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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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5/14

番外編 『わーくにのお酒』 獺祭(純米大吟醸 磨き三割九分)

今回は番外編、日本酒から『獺祭』の紹介です。

ヴァインのおっちゃん、日本酒はお口に合うでしょうか?

 『…只今(ただいま)の時間を持ちまして、

第107回カトゥーンマーケットを終了致します。

皆様、良いお年をお迎え下さい!』

有明の大会場内にアナウンスが流れ、場内の参加者達が一斉に拍手する。

私、飲酒盃小町(いさはいこまち)の1年が今終った。

私のクリスマスも大晦日(おおみそか)もこの日があってこそなのよ。

私は()()()()()()()ヲタクだから、冬に実家に帰る、なんて選択肢はない。

そもそも実家は秋田の雪深い山間地、むしろ冬は帰って来るなと念を押されて

いる。

大手を振って『カトケ』を満喫(まんきつ)出来るってもんよ。


 「…小町ちゃんも桜子ちゃんもありがとうね。

今回も助かったかしら。」

ニコニコ顔で声を掛けて来るのはお友達の酒匂桂華(さかわけいか)ちゃん。

大学時代に知り合って、今は職業漫画家さん。

毎回『カトケ』にも出展していて、私達に売り子や買い出しのお手伝いを

頼みがてら、サークル入場のチケットを送ってくれる。

「どういたしまして、私達こそいつも『サークル入場』出来て

助かっているのだわ。」

答えるのはやはり大学時代からのお友達、御酒本桜子(みきもとさくらこ)ちゃんだ。

雑誌やWebでライターをしている。


 そう、桜子ちゃんの言う通り、『サークル入場』はすごい恩恵がある。

何せ『カトケ』は日本はおろか世界最大のヲタイベント。

一日当たりの参加者は軽く10万人を超えるのだ。

一般入場は朝から並んでも会場に入るまで1時間、2時間とかかる。

ここ数年の夏は地獄の暑さだし、冬は冬で寒かったり無駄に暑かったりと、

待機列は苦行と言っていい。

初めから会場内のサークルスペースに入ってまったり、私と桜子ちゃんは

開場から1時間ほどでお目当ての買い物と頼まれた買い出しを済ませ、

後はお互い交代しながら駄弁(だべ)りつつ売り子をこなす。

理想的なカトケタイムを過ごせるのは全部桂華ちゃんのお陰。

足を向けて寝られないわぁ。


 ともあれ、閉会宣言の後とあって、周囲も皆片付けを急いでいる。

私達もてきぱきと荷物やらゴミやらをまとめ、後は撤収(てっしゅう)するばかりだ。

「さて、今年も一年お世話になったかしら。

二人とも良いお年を!」

「ええ、お疲れ様だったのだわ。

良いお年を!」

「良いお年を! その内また飲みましょうねぇ?」

私達は三者三様に挨拶(あいさつ)を交わし、充実した表情で会場を後にしたのだった。


・・・


 電車で人波に揉まれ、()()うの(てい)で家へと帰り着いた私。

流石に大量の本を抱えてバイクの運転はしたくない。

『薄い本』ってどうしてこんなに重いのかしら。

荷解きも早々に下着姿になり、ミネラルウォーターを飲みながら、お風呂の用意。


 そういえば、押し入れの収納BOXは別の部屋に移したわ。

何故か?

私の部屋の押し入れは、ある日突然異世界に繋がってしまったからである。

押し入れの向かって右の(ふすま)を開けると、異世界のドワーフ、

『ヴァイン・ファス』というおっちゃんの住む洞窟がぽっかりと現れる。

左を開けると元の押し入れのままだから、中身を取り出して場所を移すのは

そう手間でもなかった。

何せ私は家の中では屡々(しばしば)裸でうろつく(へき)があるので、

うっかり押し入れを開けておっちゃんがいるとなかなかに気まずい。

おっちゃんも異種族とは言え目のやり場に困るそうだから、お互いの為に

必要な気遣(きづか)いよね、これは。


 熱いお風呂でリフレッシュして、部屋着に着替えるとおっちゃんを呼ぶ。

「おう、来たぞい…何じゃ、お疲れの様じゃな?」

「一年の()(くく)りだったから、それなりにねぇ?

