『永遠のスタンダード』 ジョニーウォーカー(レッドラベル/ブラックラベル)
今回は世界に冠たるスコッチの定番、『ジョニーウォーカー』です。
おっちゃんの感想や如何に?
今日も今日とて私、飲酒盃小町は仕事の帰り。
世間はクリスマスで浮かれてるけど、私のクリスマスは『今』じゃない。
来るべき年末に有明の大会場で行われるヲタクの祭典、その名も
カトゥーン・マーケット、略して『カトケ』。
私のクリスマスも大晦日もそこにある。
私の部署は仕事柄、持ち回りで休日対応があるのだけど、
『カトケ』合わせで確実にお休みを取りたいから、今の私は仕事に全振りよ!
とは言え、週末にはちょっとした心の潤いが欲しくなるのも事実。
オンオフの切り替え、メリハリは大事よね。
…そう言えば、『おっちゃん』にカレーを作る約束をしてたんだっけ。
『おっちゃん』と言うのはちょいちょい私の家に来るドワーフのおっちゃん。
名前を『ヴァイン・ファス』と言う。
ある日私の家の押し入れと、ヴァインのおっちゃんの住む洞窟が
何故か繋がった事から異世界交流が始まったのだ。
「…それじゃぁ、ちょっと寄り道ねぇ。」
私はキュンとアクセルを捻り、深夜営業のスーパーへとバイクを走らせた。
・・・
「おう、来たぞい。」
押し入れの奥からおっちゃんがやって来た。
「今日はお待ちかねの『カレー』よぉ。
ビールでも飲んで待っててねぇ?」
炊飯器を仕掛け、切った肉や野菜を炒めながら声を掛ける。
「おぉ、ついに『カレー』が食えるのか!? 楽しみじゃのう!
あの『コマーシャル』というのは実に美味そうだったからのう!
…では、テレビ見せてもらうぞ?」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、リビングへ向かうおっちゃん。
最近はアニメがお気に入りの様だ。
初めてアニメを見た時の食い付きはすごかった。
「だって、だって『絵が動く』んじゃぞ!?
こんな不思議なもの、一生に一度だって見られるかどうか…」
目を真ん丸にして、食い入るように画面を見つめるおっちゃんの姿は
大きな子供みたいで、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったわ。
髭もじゃだけど。
おっちゃんは何でも喜んで見るんだけど、今は特に宇宙ものがお気に入りみたい。
巨大な戦艦で宇宙の彼方へありがたいお経ならぬ、
放射能除去装置をもらいに行くあれである。
意外な事には特撮やファンタジー作品も楽しんで見るのよね。
魔法がある世界の人だし『こんなのは紛い物』って言われるかと思ったんだけど、
「街中で魔法を使うなんぞ、意味もなくやったら警吏に捕まっちまうぞ?
それに大戦や大事件がばんばんある訳もなかろう?」
お芝居なんかはあっても派手な演出や大掛かりな舞台装置が
そうそう使えるでもなく、意外に地味らしい。
特撮はおっちゃんの世界でも滅多に見られない大魔法みたいなものだし、
ファンタジーはこっちで言う時代劇や大河ドラマを見る感覚なのだそうだ。
おっと、手が止まってる…さぁ、私もとっとと料理を作ってしまおう。
・・・
今日の献立はポークカレー、付け合わせは揚げ焼きなすの煮浸しに、
トマトとモッツァレラチーズのサラダをチョイスした。
今回もご機嫌な夕食ね。
そして食中酒にはこれもお決まりの、ウイスキーハイボール。
「…美味そうな香りじゃぁ、早よ、早よ!」
今にも涎を垂らさんばかりのおっちゃん。
「ウフフ、食べてごらんなさぁい…トぶわよ?」
大皿にご飯とカレーを盛り付けて、おっちゃんを見守る私。
早速一匙口に運んだおっちゃんの動きが止まる。
「…ほう、ほう!辛い!! 辛いが…美味い!!」
「取りやしないからゆっくり食べなさいねぇ。
あんまり辛い様なら間にサラダ食べるなり、ハイボール飲むなりするのよぅ?」
「美味い!辛い!美味い!!
