『夜が来る』 サントリーオールド
ニッカを紹介したなら次はサントリーですね。
今回は『サントリーオールド』です。
或る日突然異世界へ繋がった私、飲酒盃小町の自宅の押し入れ。
結論から言うと、それは今も繋がったままである。
押し入れの向かって右の襖を開ければ、相も変わらず
目の前には岩壁の洞窟が消える事無く広がっていた。
当面この状況が続くなら、順応して上手く付き合うしかないだろう。
私と洞窟の主、ドワーフのヴァイン・ファス…
もう『ヴァインのおっちゃん』で良いわよね、が改めて話し合い、
最初に決めた事。
それは『ホワイトボードの設置』だった。
当たり前だけど、お互いの伝言用ね。
百均で適当に買ってきたんだけど、おっちゃんにはそもそも
ホワイトボードやマジック自体、結構驚きの品だった様だ。
当たり前だけど、インクや紙は貴重品…
と言うか、そもそも向こうは紙と言えば『羊皮紙』なのが
ファンタジー世界のお約束。
どうやら黒板やチョークなんかもないらしいんだけど、それくらいなら
作り方はそんなに難しくないし、聞かれたら教えちゃってもいいかしら?
いくつか文字や数字を教えてもらい、
『○○日後に飲まない?』
『OK/ダメ、用事ある。××日後では?』
位の簡単な内容を書き込んだ。
数字は都度書き換えて、返事はマグネットでどちらかを選んで、
ダメな時は大丈夫な日を書いておく。
まぁ初めはこんなものでしょう。
何かあったら、お互い確認してルールなりを追加すればいいわよね?
何故こんな事を決めたのか?と言えば、先日の帰り際に『記念品』と言って
おっちゃんがくれた金貨…純金30グラムはいくら何でも貰い過ぎだ。
勿論、大事な記念品だし、売ったり換金する気はないわよ?
それにしたってこっちの価値では貰い過ぎだって説明して、
その分、時々お招きして、こっちの食事やお酒をたんまり
飲み食いさせてあげる事にしたのだ。
『おもてなしの国』の本領、見せてあげるわよぅ!
何より、基本ボッチ気質の癖に宅飲み大好きな私にとって、ゼロ距離・
徒歩ゼロ分で気軽に自宅に呼べる飲み友達なんて貴重もいいところなのよ!
絶対に逃がしはせぬぞ…!!
こうして、私達の奇妙な異世界交流は始まったのだ。
・・・
「おぉ、さぶいさぶい…この部屋は火もないのにあったかいのう。」
今日も今日とてヴァインのおっちゃんを招いての宅飲みである。
そりゃ、この部屋はエアコン効いてるからね、あったかい。
仕組みは、『熱交換』がどーたらこーたら…流石に説明出来ないわぁ。
「そっちも冬なのねぇ。
こっちも外は寒いわよぅ?
まぁ、あんまり雪は降らない土地柄なんだけど。」
「ほう?
どれどれ…うん、さぶいの。」
ベランダを開けて納得するおっちゃん。
「今日はお鍋にするわね、あったまるわよぅ。
出来上がるまで、冷蔵庫のビールでも飲んで待っててねぇ?」
良くしたもので、おっちゃん、トイレやお風呂、冷蔵庫にテレビなんかは
もう使い方を覚えてしまった。
「おぉ、ビールあるのか、ありがたい。
…『おすもう』! 『おすもう』見せてくれ!」
おっちゃんはテレビを見る内に相撲が気に入った様である。
最初は「なんじゃ!こっちの世界には『ドワーフ巨人』がおるのか!?」
と大騒ぎだった。
何よ、『ドワーフ巨人』って…
お陰で取りあえず相撲中継は録画しておく様になった。
手酌でビールを飲りながらテレビに見入る姿は、まんま中年親父よねぇ。
今日のお料理は鶏の水炊き。
付け合わせはツナサラダと高野豆腐の卵とじにしてみた。
後は白いご飯があればご機嫌な夕食だわ。
そして、勿論食中酒にはハイボール。
「おほぉ。
これもシェリー樽の香りかの?
どれ、お味は…上等な葡萄酒をソーダ水で伸ばしたみたいな感じか?
爽やかじゃのう。
こないだの赤い瓶…『りっちぶれんど』?に似とるが、ちと違うのう。」
「やっぱり鼻も舌もいいわねぇ。
でも、答え合わせはご飯の後で、ね?」
「うむ、まずは飯じゃな…これは何じゃ?
『醤油』とはちょっと違う様だが…すっぱ!?」
そりゃ、『ポン酢』舐めたらすっぱいわよねぇ。
「あぁ、それは『ポン酢』って言ってね?
煮えたお鍋の具をその器に入れて味を付けるのよ。」
好い具合に煮えた具をよそってあげた。
「折角の具にこんなすっぱいのを絡めて大丈夫かのう…おぉ、美味い、美味い!」
「良い出汁が取れてるでしょ?
