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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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6/14

『幸せな結婚』 ニッカ フロムザバレル

前回は番外編をやらせて頂きましたが、今回はウイスキーに戻ります。

なかなか手に入らない、大人気の『四角いアイツ』の登場です。

 年末年始の休暇も明けて、私、飲酒盃小町(いさはいこまち)は足取りも重く、

都内23区でも郊外寄りにある本社へ向かう。

新年一発目の営業会議があるのだ。

レジュメは仕上げてあるけど、会議なんて上からのツッコミを受ける為の

場なのよね。

でも今日ばかりは仕方がない。

うちっとこの部長、佐渡島(さどがしま)さんに『カトケ』の戦利品を渡さなきゃ。

理解ある上司の協力が無ければ社会人のヲタ活は成り立たぬっ!

…あぁ、そろそろ電車着いちゃうわねぇ、気が重いわぁ。


・・・


 「部長、明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします。」

精一杯愛想(あいそ)よく新年のご挨拶(あいさつ)

会議は気が重いけど、何も初手から相手の機嫌(きげん)(そこ)ねる必要もない。

「おぉ、こまっちゃん、明けましておめでとう!

今年もよろしくだよぉ。」

「で、早速ですけど、ゲットして来た冬の新刊、会議の前にお渡ししますねぇ。」

背中のザックを降ろし、地味な紙バッグを取り出して渡す。

会場で大きなお友達が持ち歩いている様な恥ずかしい紙バッグではない、断じて。

まぁ佐渡島さんもあの手のバッグをありがたがる年齢(とし)でもないし。


「そうそう、『らが★ぶーりん』先生の新刊はサイン入れてもらいましたよぉ?」

『らが★ぶーりん』と言うのは、私のお友達、酒匂桂華(さかわけいか)ちゃんのペンネーム。

佐渡島さんは年季の入った桂華ちゃんフアンで、デビュー当時から

()していたそうだ。

流石はこの道の先達(せんだつ)、お(なか)だけでなく目も肥えていらっしゃる。

単行本や画集も全部持っているとの事。

私と桂華ちゃんが友達と知って、『世の中狭ぁ~い!』と驚いていたもんだ。

「おぉ、でかした!

こまっちゃん、いつもありがとうだよぉ。」

「いえいえ、どういたしましてぇ。」

佐渡島さんはニッコニコで紙バッグをしまい込んだ。


会議中のツッコミ、3割くらい減るといいなぁ、等と()にも付かない事を

考えていた私に、佐渡島さんは別の小さな紙バッグを突き出した。

「こまっちゃん、これあげるよぉ。

いつも買い出し頼まれてくれるから、ちょっとしたお礼。」

「あらまぁ、気を使って頂いて、返って申し訳ないですわぁ。」

受け取って、ちょっと中身を(のぞ)いてぎょっとする私。

「部長! これって…いいんですか!?

結構なプレ()だし、そもそも今お店でも滅多(めった)に見ませんよぉ!?」

「いいのいいの。

去年かみさんが婦人会で仙台旅行に行ったんだけどさぁ、旅程に『工場見学』が

入ってたから、こまっちゃんへのお礼にって一本買っといてもらったのよ。

勿論(もちろん)現地では定価で買えたそうだよぉ?」

()()を定価で…何て(うらや)ましい…じゃない、何てありがたい。


…そう言えば薄い本の買い出しリストに結構女性向けがあったんで、

守備範囲広いなぁと思ってたんだけど、そうか、奥様の分だったのか。

「宅飲みは好きって聞いてたからねぇ、折角だから良いのを()るといいよぉ。」

私は思わず佐渡島さんの手を握ってブンブンとシェイクハンド。

「うわぁ…ありがとうございます!

奥様にもよろしくお伝え下さい!!」


もう、その日の会議中、私は質疑応答もツッコミも何のそので、終始ニッコニコ。

周囲はさぞかし気味が悪かった事だろう。


・・・


 さて、会議のあった、その週末である。

ヴァインのおっちゃんを招いてまずは晩御飯。

皮をカリッカリに焼いた(シャケ)のムニエルはレモンバター醤油で頂くわ。

クリスマスじゃなくても(シャケ)を食べるのよっ。

いえ、それが普通なのよっ。

付け合わせには、さっぱりしたトマトと胡瓜(きゅうり)のマリネに

()でたアスパラガスと、じゃがいものざく切りも添えましょう。

汁物は甘~い玉ねぎのコンソメスープ。

これだけでもご機嫌な晩御飯だけど、おっちゃんのご飯には更に一品、

納豆をプラス。

そう、おっちゃんは納豆を食べられる様になったのよ!

初めて納豆を見た時のおっちゃんの微妙な顔つきったら、無かったわぁ。


「…これ、食い物なのか?

と言うより、食って大丈夫なのか?

