ~ぅ、ほんのり嗅いだ事のない柑橘(かんきつ)の香りがするぞい…」

「『かぼす』って言うのが入ってるわよぉ?」

「ほう、これは…口当たり軽くキレが良い、そして(かす)かに柑橘の後味…

これが『端麗辛口』と言うもんか!」

「美味しいわよねぇ、瓶で買えないのが惜しいわぁ。」

「まったくじゃのう。」


・・・


 その日の帰り際、おっちゃんが遠慮がちに聞いてきた。

「嬢ちゃん、その、な…この『角瓶』、持って帰って良いかの?」

「おっちゃん自分で買ったんじゃなぁい、好きに持って帰っていいわよぅ。

何遠慮してんのぉ?」

おっちゃんが言うには、この瓶を見てると創作意欲と対抗心が

めらめら燃え上がるのだそうだ。

職人魂って奴なんでしょうね。

向上心があっていい事じゃないか。

頑張れ、マイスター!


あ…でも、多分その瓶は型枠で作ってるわよ?


※金亀換酒 (きんきかんしゅ)

 酒を何よりも愛する事。又は、親友を心を込めて持て成す事。

亀甲柄の瓶に黄金色のウイスキーが入った『角瓶』に相応しい言葉と思い、

今回のタイトルとしました。


『角』を飲んだのは何年振りでしょうか、何十年かも。

昔はこれ程美味しくなかった様な気がしております。

年を経て味が変わった、なのか、変わってしまった、なのかは分かりませんが。

美味しくなったのであればそれはそれで良い事なのでしょう。


城内はどちらかと言うとニッカ党なので好みの中心からは外れますが、

この『角』も悪くないウイスキーだと思います。

『日本で一番売れているウイスキー』は伊達ではありません。

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