『さぁ、牛だ!』 バッファロートレース
これまでスコッチが中心の紹介でしたが、今回はバーボンの登場です。
果たしてバーボンはおっちゃんの口に合うでしょうか。
「…こっちはここ何日か雨が続いてるのよ、やぁねぇ。」
休日の真昼間というのに、まだまだ寒い上に連日の雨で気が塞いでる私は
飲酒盃小町。
路面の凍結が怖くて、好きなバイクにも思う様に乗れないわ。
「そうさのう、この天気では『こんびに』にも行けんのう…」
相槌を打つのは異世界から来たドワーフ、ヴァインのおっちゃん。
こちらの世界の街歩き、夜歩きも、おっちゃんにとってはちょっとした冒険。
コンビニの陳列棚を眺めるだけでも日々新たな発見があるみたい。
折角のお楽しみに水を差す、この悪天候が恨めしい。
「晩御飯の材料は買ってあるし、今日は映画の円盤でも観て時間潰しましょう。
お茶淹れるから待っててねぇ?」
「お天道様の機嫌はどうしようもないしのう、そうしようかい。
どれがいいかの…」
私はポットでお湯を沸かし、おっちゃんは書棚に並んだ円盤を物色し始めた。
・・・
お茶を啜りつつ映画鑑賞。
おっちゃんがチョイスしたのは今となっては懐かしのSFアニメ。
風呂嫌いの少年が金髪美女とノスタルジックなSL風の銀河超特急に乗り、
機械の身体をタダで貰える星を目指して旅するあれだ。
家のテレビは55インチとそこそこの大画面だし、それなりに良い
サウンドバーも繋いであって、映画館には敵わないけど結構な
臨場感・没入感があるから、観始めてしまえばおっちゃんはのめり込む。
「おぉ、『れっしゃ』の動きに合わせて音が右から左へ流れるぞい!?
嬢ちゃん家の『てれび』もなかなか大したもんじゃのう!」
先日映画を観に行って、今更ながら、家の音響の良さにも気付いたみたい。
「そおよぉ?
映画館程じゃないけど、それなりのサラウンドが効いてるんだからぁ。」
一軒家ならもう少し凝ったシステムを組んで大音量で楽しみたいけど、
大して防音もない中古マンションだから、周りの部屋に迷惑は出来ないわ。
「…酒場でミルクを頼んではいかんもんなのか?」
映画のシーンは、主人公の少年が酒場でミルクを頼み、ごろつき共に
絡まれている所だった。
おっちゃん、牛乳は結構お気に入り。
ホットでもアイスでもそのまま飲むのは勿論、クリームシチューや
クラムチャウダーもすぐ好物になった。
牛の乳ってチーズやバターにするだけじゃないんじゃのう!と、
いたく感心していたものだ。
「ダメって事はないんだけど、一見さんや初心者をからかうっていうか、
お酒も飲めない子供がこんなとこに来るな、みたいな表現なのよぉ?
そっちにも『帰ってママのおっぱいでも飲んでな!』みたいな言い方、なぁい?」
「あぁ、成程の、あるある。」
安定の『あるある案件』だったみたいね。
物語は佳境に入り、派手な銃撃戦なんかも繰り広げられていた。
「…この『じゅう』という奴は不思議なもんじゃのう。
お話とはいえ、さして鍛練もしてない小僧っ子が、雷撃や火球の魔法
みたいなもんを無尽蔵に放てるとはのう。」
「あぁ、演出の上では百万発入りのコスモガンだけど、実際のあの手の銃は
一度に撃てるのは大体5~6発くらいよぉ?