幸せじゃぁ、幸せの味じゃぁ!!」
「大袈裟ねぇ。
お替りもあるから、たんとお食べなさいねぇ?」
異世界交流のお約束、カレーの洗礼は大成功といった処だ。
大体、向こうでは貴重であろう、スパイスをたっぷり使った上に、肉や野菜の
旨味がしっかり溶け込んだ料理だもの、美味しくなくてどうしましょうだわ。
おっちゃんはこの後二杯もお替りをして、お鍋のカレーはしっかり片付いた。
食べっぷりが良いのは見てて気持ちいいわねぇ。
・・・
「いやぁ、実に贅沢をした!
美味かったのう、ご馳走さんじゃぁ。」
満足げに微笑んで御馳走様をするおっちゃん。
美味しいもの食べて美味しいお酒が飲めれば世の中は概ね平和なのである。
「どういたしまして、お粗末様でした。
今回は…『豚』って言って通じるのかしら、豚肉のカレーにしたんだけど、
『鶏』や『牛』、『羊』にシーフードなんかにも出来るから、
気に入ったならまた別のカレーも御馳走するわねぇ?」
「なんと、なんと。
あれ以上に違った味わいにも出来るのか!
楽しみが尽きないのう。」
「それじゃぁ、恒例の第二ラウンドへ移るわよぅ?」
グラスに氷、炭酸水、おつまみは軽めにクラッカーとクリームチーズでいいわね。
「おぉ、待ってましたじゃ!
今日の『はいぼーる』も前とは違う感じじゃったが、それかの?」
おっちゃんは私が取り出した瓶に興味津々だ。
斜めに『赤い』ラベルが貼られた背の高い、四角い瓶。
「えぇ、『ジョニーウォーカー』の『レッドラベル』って言うのよぅ。」
私は『ジョニ赤』をテイスティンググラスに注ぐとおっちゃんに手渡した。
「ほう…カラメルっぽい甘い香りと、僅かに煙っぽさ…
少し酒精のきつさがあるかの。
舌触りは…若干の油っぽい滑らかさに蜜の甘さと少しりんごの味?
胡椒の様なスパイス感…やはり酒精が舌を刺すのう。
だが、心地よい刺激じゃ…
『ぶらっくにっか』や『おーるど』より複雑さが増しとるか?
これも美味い酒じゃなぁ。」
おっちゃんはグラスの内側をオイルの様に滴るウイスキーの筋を眺め、
感想を漏らした。
「お見事ねぇ、これは『スコッチ』って言ってね。
こちらの世界には『世界五大ウイスキー』と言って、スコッチ、アイリッシュ、
アメリカン、カナディアン、ジャパニーズ…五つの国や地域のウイスキーが
特に有名なの。
『スコッチ』はその中でも最も歴史と知名度のある代表格の一つなのよぅ。」
言いながらタブレットで地図を見せたのだが、突然おっちゃんがぎょっとする。
「おい! こんな精巧な地図、何故お前さんが持っとるんじゃ!?
と言うより、儂に見せて大丈夫なのか!?
ばれたら役人に捕まるぞ!!」
何を言ってるのかと思ったけど、あぁ、地図って歴史的には軍事機密なのか。
「こっちの世界では誰でも見れるし、本屋とかで買う事も出来るわぁ。
何なら、子供は学校で地図帳をもらえたりもしたわよぅ?」
私は苦笑しつつ説明する。
地図帳…私の頃は中学か高校でもらえた気がするけど、
今の子供達はどうなのかしら?
「なんと…これ程貴重な情報を、子供でも、か…」
「えぇ、だから安心して見ても聞いてもいいのよぅ。
で、スコッチなんだけど、この『ジョニーウォーカー』は世界で一番飲まれてる
スコッチなの。
だから、今日は『定番』の味を知って欲しかったって処かしらぁ?」
「世界の基準になる味か…成程のう。」
「そうよぅ?