妙な臭いがしよるし…糸引いとるし…」

醤油だれと辛子(からし)を入れて、くるくると納豆を混ぜる私をおっちゃんは

神妙な目付きで見つめる。

知らない発酵食品は警戒心(あお)るわよねぇ…特に臭いが強いのは。


「日本人でも苦手な人は苦手だし、無理そうなら食べなくてもいいのよぅ?」

「いや、待て、待ってくれ…むむむむぅ…」

心に(とも)る危険信号と、これまで私の出した料理のお味への信頼とで

せめぎ合うおっちゃんの心。

何が『むむむ』よ、()の者の(くび)を…いや、頸は()ねなくていいわ。

「えぇい、ままよ!」

意を決してご飯に乗っけた納豆を口に放り込むおっちゃん。

「……。

あ、意外といける。」

「私は納豆だけでも食べるけど、熱々(あつあつ)のご飯と一緒に食べると美味しいでしょう?

刻んだおネギや、大根おろしを入れても美味しいし、辛子の替わりに

山葵(わさび)や唐辛子にしてもいけるのよぉ?」

「いや、こんな珍妙な見た目でも、食ってみるといけるもんじゃのぅ。」

「そうよぉ、男は度胸、何でも試してみるのよぉ?」

私は、どこぞのイイ男みたいな台詞(せりふ)で応じた。


一度食べてしまえば、そこから先の順応は早かった。

今では和食っぽいお食事の時は納豆が欠かせない。

海苔(のり)佃煮(つくだに)やふりかけなんかも食べさせたいんだけどな。

まぁ、そちらは追い追い試してもらおう。


・・・


 「…今日はすごいの飲ませてあげるわよぉ?

会社で部長さんからすっごいのもらったんだからぁ。」

「『ぶちょうさん』というのは良く判らんが、嬢ちゃんの勤め先の上長かの?

そんな良い酒をくれるとは、有難い上長さんじゃのう。」

取り出した瓶をおっちゃんの前にトンと置く。

飾り気のない四角い透明なガラス瓶。

ラベルもシンプルなグレーの地に黒の文字だけだ。

瓶の中で揺れる琥珀色の液体が、ただただ美しい。

「…『ニッカ フロムザバレル』よぉ。」

「これは…一見愛想のない形なのに、何とも(おもむき)のある…」

「立ち姿が良いわよねぇ…とと、ちょっと注ぎにくいわぁ。」

(あや)うく(こぼ)しそうになりながら注いだグラスをおっちゃんに渡す。


「それじゃぁ、かんぱーい!」

「おぉ、薫り高いのぅ…葡萄(ぶどう)の様な、カラメルの様な…

ふおぉぉ!…甘やかじゃぁ!

蜜の様な甘やかさに豊かなコクが口と喉一杯に広がって…

ややオイリーな舌触りと、それ以上に強い酒精感だが、下品な刺激ではない。

長い余韻(よいん)(かす)かなベーコンの味?

何とも複雑で()()味わいが、見事に調和しておるわい。

美味じゃ!美味じゃのう!」

グラスの内側でオイルの様に垂れる(しずく)のラインをうっとりと眺めつつ、

おっちゃんが感想を漏らす。

最近はおっちゃんの感想聞くのが楽しくなってるのよねぇ。


「余韻が長くて素敵だわぁ…『フロムザバレル』って、こういうお味なのねぇ。

次はロックで行ってみましょうか?」

「どれ…香りの葡萄感が薄くなって、カラメルが残った感じかのぅ?

味わいは…カラメルと葡萄が程よく混ざり合っておるわい。

蜜の甘みと酒精の刺激は穏やかに…全体に味が引き締まった感じがするのぅ。」

「こんなに表情が変わるのねぇ。

…もったいない気もするけど、ハイボール、行っちゃう?」

「…やるか!?」

そもそもハイボールって、よっぽど(ひど)いウイスキーでもなければ

それなりに美味しくなっちゃう『魔法』のアレンジなのよね。

こんなに良いウイスキーでハイボール、背徳的だけど、やらずにはいられない。

それが呑兵衛(のんべえ)


グラスにたっぷり氷を入れて、ウイスキーをメジャーカップで30ml。

なみなみとソーダを注いで、レモンを垂らしてワンステア。

最強レシピのハイボール、完成よぉ!

「それじゃぁ、またまたかんぱ~い!」

「香りは、と…葡萄感が強くなったかの?

ロックとは逆方向と言うのか…おぉ、爽やかじゃ!

爽やかな果実感だが、はっきりと、(わし)は『ふろむざばれる』じゃ!

と主張する、ぶれない()がありよる!」

「そうなのよぉ!

