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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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7/14

『カレーだと思ったらハヤシだった』 モンキーショルダー

今回は三匹のお猿のレリーフが愛らしいスコッチ、『モンキーショルダー』です。


我らが小町ちゃんは何やらお悩みの様子ですが、どうしたのでしょうか?

 「…それにしても、失敗したわぁ。」

コンロに掛けたお鍋をかき混ぜながら、私、飲酒盃小町(いさはいこまち)はぼやく。

「私とした事が、下調べもせずに勢いで買っちゃったのよねぇ…」

だって、瓶が可愛かったんだもの。

テーブルの上には(わず)かに中身の減ったウイスキーの瓶。

瓶の側面にレリーフされた三匹の猿が目に面白い。

「美味しかったのよ、美味しかったんだけどねぇ…」

お鍋の灰汁(あく)を取り、更にかき混ぜる。

焦げ付かせてはいけない、慎重に慎重に…

お鍋の中身にはとろみが出てきた。

煮詰める事30分、前段階を含めると実に半日近く掛かっているのだ。

途中8時間は放置してただけなんだが。

小皿に一(さじ)(すく)って味をみる。

「うん、好い感じ。」

そろそろヴァインのおっちゃんも来る頃だろう。

ヴァインのおっちゃんと言うのは異世界のドワーフ。

ひょんな事から私の部屋の押し入れと、おっちゃんの住む洞窟が

繋がって、以来私達は色々あって飲み友達なのである。

「お~い、嬢ちゃん、来たぞぅ。」

向こうの部屋から声がした。

こっちも出来上がり!

粗熱(あらねつ)が取れたら広口の瓶に移そう。

「は~い、今行くわよぅ!」

取りあえず、このお酒はおっちゃんにも飲ませてみよう。


・・・


 「取りあえず、このお酒飲んでみてぇ?

で、感想を聞かせてちょうだぁい?」

テーブルの上には先程のウイスキーの瓶。

テイスティンググラスに黄金色の液体を注ぎ、おっちゃんに手渡した。

「『モンキーショルダー』っていうの。

ブレンデッド・スコッチよぉ。」

「ほうほう、今日は早速ウイスキーかの?

三匹の…これは猿か? 見事なレリーフじゃ。

()()()の酒は瓶を(なが)めるだけでもワクワクしてくるわい。

…では、頂くぞい。」

おっちゃんも慣れたもので、まずはグラスを軽く回し香りを(たの)しむ。

「ほーぅ…バニラにチョコ、蜂蜜と…中でも洋梨の香りが特徴的だのう。

どれ、お味は、と…ほほう! これは穀物(こくもつ)感、と言うのかの!?

麦の甘みと洋梨の香りが口一杯に広がりよる!

ややオイリーな舌触りも良いのう。

心地よい苦みと柔らかなピート感、余韻(よいん)が長く残って実に良い味わいじゃ!」

おっちゃんはべた()めである。

「そうよねぇ、美味しいのよねぇ…」

「何じゃ? 浮かない顔しとるのう。」

「美味しいんだけどねぇ?

私が欲しかった味は()()じゃなかったのよぅ…」

「?…難しい事を言うのう。」

「まぁ、聞いてちょうだいよぅ…」

私はおっちゃんにくどくどと愚痴(ぐち)をこぼし始めた。


・・・


 これは本当に衝動(しょうどう)買いだった。

駅ビルの大きな酒屋さんでウイスキーを物色していた私の目に、この瓶が、

正確には三匹の猿のレリーフが飛び込んで来たのである。

三匹のお猿。

やだ、可愛いじゃない!?

お猿さんと言えば、バナナよね?

きっと濃厚なバナナの香りと甘~い味わいがするに違いないわ!

