『髭のおっちゃんとウイスキー』 ブラックニッカ(スペシャル/リッチブレンド/ディープブレンド)
ウイスキーレビューと銘打ったからにはレビューを入れねば
私の漢がすたる!
第二話、連続投下致します。
※2025/12/20 改題 (ちょっと付け足し)しました。
私、飲酒盃小町はリビングでちゃぶ台を挟み、
カラフルな宇宙人ならぬ、ドワーフのおっちゃんと向き合っている。
おっちゃんの名前は『ヴァイン・ファス』だそうだ。
50代の青年(!)で、宝石や貴金属加工の職人さんらしい。
おっちゃんから爺ちゃんになるまで、2~300年くらい生きるんだと。
えらい長命だな、ドワーフ。
左の頬っぺたが赤い。
私が引っ叩いたんだ、うん。
「…いきなり引っ叩かれるとは思わんかったぞ?」
頬をさすりながらヴァインのおっちゃんが私を睨む。
「だから、悪かったわよぅ…ごめんて。」
全ては不幸な行き違いだったのよ!
私は悪くない…悪くないかな?…悪くないかもね?
…まぁちょと覚悟はしておけ。
マンションと洞窟を境に出逢った私達、
それなりにすったもんだがあったのだ。
・・・
洞窟の奥から現れたドワーフのおっちゃんと無言で見つめ合う私。
ややあって、おっちゃんがこちらを指差して叫び始めた。
「qwせdrftghyじゅきぉ;p!!
あzsxdcfvgbhんjmk、l。;・!?」
…何言ってんのか分かんないわよぅ!?
日本語で喋ってよぅ!!
おろおろするばかりの私を見て、何事か思い当たったのか、
おっちゃんはごそごそとポケットを弄る。
ポケットから指輪を取り出すと、むにゃむにゃと呟いた。
指輪に嵌った宝石がポウっと光る。
「qzxwせrvtbyn…こんなもんで通じるかの?」
おっちゃんは流暢な日本語を話し出した。
「…あら、言葉が分かるの?
日本語話せるなら初めから話しなさいよぅ。」
「『ニホンゴ』ってのがお前さんの国の言葉かね?
そんなもん、儂ゃ知らんぞ。
これは『念話』の魔法よ。」
魔法!
『コモン・ルーンの指輪』って奴かしら?
便利な魔法があるのねぇ。
「お前さんが泥棒でないのなら、儂の洞窟で何をしとったのか
話してもらおうかの。」
「泥棒って失礼ねぇ。
何で私の家の押し入れが洞窟に繋がってるのか、私だって知りたいわよ。」
そしてお互いの情報交換と認識の擦り合わせが始まった。
結果…
・私の家の押し入れの襖が門になり、異世界同士が
繫がった。
・何で繋がったのか、どうすれば元に戻るのかは分かんない。
・異世界の門が繋がったり、異世界へ転移したり、といった現象は
(少なくともおっちゃん側の世界では)稀に良くあるらしい。
・取りあえずは現状を受け入れて、上手く付き合うしかないだろう。
という事が分かった。
てか、肝心な事はほぼ分かってないぞ、これ。
っくちゅん。
小さくクシャミする私。
そいや、結構長々と立ち話してたんだな。
湯冷めしちゃうわ。
そんな私におっちゃんが恐る恐る声を掛ける。
「で、ちょいと気になってたんだが…
嬢ちゃん、人間族の様だが服を着る習慣はないんかの?
なんぼ異種族っても目のやり場に困るんじゃが…」
え。
ちょちょちょ、ちょマテよ!?
私、真っ裸じゃないの!
真っ裸ばんじゃい仁王立ちじゃないのよっ!!
「い~~~やぁ~~~~~!!」
金切声を上げながら、私はついおっちゃんの頬っぺたを
思いっ切り引っ叩いてしまったのだった。
・・・
そんなこんなで、私とヴァインのおっちゃんはリビングでちゃぶ台を
挟んで向かい合い、現在に至るのである。
流石にもう服は着てるわよ。
Tシャツとハーフパンツだけど。
「異世界なぁ。
何に使うやら、見当も付かんものばっかりじゃわい。」
ヴァインのおっちゃんは、流石に物珍しいのか、しきりにキョロキョロと
部屋を見回す。
「あんまり女の子の部屋をジロジロ見るもんじゃないわよぅ?
秘密がいっぱいなんだから。」
冗談めかして言うが、下着とかその辺にほっぽってなかったよな、私。
「珍しいんじゃから仕方なかろう?
…そのでっかい姿見なんか、真っ黒で使いもんにならんだろう。」
姿見なんてないぞ?
って、あぁ、それか。
悪戯心を起こした私は徐にテレビのスイッチを入れた。
『…明日の関東地方のお天気をお伝えします…』
天気予報が流れる。
「わぁ!」
おっちゃんはビクゥ!として後退る。
期待通りのリアクション、ありがとう!
そりゃ、初めてなら驚くわよね。
「な、な、なんじゃこりゃ、魔法の鏡だったのか!?