これは色んなウイスキーを混ぜて作った、『ブレンデッド』って言うんだけど、
この『赤ラベル』は大体3年から8年、10年ものくらいまでかしら?
樽に詰めて熟成した原酒を使っててねぇ…」
『熟成』と聞いて、おっちゃんは途端に顔を顰める。
「熟成?
折角の酒を何年も寝かせておくとか、エルフ共みたいな、
まだるっこしい事をするんじゃのう…
奴等のワインも悪くはないが、酒は造ったら直ぐ飲むもんじゃろうに。」
あ、やっぱりドワーフはエルフと仲良くないんだわ。
それに、ドワーフの『火酒』って有名だけど、この口振りだと
焼酎やウォッカみたいな蒸留酒だと思われる。
そんで、造った側から飲むから、知ってはいても自分らのお酒は
樽熟成する概念がないのねぇ。
…呑兵衛め。
「そうは言うけど、『熟成』ってすごいのよぅ?
…これ飲んでみなさいな?」
私は斜めに『黒い』ラベルが貼られた背の高い、四角い瓶を取り出す。
「『ジョニーウォーカー』の『ブラックラベル』よぅ。」
『ジョニ黒』をテイスティンググラスに注ぎ、おっちゃんに手渡す。
「言う程違うのかのう、どれ…葡萄っぽい甘い香りと、バニラもあるか?
上品な煙っぽさ、香ばしいスパイス感…酒精のきつさがまるでない…
お味は、と…!?」
おっちゃんの言葉が止まる。
そう、それが『熟成』の力なのよぅ!
「…とろっとしたオイリーな滑らかさ、むしろクリームか?
蜜と果物の甘みに後から来る胡椒やシナモン、まろやかな酒精感と煙の余韻…
さっきの『赤らべる』と同じ系統なのに、はっきりと『格』の違いが分かる…!
これは何じゃぁ…何ちゅうもんを飲ませてくれたんじゃぁ…」
小振りのグラスを両手で大事そうに抱え、うっとりと味わうおっちゃん。
この表情、飲ませた甲斐があったわねぇ。
「すごいでしょ?
『赤ラベル』だって悪くはないけど、こちらに較べたら若くて荒々しい、って
言うのかしらね。
これが12年以上熟成された原酒のみで造った珠玉のスコッチよぉ?」
「うむ…『熟成』…しゅごい…」
「他にも美味しいウイスキーや面白いウイスキーは色々あるわよぉ?
でも、お墓の下まで持っていくウイスキーを一本だけ選べって言われたら、
私が選ぶのは、この『ジョニ黒』しかないわねぇ。
いつか必ず、これに帰って来る味なのよぅ。」
「…『そんなに』、か。」
「えぇ。
私には、『そんなに』よぉ。
永遠のスタンダードなのよぉ。」
「…いや、そう思うのも分かる。
美味しみがしゅごい…『熟成』…しゅごい…」
大丈夫かおっちゃん、語彙が減ってるぞ?
「それでねぇ、当然ロックやハイボールだと味わいが変わって来るのよぅ?
スモーキーさが強調されてねぇ…」
「!…おぅ、それは試さんと!
是非、試させてくれい!!」
宅飲みの楽しさに、仕事の疲れも溶けていく。
しっかりリフレッシュして、年末まで、もうひと踏ん張りよぅ!
『ジョニーウォーカー』、執筆にあたり改めて飲み比べしたのですが、
赤と黒では同系統でありながらはっきり違う。
そんな面白みが伝わればいいなぁと思います。
更に上位の『緑』や『金』、最上位の『青』。
緑 (15年)は手元に一本あるのですが、畏れ多くてなかなか開けられません。
いつ開けられるのかなぁ。
作中で小町ちゃんも言っておりますが、『ジョニ黒』は墓まで持っていきたい一本です。
城内は『ジョニーウォーカー』を愛して止みません。




