番外編 『火酒ってこんな感じ?』 ズブロッカ
ドワーフ、ヴァインのおっちゃん、再び外へ!
おっちゃんは異世界の繁華街で何を見るのか!?
※2026/2/16 誤字・誤表記がありましたので修正を行いました。
「いや、もう、すごかったの!
あちこちから音がゴーッて! ドドーンて!」
川崎駅地下のモールでカレーを食べながら熱弁を振るうのは
異世界のドワーフ、ヴァインのおっちゃん。
「そうねぇ、すごかったわねぇ。
でもスプーン振り回すのはお行儀悪いわよぉ?
感想は家に帰ったらしっかり聞かせてもらうわぁ。」
同じくカレーを食べながらおっちゃんの感想戦に付き合っているのが
私、飲酒盃小町だ。
今日は二人して川崎駅前に繰り出し、映画を観て来たところである。
勿論、出来るだけ人目を避けて、レイトショーでの観劇だけど。
「む、こりゃ失礼。
まずは食事に集中するかの。」
折角の専門店のカレーだもの、ちゃんと味わって食べなきゃね。
お店のカレーは味も香りも複雑で深みがあって、しっかりおっちゃんの
気に入った様である。
・・・
「…『映画』、とな?」
「そぉよぉ?
今、ロードショーをやってるのよぉ。」
その時たまたま家で観ていた円盤が、とある有名なSFロボットアニメの
映画作品だったのだが、丁度二作目が先週から公開中なのだ。
「家のテレビもまぁまぁ大きい画面だけど、比べ物にならないくらい
大きなスクリーンで、音響もすごく臨場感があるのよぉ。」
「『映画』…これの続きか…観たいのぉ…」
おっちゃん、このシリーズは既に一通り履修済み。
と言うか、一端のマニア並みに語れるくらいに『沼』っている。
「折角だし観に行っちゃいましょうか、次の火曜の夜は空いてるぅ?」
今度の水曜日は祝日だから、変に週末に行くより空いてると踏んだ私は
そう、おっちゃんに水を向けてみた。
「! 行く!行くぞ、いっぱい行く!!
予定なんぞ、空いてなくても空けるぞい!」
心配するまでもなかったわね。
そういう訳で、私とおっちゃんは夜の街へ出かける事になったのだ。
・・・
バス停で二人並んで立っている私達。
空模様は生憎雪がぱらついてるけど、雨よりましよね。
「ここからバス…乗合馬車みたいなもんね…バスに乗って行くの。
もうすぐ来るから、料金、240円用意しといてね。」
「相分かった。
『ばす停』というのは、いつもの『こんびに』の側なんじゃの。」
「そうねぇ、ここのバス停なら帰りにはお買い物に寄れるわねぇ。」
程なくバスが到着する。
夜とあって乗客もまばらだ。
おっかなびっくり乗り込むおっちゃん。
「そこの料金箱にお金を入れてねぇ。」
おっちゃんが料金を入れるのを待って、私は交通カードで決済する。
「良かった、奥が空いてるわね、座りましょ。」
「…うむ。」
何か腑に落ちない様子でおっちゃんは奥の席に向かう。
バスが走り出すと、おっちゃんが小声で聞いてきた。
「嬢ちゃん、料金を払っておらなんだが、大丈夫なのか?」
あぁ、それでか。
「私はこれで払ったのよぉ。」
交通カードを取り出して見せる。
「仕組みは私も上手く説明出来ないけど、前もってお金を払ってあって、
その分を使い切るまでは、これをかざすと引き落としてくれるのよぉ。」
丁度バスが停まり、お客さんが乗ってきた。
スマホやカードを読み取り機にかざし、ピッと鳴る様子に見入るおっちゃん。
「成程、あの『ピッ』と言うとるのがそうなんじゃな?」
「そうよぉ、おっちゃんにもその内カード用意しましょうねぇ。」
「そうしてくれると有難いのう…しかし、この『ばす』というのもすごいの。
馬車と違うて道で跳ねもせんし、尻も痛くならん。」
「シートのクッションもだけど、揺れや衝撃を吸収する仕組みがあるのよぉ。
そもそも道が馴らされてるしねぇ。」
そんな話をしている内に、目的地ももうすぐだ。
『…皆様、大変長らくお待たせ致しました。次は終点、川崎駅西口です…』
駅のコンコースを突っ切りシネコンへ向かう私達。
平日の夜とはいえそれなりに人はいる。
多少こちらを奇異の目で見る人達もいるが、私はおっちゃんの手を引き
素知らぬ顔で歩いて行く。
おっちゃんは普通の外国人で、私はそういう人を案内しているお姉さん。
そこに何の異常もないだるぉおおう!?