…お前さん、本当は名のある魔法使いなのか!?」
「私は魔法なんか使えないわよぅ?
ちょっとそれ見て待っててちょうだい、ささっとお料理しちゃうから。」
そう、今日の飲み会では大して食べもしなかったから、私はお腹が空いている。
「折角だからご馳走するわよぅ?
それに…ドワーフって、好きなんでしょ?『お酒』。」
・・・
ちゃぶ台に所狭しと並んだ料理の数々。
熱々のスープパスタ。
刻んだベーコンをまぶした野菜サラダ。
たれと塩の焼き鳥に、牛肉コロッケはレンチンだけど、ご愛敬ってもんよ。
おっちゃんがゴクリと喉を鳴らす。
「儂には分かる…これは美味い…絶対美味い…」
「まぁ、美味しいのは保証するわよ?
それじゃ、乾杯しましょ。」
渡されたジョッキを見て、おっちゃんの目の色が変わった。
「ガラスのジョッキじゃと!
なんと豪奢な…それに氷をこんなたっぶりと入れて…
贅沢じゃぁ…贅沢の極みじゃぁ…!」
「やぁねぇ、大げさよ?
それじゃ、かんぱ~い!」
チンッ
軽くジョッキを合わせた音を合図に、奇跡のカーニバルの始まりよぉ。
「うぉぅ!
何じゃこれ!?
エールよりピリッとして爽やかで、澄んでるのに複雑な味わいで香り高くて…
何じゃ、この酒は!?」
「これはねぇ、『ウイスキー』のソーダ割り…『ハイボール』っていうのよぉ?
まずはご飯食べながらだから軽めにしたわぁ。
食べ終わったら『ストレート』や『ロック』も飲ませたげるから楽しみにしてねぇ?」
「うほっ、そいつぁ楽しみじゃの!
料理も実に美味いのう!美味いのう!!」
『念話』というのは便利なもんで、双方で共通の意味・概念があれば
相手の知っている言葉になって伝わるらしい。
一方だけの固有の概念だった場合はまず単語だけが伝わり、
段々意味が補完されるのだそうな。
上の例だと『ウイスキー』はおっちゃんにとっては新しいお酒の概念。
『ハイボール』『ロック』『ストレート』は飲み方だから意味も伝わるみたいね。
翻訳いらずで羨ましいわぁ。
おっちゃんはニコニコしながらモリモリ食べる、そして飲む。
ご馳走した甲斐があるってもんよねぇ。
…待て、私の分まで食おうとするな、それは私の皿だ。
この、いやしんぼめっ!
暫し一心不乱で食事に集中する私達だった。
・・・
「いやぁ、ご馳走になった。
何とも贅沢をしたわい。」
満足げにお腹をさするヴァインのおっちゃん。
「そりゃ良かったわぁ、お粗末様でした。
でも、言う程贅沢でもないでしょぉ?
そっちでも小麦は食べる様だからパスタなんかはあるでしょうし…」
「いやいや、パスタのスープ一つ取っても雑味がないのに複雑な味わいじゃし、
野菜も甘味が強く、その上瑞々しい。
それに『ころっけ』と言ったか。あんなに惜しみなく油を使って揚げた料理など、
王侯貴族でも口にした事があるとは思えんぞ?」
「お世辞でも嬉しいわねぇ。
ヴァインのおっちゃん、ありがとうね。」
まぁ、真っ当に褒められて気を悪くする奴はいない、多分。
「それじゃ、お楽しみの『ウイスキー』、飲んでみる?」
「それよ!
薄めた酒があれ程美味いんじゃ、生のままで飲んだらどれ程美味いか!」
「食いつき良いわねぇ、ちょっと待っててねぇ?」
片付いたちゃぶ台に改めてグラスや氷、炭酸水、おつまみにクラッカーとチーズを用意。
そして、三本のボトルを並べていく。
「おぉ、なんと薄いグラスじゃ。
この瓶もガラスか?…削ったり磨いたりした跡もない…
どうやって作ったのか皆目解らん…」
「熱して溶かして、鋳型に入れて空気を吹き込むらしいわよぉ?
気になるなら後で調べてあげるわぁ。」
安請け合いだけど、多分ネットに動画とかあるだろ。
まずは飲みだ、飲み。
「黒いのが、『ブラックニッカ・スペシャル』
赤いのが、『ブラックニッカ・リッチブレンド』
青いのが、『ブラックニッカ・ディープブレンド』よぉ。
瓶のラベルのおっちゃん、
『キング・オブ・ブレンダーズ』て言うんだけど、
ヴァインのおっちゃんにそっくりよね?」
言いながら、ティスティンググラスにそれぞれ注ぎ分ける。
「えぇ、そんな似てるかのう…」
ちょっと困った様に笑いながら、まずはリッチブレンドを口元に運ぶおっちゃん。
「ほう…華やかな香りだの…甘い…ベリーや葡萄っぽい感じが…
あ、段々バニラも香って来た…」
「良い鼻してるわねぇ。
葡萄酒…ワインがあるならシェリーも分かるわよね。
シェリー樽で熟成してるのよぅ。」
「成程のう…あぁ、軽い口当たりじゃ、甘くてするっと飲める。
さっきの『はいぼぉる』はこれかの?」
「正解よぉ。
軽くて甘めで、私はこれ好きねぇ。」
おっちゃん、次はディープブレンドを選んだ。
「これは…落ち着いた、草木っぽい香りかのう?