私、この『モンキーショルダー』は知らなかったから、瞬時に色々妄想(もうそう)して

もう、そういう味わいに違いない!って決めつけて買って来ちゃったのよね。

そしてお家で浮き浮きと開栓して味わう敗北感。

美味しいんだけど…すごく美味しいんだけど…

『違う、そうじゃない。』

頭の中に例の男性シンガーのジャケ絵がふわふわと浮かんだ。


「美味しいんだけど違うのよぉぅ…

私が欲しかったのは、バナナの香りと甘みなのよぉぅ…

お猿と言えば、バナナなのよぉぅ…」

涙ながらにおっちゃんに訴える私。

「何も泣かんでも…美味いんだから切り替えればええじゃろ?…の?…の?」

おっちゃんは、おろおろしながら(なぐさ)める。

女の涙は厄介(やっかい)なもの、というのは種族も世界も超えて共通らしい。

これが『泣く子と地頭には勝てぬ』って奴ね(違う)と変に感心する私。


「下調べもせずに衝動買いした私が悪いっちゃ悪いんだけどねぇ?

それにしても思ってた味と違い過ぎたのよぅ。」

「バナナじゃないにしろ、洋梨の香りと味わいが豊かで味わい深いがのう。」

「そう、それよ!」

私はグラスやら皿やらをひっくり返さない程度にテーブルをどんと叩く。

「もう頭の中が『Oh!バナーナ!バナーナ、ワォ!!』て感じで

バナナ一色だったのに、いきなり口一杯に洋梨が広がった時の私の気持ち、

分かるぅ!?」

「嬢ちゃん、そんなにバナナ好きじゃったのか?」

ややたじろぎ気味に聞き返すおっちゃん。

「前に食べたバナナ、甘くて美味しかったでしょう?

後、こないだ買って来た『バナーナ・DE・TOKIO』も!」

「あぁ、こっちの果物は皆甘くて美味いの。

あの菓子も実に美味かった。」

『バナーナ・DE・TOKIO』と言うのは東京圏の駅とかでよく売ってる

例のお菓子である。

長年東京土産(みやげ)の王座にあった『東京のぴーよこちゃん』を追い抜き、

現在の絶対王者に君臨(くんりん)する『バナーナ・DE・TOKIO』。

その味は異世界にも通用した!

()()()に来ると舌が肥えてしまっていかん、とおっちゃんは苦笑いした

ものだ。


「それに、おっちゃんもこないだあったでしょぉ!?

初めて『ハヤシライス』食べた時!」

「あ。」

そう、おっちゃんは異世界交流名物、カレーライスの洗礼を済ませ、

しっかりとその味に()りつかれていたのだが、ある日…

「おぉ、今日も『かれー』か!

早速『いただきます』じゃ!!」

「あ、()()は…」

説明する()もなく料理を頬張(ほおば)ったおっちゃんの動きが止まる。

「違う…美味いけど、()()じゃない…」

ふるふると(ひげ)を震わせておっちゃんは訴える。

「それは『カレー』じゃないの。

『ハヤシライス』っていって別の料理なのよぅ?」

「美味いけど…美味いけど…」

しっかり完食はしたが、(しばら)くおっちゃんのぼやきは止まらなかった。

今では『ハヤシライス』もおっちゃんの美味い物リストには並んでいるらしいが。


「あぁ、あったの…悲しい事件じゃったの…」

遠い目をしておっちゃんが(つぶや)いた。

「あれと同じだと思うと分かるでしょぉ?」

「うむ、『言葉』ではなく『魂』で理解出来たわい。」

「正しく情報が伝わった様で、何よりだわぁ。」

同じ様な体験をしてると理解が早くて良いわね。

「…さて、これの『はいぼぉる』も飲ませてくれんかの?

美味いんじゃろ?」

「そうねぇ、飲み口は洋梨や青りんごの果実感と甘さのバランスが良くて

『やれ、爽快』って感じよぉ?

