『モーターヘッド』 ジャックダニエル オールドNo.7
雨降りで外へ行けない小町ちゃん。
家で何やら楽器の練習中の様ですが、なかなか上手くいかない様で…
そんな小町ちゃんを尻目におっちゃんは何をしているのでしょうか?
ビヨ~ン♪
「あぁっもう…指が動かないのよ、この指が!」
へなっちょい音を立ててギターの練習をする私は飲酒盃小町。
今日も雨で外出するのも何だから、家でギターの練習をしているのだが…
はっきり言って、私のギターの腕はまだまだ下手っぴい。
気に入った曲のリフなんか、ちょっと弾けたらカッコいいわよねぇ、と
軽い気持ちで始めたエレキギター。
練習はしてるのよ、練習は。
だけど、なかなか上手くならないんだな、これが。
『F』よ! 『F』のコードが私を苦しめるのよっ!
大体初心者が躓くのが『F』に代表される『バレーコード』よね。
ギターを始めた人の内、約90%が一年以内に挫折すると言われてる。
指がしっかり動かない、弦がちゃんと押さえられない、とかは
挫折の要因でも上位に入る。
私は取りあえず一年は続いてるだけましな方かしらね?
まぁ、そんな熱心に毎日弾いてる訳じゃないけど、練習あるのみよ。
「嬢ちゃん、熱心なとこ悪いが、ちょいと静かにしてくれんかの?
音楽を聴いとるんじゃ。」
声を掛けて来るのは、異世界から来たドワーフ、ヴァインのおっちゃん。
「はいはい、悪うございました…どうせ私のギターは下手っぴいよぉ。」
おっちゃん、結構遠慮なくなって来たな…私のギターがあまりにも聴くに
堪えないって事はないわよね?…ないかな?…ま、ちょと覚悟はしとこう。
「何聴いてんのかしらぁ?」
おっちゃん、割とこっちの音楽は雑食で、ジャンルは問わず、
ロックやメタルも面白がって聴く。
リズムやメロディの珍しさもあるんだろうけど、エレキギターやベースの
歪んだ音、シンセサイザーの変幻自在な音色なんかは不思議で
しょうがないみたい。
そうよねぇ、向こうに電気楽器や電子楽器はないものね。
「このドワーフみたいな顔でエルフみたいな長身の男が、また渋い声で
唄うし、『べぇすぎたぁ』と言ったか?これも太い音で見事な演奏をしよる。」
どれどれ…タブレットを覗き込んで納得。
「そのグループは『モーターヘッド』っていう有名なロックバンドよぉ?
ヴォーカルとベースギターの男の人は『レミー・キルミスター』っていうの。
残念ながら、もう何年も前に病気で亡くなってしまったんだけど。」
「なんと、惜しい御仁を亡くしたもんじゃのう。」
「レミーが亡くなるまで四十年も活動してたんだから、息の長いバンドよねぇ。
イギリス出身のバンドなんだけど、レミーはスコッチじゃなく、
アメリカのウイスキーが好きでねぇ…」
色々記憶を辿る内に私はある事に思い当たった。
「あ、そうだ、今夜の飲みは、レミーに因んだウイスキーに
しましょうかぁ?」
「そんなのがあるんか…だが、『すぅぱぁ』に行くにもまだ結構降っとるのう。」
おっちゃんがカーテンを開けてくれたが、まだ結構雨足が強い。
「降ってるわねぇ…でもまぁ大丈夫、コンビニにもあるお酒だから。
もう少ししたら雨も弱まるみたいだから、それから出かけましょお?」
・・・
炊飯ジャーを仕掛けて、雨が弱まったところを見計らってコンビニへ。
あまり凝った物を作るより、すぐご飯にしたかったから、
お惣菜やら何やらを買い込んで来た。
勿論、ウイスキーと、忘れちゃならないレモンとコーラもばっちり。
家に帰った頃にはご飯も炊けていて、お惣菜をレンジや湯煎で温め
ちゃっちゃとテーブルに並べる。
今日は簡単で悪いけど…「「頂きます!」」
食休みにキムチをポリポリ齧りながらお茶を啜る。
おっちゃんは買ってきたウイスキーが気になる様子。
「今日の『ういすきぃ』は何じゃの?