普通のウイスキーは、『割り水』て言って、加水してアルコール分を

40~45%程度に調整するんだけどね。

『フロムザバレル』の割り水は最小限、アルコール分51%なのよぉ。

これが氷やソーダに負けない、骨太な『芯』になってるのよねぇ。」

「成程のう、やはり酒精の()()ウイスキーだったんじゃのう。」

最初に感じた通りじゃと、おっちゃんはしたり顔でうんうんと(うなず)いた。


・・・


 「この『フロム・ザ・バレル』って、ただ濃いだけじゃなく、

造り方も独特なのよぉ?」

ハイボールを愉しみながら、私はおっちゃんに説明を始める。

「この瓶、四角くてちょっと持ちにくいし、首も短くて注ぎにくいんだけどね。

名のあるデザイナーさんが()えてこの形にしたんですって。

ちょっと零して『おっとっと、勿体(もったい)ない。』なんて言う人と人の

何気ないやり取りが産まれる様にって。」

「何と、そんな事まで考えてこの形を…奥が深いのう。」

「空いた瓶も、花を生けたりして楽しめる様に、ラベルも剥がし易い素材に

してるんだそうよぉ?」

その『でざいなー』とは一度話をしてみたいもんじゃ、とおっちゃんは

感慨(かんがい)深げだ。

そうか、おっちゃん、細工職人さんだもんな。


「…それに、これは『ブレンデッドウイスキー』なんだけど、一旦熟成した

大麦のモルト原酒と、とうもろこしや小麦、ライ麦なんかのグレーン原酒を

ブレンドした後で、もう一度樽詰めし直して、数ヶ月再貯蔵するのよねぇ。

この再貯蔵は『マリッジ (結婚)』て言うんだけど、正に個性の違う

ウイスキー同士が結婚したみたいに深く馴染(なじ)んで、調和の取れた美味しさが

生まれるのよぉ。」

「ウイスキー同士の『結婚』か…上手い事を言うもんじゃ。

言い得て(みょう)、とはこの事じゃのう。」

(つま)みをつつきながらおっちゃんが応える。

今日のお摘みはシンプルに冷や(やっこ)生姜醤油(しょうがじょうゆ)だ。

割としっかり目にご飯食べた後だしね。


「結婚、のう。

…嬢ちゃんは、いい人とか、おらんのかの?」

ぶっ!

…危ない、危うく折角のハイボールを吹きそうになる私。

「やぁねぇ、そんな人いたらおっちゃんを飲みに誘ったりしないわよぅ!」

私と桂華ちゃん、桜子(さくらこ)ちゃんは桃園の誓いを交わした義兄弟ならぬ

義姉妹なのだ。

『我等、同年同月同日に生まれずとも、願わくば同年同月同日に結婚せん。

…抜け駆けは無しよ?』

佐渡島さんご夫妻みたいな良い関係を築ける相手はそういるもんじゃない。

まぁ、当面は三人とも独身貴族だろう、多分、きっと、恐らく。

「エルフ程じゃないにしろ人間(ヒューム)の年齢はよう解らんが、見た処、

適齢期じゃろうに。

行き遅れた冒険者みたいな事を言うんじゃのう。」

「失礼ねぇ、()()()は男女問わず結婚は年々遅くなる傾向だし、

そもそも結婚しなくても生きていけるのよねぇ。」

…強がりじゃないぞ、本当だぞ。

「そういうおっちゃんはどうなのよぉ?」

あ、奥さんいるんなら、あんまり()()()に呼ぶのも悪いかしら?

「まぁ、儂もまだ結婚はしとらんがの?」

それこそかみさんがおったら、異種族とは言え女子(おなご)の部屋にそうそう

来れる訳がなかろうて、とおっちゃんは笑う。


ちょっと気になった事を聞いてみた。

「おっちゃんはどんな女の子が好みなのかしらぁ?」

「そうさのう…優しくて、気立てが良くて、笑顔が可愛くて…」

うんうん。

「ふくよかで、肉付きが良くぽっちゃりとして…」

…うん?

頬髭(ほおひげ)が立派だったりしたら最高なんじゃがのう。」

……。

『髭』かーっ。

流石ドワーフ、人間とは基準が違うのねぇ。

これが異文化コミュニケーション。

「…さ、参考になったわ、ありがと。」

「いやいや、どういたしまして、じゃ。」


 まぁ、(しばら)くは良い飲み友達としておっちゃんを招こうじゃないか。

外には連れて行ってあげられないけど、出来れば信用出来るお友達、

桂華ちゃんや桜子ちゃんは紹介したいな。

…まさか誰かおっちゃんとお付き合いや結婚する、なんて事はないわよね?

うん、ないない。

そもそも私達、『髭』ないし。


『ニッカ フロムザバレル』でした。

定価は¥3,200(税別)なのですが、現在はプレ値でほぼ倍くらい。

そもそも店頭で見かける事がありません。

ひと昔前はスーパーで普通に定価販売してたんですが…


そのひと昔前に買った一本を大事に大事に飲んでおりましたが、

今回の執筆にあたってテイスティングを行い、いよいよ残りが少なくなりました。

仙台乃至北海道のニッカ工場でなら定価で購入出来る様ですが、

そもそも工場見学の予約と旅行費ががが。


代替品として期待された『フロンティア』も悪くはないのですが、

決して代替品とはなり得ない、あれはあれで『フロンティア』として

確立している感じです。

その『フロンティア』も一時期は出回りが無くなる等、国産ウイスキーは

まだまだ消費者にとって受難の時期が続く様です。

転売ヤーの買い占めに伴う品薄と原酒不足による価格の高騰が悪循環に

なっている様に思えてなりません。

許すまじ、転売ヤー。


城内は転売ヤーの撲滅を強く強く願っております。

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