余韻にビターさが軽く残る感じで、全体的に調和が取れてる感じが魅力ねぇ。」

バナナへの(こだわ)りも薄れ、ようやく気が晴れた私だった。

やっぱり目の前で気軽に愚痴を言える相手がいるって大事よね。


・・・


 「…『水飴(みずあめ)』?」

「そう、水飴。

麦芽糖(ばくがとう)水飴っていうんだけどねぇ?」

先の台所で火に掛けていたお鍋は水飴を作っていたのだ。

お鍋から広口瓶に移した水飴をテーブルに持ってきた私。

「一匙、味見してみるぅ?

甘いわよぉ。」

「どれどれ…おっほ、甘い!甘いのう!」

スプーンを受け取り味見したおっちゃん、思わず顔がにこばむ。

聞いた感じ、()()()甘味(かんみ)(たぐい)が極端に少ないみたい。

お砂糖菓子なんて、王侯貴族でもお祝いの時にちょっと味わえるくらい。

蜂蜜は修道院の様な宗教関係ががっつり養蜂利権を押さえていて、

これも庶民が手を出すには結構な高級食材なのだそうな。

庶民の口に入る甘味は季節の果物か、ドライフルーツ等がせいぜいらしい。


そこで私は考えた。

()()()で手に入るもんで甘味作れないかなぁ。

行き着いたのが麦芽糖の水飴だった訳。

昔、実家でお祖母ちゃんが時々作ってくれたのを思い出した。

水飴は麦芽とお米で作れるのだ。

向こうにもパエリアやリゾットみたいなお米を使った料理はあるそうだから、

材料は何とかなる。

出来れば餅米(もちごめ)が良いんだけど、これはないなら普通のお米でもしょうがない。

それに、水飴の凄い処は『材料の置き換え』が出来る事なのよ!

麦芽は大根や(かぶ)、お米はジャガイモ澱粉(でんぷん)や片栗粉に置き換えが可能。

しかも、赤大根や緑大根、紫蕪を使うと、色付きの水飴が出来る!

目にも楽しいし、女性や子供は喜ぶんじゃないかしら?

レシピをちゃんと読めるか、おっちゃんに翻訳の魔法を試してもらいながら、

そんな事を伝えた。


「…『氷屋』や『消毒液』の事といい、随分と考えてくれとるんじゃのう。」

おっちゃん、向こうでは腕の良い職人として方々(ほうぼう)に顔も効くし、魔法使いや

錬金術師の友人もいるというから、商売のタネになるかも、と色々教えて

みたのだ。

『氷屋』は言う迄もなく氷室(ひむろ)での食料保存や飲食店で使う氷を売る

商売。

魔法学校の学生さん達の良いお小遣い稼ぎになっているらしい。

『消毒液』は消毒用アルコールの製造販売。

ドワーフ火酒は蒸留酒だから、後は純度を70~80%程に上げるだけ。

飲めない程強い酒を造ってどうするんじゃ?と言われたが、飲むのではないし、

治癒の奇跡が使える神官や僧侶がいない時はこれが生命を左右する事もある、

とどうにか納得してもらった。

傷口を(ぬぐ)ったり、特に産婆(さんば)さんの手指や器具の消毒に使う様、

出来るだけ安く広めて欲しい、と強くお願いした。

…これは後々(のちのち)おっちゃんから凄く感謝される事になるんだけど、今は割愛(かつあい)


「で、この水飴なんだけどねぇ?

作り方自体はそんなに難しくはないんだけど、時間と手間がかかるのよぉ。」

そう、水飴作りは温度管理が肝。

最初に作ったお(かゆ)を60~65度で8時間置く必要があるのだ。

()()()だと保温ポットや炊飯器でお手軽に放置出来るんだけどね。

「錬金術師さん?に相談すると良いんじゃないかと思うのよぉ。」

「で、説得するなら試供品が必要、と言う事か。

何、()()一匙()めさせたら二つ返事で引き受けるじゃろうて。」

この『あるこぉる温度計』というのも喜ぶじゃろうしの、と軽く請け負う

おっちゃん。

調べてみたけど、アルコール温度計って意外と簡単に作れるのね。

こちらも現物と製造法を用意した。

「なら良いんだけどぉ。

ガラスの扱いには注意する様に言ってねぇ?」

割れたら危ないからな。

「うむ、よく言っておこう。」

造るのはそこまでお手軽ではないけど、程なくおっちゃんの世界でも

それなりにお安い甘味が出回る事だろう。

それでおっちゃんの(ふところ)もいくらか暖まってくれれば万々歳よ!