それに、ちゃんと的に当てるにはそれなりに訓練もいるしぃ?」
映画では削られたけど、原作の漫画ではそれこそ命懸けの訓練をする、
というかさせられる羽目になったエピソードもあったはず、と説明すると、
一応は納得した様子だったが。
「儂らにも、『じゅう』、作れんかのう。」
あ…これはよろしくない、よろしくない流れだ。
「…悪いけど、銃の仕組みは教えたくないわぁ。」
「いかんのか?」
随分と便利そうなんじゃが、とおっちゃんは怪訝な顔をする。
「便利で簡単に『人を撃てる』道具だから、教えたくないのよぉ。」
多分、教えてしまったらおっちゃん達ドワーフの技術なら、種子島や
マスケット銃辺りは簡単に作れる、作れちゃう。
そしてその扱いは剣や弓、多分魔法と比べても、圧倒的に習熟が楽。
そんな物が向こうの世界に、わっと広がったら…
「銃って、割と少ない練習で、誰でも一端の戦士になれちゃう…
うぅん、戦士になれた『気分』になっちゃうのよね…そして、引鉄を
曳いたら簡単に人が倒れるわぁ。」
私が教えて、おっちゃんが作った銃で、向こうの世界の人達が沢山、
怪我をしたり、死んでしまうかも知れない、そんなのは嫌だ。
こっちの世界にも汚いもの、良くないものはあるけど、
おっちゃんには出来るだけ綺麗なもの、良いものを見てもらいたい。
「だから、銃や武器の仕組みは出来るだけ聞かないでくれたら嬉しいわぁ。」
「…いや、尤もじゃわ。
詮無い事を言ったの、忘れてくれい。」
「ありがと。
でも、万一そっちの世界でとんでもない事が起こって、
どうしても銃や武器が必要になったら、その時は言ってちょうだぁい。」
そんな時は私も腹くくって情報提供するからね。
「そんな日が来ない事を祈りたいの。」
「えぇ、平和な日常が一番だわぁ。」
映画も終盤を迎え、そして感動のエンディング。
「ええ話じゃったのう…」
続けて二作目・続編の円盤をセット。
「…戦争しとるじゃねえか!?」
平和を返せ、一作目の感動を返せ!と叫ぶおっちゃん。
大丈夫、二作目もちゃんと感動のエンディングになるから、ね?
・・・
「ええ話じゃった、ええ話じゃったのう…!」
おっちゃん、しっかりお話にのめり込み、エンディングでは感涙してた。
エンディングテーマがまた、いい曲なのよねぇ。
「さて、映画も観終わったし、晩御飯にしましょうか。」
ご飯は炊いてあるし、お惣菜も多少あるから、今日はレンチンのおでん。
そこ、手抜きって言わない!
「あっつあつだから気を付けてねぇ。」
油断すると口の中火傷するのよね、上あごの皮がぺろんとなっちゃう。
縛り付けてあつあつのおでんを食べさせる拷問は、南極条約でも
禁止されたって民明書房だかの本に書いてあったわ。
「うむ、気を付けよう、では『頂きます』じゃ。」
「おでんの具は、ちょっと辛子を付けると美味しいのよぉ?」
あら、この牛筋、お出汁が沁みてて美味しいわ。
レンチン用のパックも馬鹿にしたもんじゃないわね。
「この国の香辛料は、鼻につんと来るのが独特で応えられんのう。」
「それが楽しめるなんて、おっちゃんも通ねぇ。」
辛子をたっぷり付けて煮卵を頬張るおっちゃん。
「おほぅ、あっつぅあっつぅ!…おぅ、鼻に来た!?
つ~んって、つ~んって!!」
ほら、言わんこっちゃない。
私はハイボールのジョッキを手渡した。
「…おぉ、すまんすまん、助かるわい。」
ぐいーっと半分ほども流し込んで一息ついた様子。
「…何じゃ? 『ういすきー』の『はいぼぅる』なんじゃが、何か…」
「あんなにあっついの辛いの大騒ぎしても分かるのねぇ。
これは『バーボン』て言うのよぉ?」
・・・
おでんも粗方片付いた処で、今日の一本をテーブルへどん!
瓶にはごっつい野牛のイラストが印刷されている。
「これが『バーボン』、その名も『バッファロートレース』よぉ。」
「…ば、『ばぼ~ん』?」
「やぁねぇ、『ば・あ・ぼ・ん』よ。」
私は苦笑しつつ訂正する。
「『ばっふぁろー』と言うと、こないだの『ずぶろっか』にも描いてあった
あれかの?」
「そうよぉ、あれはウォッカでこっちはウイスキーだけど。
前にこっちの世界の『五大ウイスキー』ってお話したでしょぉ?
この『アメリカ』っていう大きな国の代表的なウイスキーね。」
タブレットで地図を見せながら指し示す。
厳密にはテネシー州のウイスキーだけはバーボンじゃないんだけど、
これはまた、『ジャックダニエル』辺りを飲む時に教えよう。
「『スコッチ』や大半の『ジャパニーズ』は大方麦から作るんだけど、
『バーボン』はそうねぇ、五割以上、この『バッファロートレース』だと
八割がトウモロコシで出来てるのよぅ?」
「トウモロコシか、あれも茹でたり焼いたのが美味かった。
何でも酒になるんじゃのう。」
焼きトウモロコシ、美味しいわよねぇ。
いつか海に連れてって食べたいわねぇ。
それはさておき。
「で、このアメリカの西部開拓時代を物語にした『西部劇』っていうのが
あるんだけど、丁度、さっき観た映画の酒場みたいなのが良く出て来るのね。
そこで飲まれてたのが、この『バーボン』なのよぉ。」
「な~るほど、そういう繋がりか。
あの小僧っ子も、大人ならこれが飲めた、と言う訳じゃな?」
「そうねぇ、『バーボン』は甘口で比較的飲みやすいんだけど、普通は
三~四年くらいの熟成なのねぇ。
でもこの『バッファロートレース』は八年の長期熟成で、まろやかで
美味しい『プレミアムバーボン』って聞いたから買ってみたのよぉ?」
普通なら『メーカーズマーク』や『ワイルドターキー』辺りが
バーボンの入門編なんだろうけど、長熟物、飲んでみたかったのよね。
「ストレートやロックでも美味しいけど、ハイボールがお勧めだそうよぉ?」
さっきのハイボールはぐいっと空けちゃったから、細かい味わいは
分かんないわよね?