こっちは今日が『年越し』なのよぅ?」

成程(なるほど)のう。

じゃが、お疲れのとこ、良いのかの?」

「いいのいいの。

年越しだから、ちょっと変わったもの食べてもらおうと思ったのよぅ。」

今日ばかりは料理はしない。

ちょっと奮発(ふんぱつ)して、良いお寿司の出前を取ったのだ。

「もうちょっとで届くから、まずはビールで乾杯しましょうねぇ。」

「そうかそうか、では遠慮なく頂くとしよう。」


・・・


 「これは…盛り付けは美しいが、生の魚じゃないのか?」

おっちゃんが(いぶか)しむ。

「『お寿司』って言ってね、わーくにでは高級料理なのよぅ?」

「嬢ちゃんが出すもんだから間違いはないんじゃろうが…

(わし)らんとこでは、生の魚は食うたらいかんと言われとるぞ?」

あ、()()()でも川魚は生、駄目なのね。

うっかり川魚で真似されたらえらい事になるとこだわ。

なら、話は早い。

「そうねぇ、()()()でも川魚は煮るなり焼くなり、火を通さないと駄目よぉ?

でもこれは海の魚だし、長い歴史のある料理だから、心配ないわぁ。」

わーくにの科学・医学・薬学は生ものを新鮮で美味しく安全に食べる為に

発展したと言っても過言ではない!…多分。


「海かぁ…儂は行った事はないが、漁港のあるとこだと生魚を食べる

なんてのも聞いた事があるのう…」

恐る恐る(はし)を伸ばすおっちゃん。

「小皿にお醤油入れて、お好みで山葵(わさび)()いてねぇ?

お魚の(あぶら)がすっきりするわぁ。」

「どれどれ…ほう、生の魚というのは、こういうもんかぁ…

おぅ!…つんと来た、鼻につんと!」

「うふふ、悪くないでしょお?

ビールで流し込んじゃいなさい。」

空いたジョッキにビールを注ぐ。

「ほう、ほう!…辛かったのう、じゃが美味い!」

「それにしても、お箸使うの上手になったわねぇ。」

「そうじゃろ? いっぱい練習したからの。」

おっちゃんは自慢げだ。


ある日の食事中、私の手元や口元をじっと見ているもんだから何かと思ったら。

「随分器用に使っとるが、その棒っ切れは何なんじゃ?」

「あぁ、これね?