・・・


 「ほう、今日はビールなんじゃの。」

今日のメインの用事は済んだので、飲みに入る私達。

ウイスキーは先に『モンキーショルダー』を飲んだので、今は軽く

ビールで乾杯だ。

(つま)みはエビチリに麻婆豆腐(まーぼーどうふ)

「軽く、と言うには摘みがちとヘビーで味が濃いんじゃないかの?」

(いぶか)しむおっちゃん。

「今日はねぇ、ちょっと変わり種のビールなのよぉ?」

テーブルに置かれた缶とグラス。

缶は目に鮮やかなラピスブルーの地に、此れも鮮やかな白で描かれた、

剽軽(ひょうきん)な鬼の笑顔。

「…『インドの青鬼』よぉ。」

「ほう、『(オーガ)』とはまた物騒(ぶっそう)な…頂くぞい。」

おっちゃんは手酌(てじゃく)でとくとくとグラスにビールを注ぐと、

まずは香りを確かめる。


「むぅ…濃厚なバナナ? いや、グレープフルーツの様でもあるか…

甘いビールはこの摘みには合わんのじゃないかのう…」

言いながら一口含んだおっちゃんの目と口がキュウッとすぼまった。

「くぉっ! (にが)っ!!」

「苦いでしょぉ?

『IPA』って言って、特別苦い種類のビールなのよぉ。」

海を渡って運ぶ為に長い期間が掛かるから、ホップを効かせてうんと苦くした

ビールなのだ、と私は悪いとは思いながらも、くすくすと笑いながら説明した。

「とびきり苦いんだけど、濃い味だったり油っこい料理には合うのよねぇ。」

「…苦い、苦いんじゃが…摘みを食うて一口飲むと油がすっきり切れて…

ぬぅ、苦みとスパイシーさが癖になるわい!」

「おっちゃんなら癖のあるお酒もいけるんじゃないかと思ったけど、

お口に合って何よりだわぁ。」

「言うて、先に説明してくれんかのぅ。」

「先入観無しで試して欲しかったのよねぇ。

思い込みって、結構引っ張られて感想がブレちゃうものだしぃ?」

「『もんきぃしょるだぁ』(しか)り、『はやしらいす』然り、と言う事か?

…成程、違いない。」

「あら…これは一本取られたわねぇ。

うふふ、降参よぉ。」


今日も終わってみれば美味しいお酒で楽しい夜が更けていく。

…ただ、衝動買いは気を付けよう、と私はこっそり心に誓うのだった。


『モンキーショルダー』、飲んだのは随分前の事で、今回執筆にあたり

ミニボトルを購入したのですが、味が当時持っていた印象と全然違う。

『違う、この記憶じゃない!』


甘味が少なく切れ味鋭いドライな印象、という記憶だったのですが、

改めて飲んでみたらかなりスウィーティ。

何か他の物と勘違いしてたかもしれません。


当初想定していたお話から内容をがらりと変える羽目になってしまいました。

おっさんの記憶なんて当てにならないものだと痛感、

改めて思い込み・先入観を排して直近の感想で書く事を決意した次第です。


『モンキーショルダー』だけだと尺が足りない感じでしたので、

番外的に『インドの青鬼』も投入しました。

こちらは香りのフルーツ感に騙されて飲むと超苦いIPAビール。

過去の記憶通りで安心しました。


城内は『モンキーショルダー』が大好きになりました。

『インドの青鬼』は昔と変わらず大好きです。

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