だからお願い、生暖かい目で見てもいいから話しかけないで…
そう願いながらコンコースを過ぎ、駅地下を通り、シネコンへ到着。
さて、席の埋まり具合は、と…
折角なので特に音響の良いシアターの空席状況を見る。
OK、最後列に並びで空いてる席があった。
二人分のチケットと、ついでに飲み物も買ってシアターへご案内。
私は映画館でポップコーンとかは食べない派。
ぶっちゃけ、見入っちゃうから食べてる暇はないのよね。
喉乾くから飲み物は要るけど。
「時におっちゃん、トイレは大丈夫?」
映画は2時間ノンストップだからね、済ませるもんは済ませないと。
「うむ、問題ないぞい。」
「じゃ、席について待ちましょぉ?」
「おぉ、広いしクッションの効いた椅子じゃのう!」
バスではちょっと窮屈そうだったが、流石シネコンのシートは物が違う。
おっちゃんの横幅でも余裕で収まった。
「さぁ、もうすぐ始まるわよぅ?」
「うむ、備えよう。」
そして館内の照明が落とされ、スクリーンが輝いて…
・・・
「いやぁ、映画って本当にいいもんじゃのう!」
カレーを食べ終え、駅地下をぶらつく私達。
おっちゃんは満足気にどこかで聞いた様な台詞を語る。
「大きな銀幕一杯に広がる映像に、全身が包まれる様な音もじゃが、
耳元で囁き声やら装身具の擦れる音が聴こえるのには驚いたわい。」
あれは私もびっくりした。
ヒロインのアクセサリーがチャラチャラいう音、耳元で聴こえたのよね。
おっちゃんなんか、思わずキョロキョロしてたし。
「私はどっちかと言うとホームシアター派なんだけど、
それでも映画館でしか得られない『栄養』ってあるのよねぇ…」
「得難い体験というのはあるもんじゃのう…」
「また、何かいい映画があったら来てみるのも良いわねぇ。」
「うむ、然り然り。」
さて、帰りのバスまではまだ時間があるわね。
「時間もあるし、駅ビルでちょっと買い物して帰りましょうか。」
私達は家電の大型店舗へと足を向けた。
やって来たのは玩具やゲーム、円盤の並ぶ階層。
おっちゃんは所狭しと並べられたプラモデルやフィギュアの数々に
ふぉーっ、となっている。
「私はあっちで円盤見てるから、何か欲しいのあったら声かけてねぇ?」
「ん? 儂が買っちゃいかんのか?」
財布にはちゃんと金があるぞ、と訝しむおっちゃん。
「あぁ、私ここの会員証を持っててねぇ、ポイントが貯まるのよぉ。」
「…『ぽいんと』とな?」
「会員証があると、お買い物した金額に応じてポイントの割り戻しがあるの。
そのポイントを貯めておくと、次のお買い物でお金として使えるのよぉ。」
要はお店がお客様の囲い込みをする為の仕組みね、と説明する。
「そっちだと、『ギルド』ってあるのかしら?