何やら黒くてごつい瓶を買っておったが、さっきの話だと謂れが
あるんじゃろ?」
隠すつもりもないので、ボトルをテーブルにドン。
「これは『ジャックダニエル』…『テネシーウイスキー』って言うのよぉ。」
ごつい四角の瓶に黒いラベル、中で濃い紅茶の色の液体が揺れる。
「むぅ…ごっついのう…だが、趣のある形に、またいい色の酒が入っとる。」
「これも面白いお酒でねぇ、広い意味ではバーボンに入るんだけど、
人によってはバーボンって呼ぶと怒る事もあるわぁ。
『これはテネシーウイスキーなんだ!』ってねぇ。」
「何と。」
「前にバーボンのお話はしたわよねぇ、アメリカで作る、トウモロコシが
主な原料のウイスキーって。」
「うむ、覚えておるぞ、『ばぼ~ん』…『ばっふぁろおとれぇす』じゃったか。」
「そうねぇ、そこまではいいんだけど、アメリカの中でも、特に
テネシー州で、『チャコールメローイング製法』で作ったバーボンは
『テネシーウイスキー』って呼んで区別されてるのよぉ?」
「ちゃこ…何?」
「『チャコールメローイング』。
樽に詰める前に、蒸留した原酒を一滴一滴、サトウカエデの木炭で
濾過するのよぉ。
これが独特の滑らかな口当たりと甘みやほろ苦さ、風味豊かな味わいの
秘密なのよぉ。」
おっちゃん、一滴一滴濾過される雫を想像したんだろう、
聞いてる内に堪らなくなってきたみたい。
「まずは『すとれぇと』、『すとれぇと』で試させてくれぃ!」
誰だってそうなる、私もそうなる。
「はいはい、慌てなくてもお酒は逃げないわよぉ。」
私は苦笑しつつ、テイスティンググラスを手渡した。
「「かんぱ~い!」」
おっちゃんは乾杯ももどかしく、香りを確かめ一口啜る。
「どれ…軽くアルコールやエステルっぽい揮発感…だが刺々しさは
ないの…ほう! バニラかキャラメルっぽい甘さに焦がした様な苦みと
スパイシーさが後を引くわい!
複雑な味わいじゃが、雑味がなく澄んでおるのう。
これが『ばぼ~ん』とは一味違う、『てねしぃういすきぃ』か!」
「久々に飲んだけど、独特な味わいよねぇ。
あ、そう言えばテネシー州って面白くてねぇ?
昔アメリカでは『禁酒法』って法律があったんだけどぉ…」
「むぅ、『禁酒』とは聞き捨てならんのう?」
「1920年から1933年まで、アメリカでは消費の為の
お酒の製造・販売・輸送が全面的に禁止されたのよぉ。
密造酒なんか下水にだばーっと廃棄されたわぁ。」
「何と勿体ない!」
「で、その『禁酒法』なんだけど、何故か未だに有効な地域が残ってて、
ジャックダニエルの工場があるテネシー州のムーア郡もその一つなのよねぇ。
だから、ジャックダニエルはムーア郡の工場で製造・販売されてるけど
飲む事は出来ないんですってよぉ?」
「何ともおかしな法律もあったもんじゃのう。
儂ゃ、酒の飲めない土地には行きたくないわい。」
うん、おっちゃんはそうだろうと思ったわ。
「でね? ストレートもいいんだけど、『ジャックダニエル』は
他にも美味しい飲み方があるのよぉ。」
「? そっちの瓶で割るのか?…めんつゆかの?」
ぶっ。
いくら何でもウイスキーのめんつゆ割りはないわ。
「これはね、アメリカを代表する炭酸飲料で、『コカ・コーラ』って言うの。
百四十年も歴史があって、いろんなメーカーがコーラの真似をしたんだけど、
未だにオリジナルを越える味のコーラってないのよぉ?」
「こんな真っ黒いのが炭酸水なのか…どんな味がするのやら…」
「ちょっとコーラだけで飲んでみる? 美味しいわよぉ。」
グラスに半分程注いだコーラを渡してあげた。
「何じゃぁ、嗅いだ事のない香りがするぞい…どれ、お味は…」
おっちゃん、ちょっと目を丸くして驚いた。
「『こぉらぁ』と言ったか…いつもの炭酸水とは全然ちがうぞ!?