「ほうかほうか、まぁ、最初は『すとれーと』で飲ませてくれんかの?」
「はいはい、どうぞぉ。」
まずはテイスティンググラスに注いだストレートでかんぱ~い!
琥珀っぽい濃い色合いの液体が美しい。
「ほぅ~…
一瞬の酒精の刺激がだんだんバニラやカラメルの甘い香りに変わるのう。
お味は、黒糖というか、チョコレートというか、甘い口当たりが…
ほっほう!
口一杯にひりつく酒精の刺激が加わって、喉越しに長く余韻が続きよる!
まるで喉を牛が通ってく様じゃ。
『ばぼ~ん』か、これは面白いのう!」
おっちゃん、また『ばぼ~ん』に戻ってるわよ。
「じゃぁ、改めてハイボールをどうぞぉ?」
「どれどれ…香りも味も、酒精の刺激が鳴りを潜めて…軽やかで爽快じゃ!
果実感のある酸味が心地良いわい。
成程、食事に合う、というのも頷けるのう!」
「ご飯のお供にハイボール、食後はじっくりストレートやロックで、
っていう流れで楽しむのも良さそうねぇ。」
「然り然り。
あの映画の小僧っ子も、早よう酒が飲める歳になるとええのう!」
いや、それは無理じゃないかしら…
・・・
「…しかし、あれじゃのう。
『れっしゃ』で旅をする、というのもなかなか楽しそうじゃのう。」
ジョッキを傾けつつ、タブレットで動画を見ながらおっちゃんが零す。
「そうねぇ…特急で指定席なら快適でしょうけどねぇ…」
「何じゃ? 気が進まん様子じゃのう。」
「特急に乗るまでの在来線は激混みするのよねぇ、酷いもんよぉ?」
私はラッシュアワーの動画を見せる。
「うわ、何じゃこれ…人が津波の様じゃわい…」
「空いててもねぇ、私、お酒飲んで電車に乗ると覿面に眠っちゃうのよねぇ。」
揺れがガッタンゴットンと、とても心地よいのだけど、と私は愚痴る。
「特急で指定席やグリーン車なら、車内販売や駅弁なんかもあって、
楽しいは楽しいんだけどねぇ。」
「なかなか上手くいかんもんじゃのう…」
「おっちゃんも遠出してみたいでしょうし、何か考えてはみるけどねぇ…」
私、免許はあるけど、車は持ってないのよね。
もし遠出するならレンタカーかしら…
つらつらと考えていたら、スマホがピロン♪と鳴った。
「…あら、何かしら?」
画面を見ると、メールの主はお友達の桂華ちゃん。
その正体は、今をときめく漫画家の『らが★ぶーりん』先生である。
今、取材旅行で海外に行ってるんだっけか、帰って来たのかな?
あぁ、やっぱりそうね、帰って来たんだわ。
へぇ、行先は台湾だったんだ…うん、うん、楽しかったみたいね。
ええ…えぇ?
「ええぇえ!?」
思わず声が出てしまう。
「…どした、嬢ちゃん?」
来週末、桂華ちゃんが家に来る。
しかも、これもお友達の桜子ちゃんを連れて。
何も知らんとこちらを見て小首を傾げるおっちゃんを見つめ、私は考える。
「これ、どうしよう…」
今回はバーボンから『バッファロートレース』でした。
比較的新しい銘柄(と言っても四半世紀以上経ってますが)ですが、
蒸留所自体は何度も名前を変えながら二百年以上続いた老舗の味です。
実際、長熟ならではの、まろやかで口当たりの良いバーボンで
城内は好みの銘柄です。
作中で二人が観ていた映画は言う迄もありませんが、
松本零士先生の傑作、『銀河鉄道999』ですね。
…『エターナルメロディ』なんてなかった。イイネ?
さて、次回は小町ちゃんの家にお友達が二人もやって来ます。
小町ちゃんはお友達におっちゃんを隠すのか、見せびらかすのか、
その辺りもどう転がそうかと思案中ですのでお楽しみに。
城内は松本零士先生を超リスペクトしております。