鶏の骨と、昆布…干した海藻から旨味が沁み出してるのよぅ。」
お鍋の味には満足頂けた様で何より。
二人は暫し鍋を囲んで大いに舌鼓を打ったのである。
・・・
「ふぅ、食うた食うた。
『水炊き』とやらも、実に美味かったのう。」
「それは良かったわぁ、お粗末様でした。」
鍋はきれいに片付いて、第二ラウンド、本格的な『飲み』へ移る二人。
「では『答え合わせ』といきましょうか…今日のはこれよぅ。」
私はごろんとした真っ黒い瓶を取り出す。
「むぅ…何とも趣のある瓶じゃのう…」
「面白い形でしょ?
『サントリーオールド』って言うのよぅ。」
この間はニッカを飲んでもらったから、今回はサントリーを飲ませたかった。
わーくにの二大メーカーだから、当然飲み比べしとくべきよね。
テイスティンググラスに琥珀色の液体を注ぐ。
「この、トクトクいう音がええのう…」
「いい音よねぇ…まずはストレートでどうぞ。」
おっちゃんは早速グラスを口元にもっていく。
「ふむぅ…シェリー樽と、花の香りか?
華やかさと落ち着きが混ざり合って…蜜の様な甘さに葡萄の渋みと…
お、後味に微かなチョコレートっぽさが…」
本当におっちゃん、いい舌持ってるわねぇ、飲ませ甲斐があるわぁ。
「氷を落とすと、また表情が変わるわよぅ?」
言いながらグラスに氷を一個落としてあげる。
「ほうほう…シェリーの香りがすっと落ち着いたの。
甘みが抑えられて、ビターさが強調されたのう。
それに…言っては何じゃが、『ぶらっくにっか』より
舌を刺す様な酒精の刺激が穏やかじゃないかの?」
「そうねぇ、どちらも庶民が普通に買えるお値段ではあるけど、
『オールド』の方がちょっと高級感あるかしらねぇ?」
「こんな良い酒を庶民が普通に、か…良い世界なんじゃのう…」
おっちゃんの言葉に、ちょっとドキッとする私。
何でもなく言っただけなんだろうけど、考えさせられちゃうわね。
大した事は出来ないけど、差し当たり、おっちゃんには飲み友達として
居心地の良い空間を提供出来る私でありたいわ。
・・・
「このお酒ね、『だるま』とか『たぬき』ってあだ名があるのよぅ?」
おっちゃんにタブレットで画像を見せながら蘊蓄話に興じる私。
「成程のう、この愛嬌がある形を親しみのあるもんに例えとるのか。
巧いもんじゃ。」
「こっちの歴史で1950年誕生って言うから、もう75年も親しまれて
来たのよねぇ。
そうそう、このお酒のCMソングもあるのよぅ?」
「CMソング、とな?」
略語は念話の魔法でもちょっと難しいみたい。
「えーと…このお酒を売る為に作った、宣伝の歌ね。
テレビ見てると、時々商品やなんかの宣伝、入るでしょ?」
おっちゃん、合点が行った様で、ポンと手を打ち合わす。
「あぁ、あれか!
最初は何やら楽し気じゃが、よう分からんのが多かったが。
音楽に合わせて飲み食いして見せたりする、あれだな?」
カレーのCMを見た時は『儂にカレーとやらを食わせろ!』と大騒ぎだったのだ。
「そう、それ。
でね、いい歌なのよ、『夜が来る』って言ってね…」
私は言いながら、タブレットで動画を検索して渡す。
小林亜星さんの太い声でスキャットが流れ出した。
『…ダン・ダン・ディダン・シュビダドゥン♪~』
「ほぅ…」
おっちゃんはオールドを一口含んで目を閉じる。
「ウイスキーがじんわり沁みて来る様じゃわい…」
「じんわり沁みるって言えば、『オールド』はホット…お湯わりも
いけるのよぅ?」
「ほほぅ!
そりゃ是非とも試してみたいの!」
「少し蜂蜜を垂らしても美味しいの。
あったまるわよぅ?」
「蜂蜜か! 甘味は贅沢じゃ、贅沢じゃのう!」
お台所にポットと蜂蜜を取りに行きながら、私は思い出した。
「世の中には似た人が三人居るって言うけど、この『夜が来る』も、
似た曲が後二つあるのよぅ?」
「なんと。」
「えーと、何だったかしら…そう…『ワシントン広場の夜は更けて』と
『銀色の道』だったわぁ。」
私はおっちゃんにお湯割りを作ると、二曲を探して再生した。
『♪~』
「吟遊詩人の歌とは大分違うが、どれも哀愁がある、と言うのかの…
いい曲じゃのう。」
蜂蜜入りのホットウイスキーが部屋にふんわりと香る。
楽しい宅飲みの夜が更けていく。
歌詞 (なのかな、スキャットは)書いてしまったけどいいのかしら?
サントリーオールドの今は懐かしいCMソング、
名作曲家・小林亜星さんの『人類みな兄弟 (夜が来る)』からの引用です。
『ワシントン広場の夜は更けて』はヴィレッジ・ストンパーズのインストゥルメンタル。
『銀色の道』はザ・ピーナッツも唄っている様ですが、ここではダークダックス版。
三曲それぞれ YOU TUBE に動画がありましたので
ご興味のある方はそちらをご視聴下さい。
『ブラックニッカ』のライバルとしては『角』の方が相応しいかも知れませんが、
あちらはあちらで後日別途に回を設けたいので今回は『オールド』にしました。
城内は小林亜星さんを超リスペクトしております。
『サントリーオールド』も大好きです。