味が濃くて、コクがあって…カラメルっぽさとスパイスっぽいのは分かるが、
他は何の味なのか、さっぱり分からん…分からんが、爽やかで美味い!」
「CMで『スカッと爽やか』って言うだけはあるわよねぇ。
で、このコーラでジャックダニエルを割ったら、どうなるかしらねぇ?」
ゴクリ、とおっちゃんが唾を飲み込む。
氷たっぷりのジョッキに1:4でジャックダニエル、そしてコーラを注ぐ。
カットレモンを絞ってワンステア。
「さぁ、どうぞぉ。
コークハイ、又の名を、『ザ・レミー』。
レミー・キルミスターが愛して止まなかったウイスキー・カクテルよぉ?」
「おぉ、あの御仁の銘を冠しとるのか…心して味わうとしよう。
ほぅ…バニラやカラメルの甘さにスパイス感とレモンの酸味が相まって…
爽やかさとコクが同居する、何とも不思議な味わいじゃぁ…」
「コーラ割りや炭酸割りって、結構どんなお酒でも合う感じなんだけど、
ジャックダニエルだけはコーラで割るのがジャスティスなのよねぇ。」
お摘みにレンチンしたフライドポテトの皿盛りを取って来た。
「で、脂っ濃いジャンクフードをこれで流し込むのが、
またいいのよぉ…太っちゃうんだけどねぇ。」
ちょっと恨めし気に睨んだポテトを、それでも口に放り込む。
「なぁに、ちっとぐらい肉付きの良い方が、女子は魅力的だと思うぞい?」
「ドワーフはそれでいいんでしょうけどねぇ…人間やエルフは
また事情が違うのよぉ。」
「そんなもんかのう。」
「そんなもんなのよぉ。」
言いながら、やっぱりポテトを口に運んでしまう私だった。
・・・
テレビをインターネットに繋いで、モーターヘッドの楽曲をメドレーで
鑑賞する私達。
もう夜も遅いし、ボリュームは程ほどに。
「そう言えばねぇ、レミー・キルミスターが飲んでた『ザ・レミー』って
本当はちょっとレシピが違うのよねぇ。」
「何じゃ、これがオリジナルじゃないんか?」
「そうなのよぉ、レミーが飲んでたのはねぇ…
『コーラのジャックダニエル割り』なのよぉ。」
「うん?合っとるじゃろ? 『じゃっくだにえるのこぉらぉ割り』。」
何が違うんだ、と訝しむおっちゃん…こりゃ伝わってないな。
「逆なのよぉ、『コーラのジャックダニエル割り』。」
お酒をコーラで割るんじゃないの、レミーはコーラをお酒で割ってたのよ。
つまり比率が逆。
「え…あ、えぇぇぇ!? 嘘じゃろ?」
「嘘じゃないのよぉ、嘘みたいだけど、本当の話。」
「だって、レミーって、あの御仁は人間じゃろ?
儂らドワーフでも、この強さの酒をそんな飲み方したら、べろんべろんに
酔っぱらうぞい?」
これには流石のおっちゃんもびっくりしたみたい。
「大酒飲みのヘビースモーカー…イカレたロックンローラーの象徴。
付いたあだ名が『極悪ロッカー』『極悪レミー』よぉ。
でも、いつだって皆の人気者だったのよぉ…」
「破天荒な御仁だったんじゃのう…だが、そうした生き様に
憧れるもんもおるのは分かるぞい。」
ポテトをまぐまぐと齧りながら、おっちゃんはしみじみと語った。
「なぁ、嬢ちゃん…やっぱりこの御仁、ドワーフだったんじゃないかの?」
はぁ?何を言い出すのかしら、この生きた酒樽は!?
「ドワーフだったんじゃないかのう…背の高い、痩せたドワーフ…」
いやいやいや、それはちょっと無理があるってもんでしょう。
おっちゃん、自分でも無理筋だと分かってるだろ、目が泳いでるぞ?
「レミーさんは人間よぉ?…多分、人間だと思うわよぉ?」
…人間かな?…人間かもね?…いや、まさか…まさかのドワーフ版異世界転生!?
こっちの人間が色々異世界転生するなら、よその世界の
人間や、人間以外の生き物だって異世界転生したっておかしくはない。
おかしくはないんだけど、だってねぇ。
でも、今私の目の前には異世界を行き来するドワーフがまさにいる。
意外にも、『事実は小説より奇なり』、なのか?
疑問をはらみつつ、宅飲みの夜は更けていくのだった。
今回は『ジャックダニエルオールドNo.7』でした。
『テネシーウイスキー』としてバーボンとは別格にランクされる、
アメリカを代表するプレミアムウイスキーです。
広義のバーボン、と言ってしまえばそうなのですが、
一応テネシー州の州法で『バーボンじゃないよ、テネシーだよ』
と立法化されており、また一般的なバーボンとはまた違った味わい
でもあります。
何より蘊蓄として面白いので城内的にはテネシーウイスキーは
バーボンとは別ジャンル、と位置づけてます。
勿論、異論は認めます。
『モーターヘッド』は今は『ゴティックメード』…ではなく、
その名の元となったイングランドのロックバンドの方です。
その『モーターヘッド』のヴォーカル兼ベーシストの
『レミー・キルミスター』が『ジャックダニエル』を
愛飲していたエピソードから今回のお話を作っております。
城内は音楽は割とジャンルを問わず聴く方で、
言う迄もなく『モーターヘッド』の楽曲も大好きです。