これは『お箸』って言うのよぉ?」

慣れると便利に使えるのだと、タブレットで動画を見せてあげたら

向こうに帰ってからも熱心に練習したらしい。

おっちゃんの手に合わせて太めの鉄木(てつぼく)箸を用意してあげたら

気に入った様で、随分と喜ばれた。


「最近の年末はテレビもあんまり面白くないのよねぇ。

映画でも観るぅ?」

「そうじゃのう…あぁ、あれが良い。

『すりーでーあにめ』という奴、見せてくれんかの?」

絵とも実写ともつかない、何とも不思議な感じがおっちゃんの琴線に

触れたらしい。

「分かったわぁ、取って置きよぉ?」

私は名前を言ってはいけない()()会社の、最近二作目が絶賛上映中の

()()をチョイスし、デッキに円盤を差し込んだ。


・・・


 「いやぁ、『映画』って本当に面白いもんじゃのう。

まるで生きとる様に動くのに、あれが絵だとはのう…」

何時しかお寿司も食べ終わり、お茶を(すす)りながらおっちゃんが感想を漏らす。

「もう少ししたら、お夜食にお蕎麦(そば)()でるわねぇ。

わーくにでは、大晦日(おおみそか)…一年の終わりの日にお蕎麦を食べる

習慣があるのよぉ。」

「ほう、何か(いわ)れがあるんかの?」

「『細く長く』で長寿を願ったり、『切れやすい』から古い厄災(やくさい)を断ち切って

新年を迎える為の縁起物(えんぎもの)って言われてるわねぇ。」

「成程のう。」

「で、お蕎麦を食べたら、今日はわーくにのお酒、飲んでみない?」

「ほう、この国の?」

「えぇ、普段はウイスキーだけど、年越しにはわーくにのお酒…

『清酒』とか『日本酒』って言うんだけど…を飲むのが私の習慣なのよねぇ。」

お蕎麦とウイスキーはあんまり合わない気がする。

故に日本酒、これが私のジャスティス。

「そう言えば、()()に来て飲んだのは『びーる』と『ういすきー』か。

肝心の()()()の酒は飲んだ事がなかったんじゃのう。」

「ちょっと良いお酒を買ってあるのよぅ、楽しみにしててねぇ?」

テレビのチャンネルを年が行ったり来たりする間に神社やお寺を映す番組に

合わせ、私は台所でお蕎麦の用意を始めた。


・・・


 「お待たせ、これが『年越し蕎麦』よぉ。

お好みで七味をかけてちょうだぁい?」

私は海老天とかまぼこに、ネギの入ったお蕎麦の(どんぶり)を並べる。

テレビでは良い感じに除夜の鐘が鳴っている。

「この何とも言えん、『ごぉ~ん…』と鳴る鐘が異国情緒(いこくじょうちょ)(あふ)れとるのう。」

おっちゃんはしみじみと(つぶや)きながらお蕎麦を啜る。

「出来たら初詣(はつもうで)…新年の御参りなんかに案内したいとこだけど、

こっちの世界にはドワーフなんていないから、大騒ぎになっちゃうのよねぇ…」

おっちゃんに折角の外の世界を見せてあげられないのは残念だ。

「外を見たいのは山々だが、この部屋だけでも得難い経験ばかりじゃぞ?」

贅沢を言えば切りがないしの、とおっちゃんはあまり気にした風でもない。

「そう言ってもらえると有難いんだけどねぇ…」


 さて、お蕎麦も食べ終わった。

ここからは飲みの時間よ…!

冷蔵庫で程よく冷やした瓶を取り出す。

「飾り気ないが、美しい瓶じゃの。

()()()の酒瓶という奴はどれを取っても興味深い…」

グラスを二つに、()()胡瓜(きゅうり)と白菜の浅漬け。

「『獺祭(だっさい)純米(じゅんまい)大吟醸(だいぎんじょう)磨き三割九分』よぉ。」

花冷えの酒をグラスに注ぐ。

「ほぅ…花の様な果物の様な…梨かメロンの香りか?…おぉ、蜜の様な甘さじゃ。

水の様にすぅっと喉を落ちていく…じんわりと腹から温まって来るのう。

甘露(かんろ)じゃ、これは甘露じゃわい…!」

うっとりと味わうおっちゃん。

「素敵でしょぉ?

わーくにのお酒はお米から作るんだけど、上等なワインみたいよねぇ。」

「なんと、米って、あの、ご飯よな?

米で酒を造ると、これ程の味わいになるのか…」

「お米を削って…『磨く』って言うんだけど、お米の芯の上等な部分だけを使って

仕込むのよぉ?

これはお米の39%まで精米してるんだけど、もっと上等なのは23%まで

削り込むそうよぉ?…残念だけどそっちは売り切れてたわぁ。」

「なんと、あの小さな粒を更に削ってか!

贅沢の極みの様な酒よなぁ…」

「贅沢よねぇ、でもその手間暇に見合った味わいよねぇ…

いつかは『磨き二割三分』も飲んでみたいわぁ…」

あての白菜をぽりぽりと(かじ)る。

適度なしょっぱみと水気が心地よい。


「この『獺祭』や『越乃寒梅(こしのかんばい)』は『冷や』が美味しいんだけど、

燗上(かんあ)がり』って言って、温めるのが美味しいお酒もあるのよねぇ。

私の地元のお酒がそうなんだけど、こっちもいつか飲みたいわねぇ。」

『天寿』『鳥海山』『雪の茅舎』…(しばら)く帰ってないし、地酒もいつか

おっちゃんに飲ませてあげたいわ。

「『ういすきー』のお湯割りも良いもんだったが、『せいしゅ』も飲み方の

奥が深いんじゃのう。

まっこと、こちらの世界の酒は飽きる事がないわい。」


 『…2026年、新らしい年の始まりです!』

テレビでは花火が上がり、新年の到来を告げている。

今年も良いお酒が飲めます様に…!

番外編ではウイスキー以外のお酒を紹介させて頂きます。


『獺祭』、一頃に比べると買い易くなりましたが『磨き二割三分』は

流石に売り切れが多く、今回も買えませんでした。

いつか飲んでやる、そしてレビューしてやる…!

『越乃寒梅』は昔は幻のお酒とまで言われておりましたが、

近年は随分入手し易くなりました。

城内の地元、秋田のお酒は辛口で燗上がりするものが多い様に思われます。


『名前を言ってはいけないあの会社の、最近二作目が絶賛上映中のあれ』

えぇ、『ズートピア』ですね。

城内はケモナーの名に恥じず、あれは大好きな作品で超観たいのですが、

字幕で観たいので円盤待ちです。

…五月頃か、待ち遠しいのぅ。


城内は日本酒も大好きです。

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