味は重いと言うか、芯があると言うか…煙っぽさもあるか?
深みのある味わいだのう。」
「ウッディさと少し泥炭…ピート感があるのがいいわよねぇ。
飲み口は私にはちょっと重いと言うかきついかしらぁ。
私は専らハイボールにしてるわぁ。」
トリはスペシャルだ。
「これは…上品な果物感のある甘い香りじゃのう。
味は…おぉ、甘さと苦みが喉に落ちていく…あぁ、鼻にバニラが抜けて来よる。
ええのう!これはええのう!!」
「鼻だけじゃなく舌も良いわねぇ。
ロック…氷を入れるとストレートとはまた表情が変わるのよぅ。
香りや甘味は抑えられて、ビターさやコクが強調されるわぁ。」
「ほうほう、そりゃ是非とも試したいの!
どれどれ…」
二人の吞兵衛はそれぞれの酒でストレート・ロック・ハイボールを試し、
特に気に入ったのはお替わりし、楽しい宅飲みの夜は更けていった。
・・・
「いや、すっかり世話になってしまったの。
そろそろ向こうに戻るとするか。」
真夜中も通り過ぎ、後数時間で空も白み始めると言う頃になり、
ヴァインのおっちゃんは名残惜し気に腰を上げた。
「ウイスキー、どうだったかしらぁ?」
「そうさのう…赤いのはちと軽いか。
青いのもいいが、黒いのは格別じゃった。
実に味わい深くて美味かったのう。」
「折角だから一本お土産に持ってく?
口開けてないのがあるわよぅ?」
宅飲み派故、ストックは潤沢なのだ。
備えあれば憂いなし、の心意気よ。
「いいんか!?
有難い、有難いのう!」
黒い瓶、スペシャルをお土産に持たされて、おっちゃんはホクホク顔である。
「貰ってばかりと言うのも気が引けるのう…
そうじゃ!
これをやろう、貰ってくれんか。」
おっちゃんはポケットから一枚の金貨を取り出し、私に手渡した。
直径3cm以上もある。
大きさもだけど、こんなずっしり重い硬貨初めて持った。
500円玉どころの重さじゃない。
「いいのぉ?
これじゃ私の方が貰い過ぎじゃないかしらぁ?」
「いやいや、いいんじゃよ。
金額じゃない、得難い体験をさせてもらった礼と言うもんじゃよ。」
「そう?
じゃあ遠慮なく頂くわぁ。
大事にするわね。」
「では、会えるもんなら、またな!」
「えぇ、また美味しいウイスキー飲ませてあげるわぁ!」
こうして、呑兵衛のドワーフ、ヴァインのおっちゃんは
押し入れの向こう側へ消えて行った。
・・・
後日、ふと気になって私はヴァインのおっちゃんに貰った金貨の
重さと比重を計ってみた。
ビーカーとデジタルの台秤があればざっくり計れるのよ?
本当に、価値がどうとかじゃなく、ただ何となく調べてみただけなのだが、
その結果…
「純金の含有量…30グラムだと…!?」
サーッと顔から血の気が引くのが分かる。
やだ!
馬鹿馬鹿、信じらんない!!
こんなの、貰い過ぎもいいとこじゃないのよぉ!?
分けると冗長になりそうだからって三本もまとめるんじゃなかった ('A`)
ブラックニッカの基本三種はまとめて紹介してみたんですが、この有様だよ!
次からは基本一本、飲み比べ回でも二本に留めたいと思います。
一話・二話の登場人物ですが、一応脳内のイメージがありまして…
・飲酒盃小町 (いさはい こまち):水銀燈 (ローゼンメイデン)
・ヴァイン・ファス (Wein・Fass):キング・オブ・ブレンダーズ
(ニッカウヰスキー)
・佐渡島 (さどがしま) 部長:ヤッタラン (キャプテンハーロック)
佐渡酒蔵 (宇宙戦艦ヤマト) オッチン (ピクミン)
・安藤 (あんどう) 係長:アドン/サムソン (超兄貴)
・茶良尾 (ちゃらお) 社員:ギャル夫 (2ch AA)
といった感じです。
次回以降はニ週間~一か月に一話ペースになると思います。
レビューである以上、実際に飲んで書くべきだと考えますので、
お財布と肝臓に相談しながら進めて参ります。
並行して別のシリーズ作品も準備中ですので、軌道に乗りましたら
一~二週間に一回はどちらかのお話を投下出来ると思います。
…出来たらいいな。
ご興味がありましたら、併せて前作『若きハドスン夫人の冒険
~如何にして彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~』
(完結済)もお読み頂けると小躍りして喜びます。
城内はウイスキー・ブラックニッカが大好きです。