そのギルドに入ってるとランクに応じて値引きがあったり色々便利な
サービスが受けられる様な仕組みってなぁい?」
「おぉ、あるぞい。
儂もギルドに入っとるし、色々便宜も受けとるの。
…そうか、あれはそういうもんなのか。」
おっちゃん、得心がいった様である。
暫く円盤を物色していると、おっちゃんが何やら箱を持ってきた。
「儂、これ欲しい。
これ、あの『たぬきの嬢ちゃん』が乗ってた奴じゃろ?」
あぁ、これか。
おっちゃんが持ってきたのは、今日観た映画と同じ系列の少し前のシリーズで
主人公の女の子が乗ってた機体のプラモデル。
その女の子は高身長に恵体の癖に、どこか小動物めいた言動とムーブ、
炭団眉が特徴的で、ネット界隈でついたあだ名が『たぬき』。
…それは置いといて、白くて綺麗な機体に長物も付いて、お値段も手頃。
出始めは転売の餌食になって店頭売りは瞬殺続出だった記憶があるが、
今は普通に買えるのね。
欲しい時に欲しい人が買えない。
まったく、転売ヤー許すまじ、ね。
「いいんじゃないかしらぁ。
接着剤はいらないはずだけど、やすりとニッパー、ピンセット辺りは
あった方がいいかしらねぇ。」
手早く見繕ってレジでお会計。
「はい、お待たせ。」
手提げ袋をおっちゃんに渡す。
「おぉ、感謝、感謝じゃ!」
買い物も済んだけど、まだちょっと時間あるな…そうだ。
「ついでに、お酒も見て行く?」
・・・
「これ、酒か?…これ、全部酒か!?」
陳列棚に並んだお酒の種類と量に、おっちゃんは目を丸くして立ち尽くす。
さっきとは別の家電の大型店舗なのだが、こちらは一階がほぼ全て酒屋。
「しゅごい…儂、この店の子になる…」
「やぁねぇ、おかしな事言わないでぇ。」
呆けた顔で胡乱な事を宣うおっちゃんに苦笑しつつ、
お酒を見て回る私。
あ、良かった、ブラックニッカが入荷してる。
ここ数か月、何でか出回りがなくて普段飲みに困ってたのよねぇ。
おっちゃんには…何がいいかな?
アイラはまだ早いかしら、癖のないカナディアンとかアイリッシュ?
バーボンが先かしら?
…あ。
聞いてみたい事もあったし、今回はこれにしよう。
買い物を済ませて、今は帰りのバスの中。
「何を買ったんじゃ?」
「帰ってからのお楽しみよぉ。
あ、次の次で降りるから、アナウンスで『〇〇』って言ったら、
そこのボタンを押すのよぉ。」
「分かった、『〇〇』じゃな?」
程なくアナウンスが流れる。
「…次は〇〇、〇〇です…」
恐る恐る降車ボタンを押すおっちゃん。
ピンポーンと明るい音が鳴る。
『次、〇〇に停まります…』
「うむ、押せたぞい。」
「停まったら降りるから、買ったプラモデル、忘れないでねぇ?」
「忘れんぞ、大事な『戦利品』じゃからの!」
…『戦利品』か、染まってきたわねぇ。
バスはいつものコンビニの前で停まり、バスを降りてコンビニで
こまごまとした買い物を済ませると、私達は家へと向かうのだった。
・・・
家へ到着。
買ってきた瓶を冷凍庫へ放り込み、私達はそれぞれ荷物を仕舞ったり
シャワーを浴びたり、ラフな格好に着替えたりと、あっという間に
二時間程が過ぎてしまった。
さぁ、お待ちかね、LET’S酒盛りタイム!
「もう種明かししてもいいじゃろ?
今日は何を買ったんじゃ?」
「今日はウイスキーじゃないんだけどねぇ、ウォッカって言うの。」
グラスや氷なんかを用意しつつ、冷凍庫で冷やした瓶をテーブルに置く。
「『ズブロッカ』よぉ。」
まずはショットグラスでストレートをかんぱ~い!
お酒は良い塩梅に冷えて、とろっとろ。
ふわっと桜餅みたいないい香りがする。
「バッファローグラスって言ってね、瓶に草が一本入ってるでしょ?
牛が食べる香草を漬け込んで、風味を着けてるのよぉ。」
「ほぉ~ぅ、ハーブの様な、ええ香りじゃのう。
どれ、お味は…軽い草の風味と…これはなかなか強い酒じゃの!
だが、冷たい口当たりと、とろりとした舌触りが良い感じじゃ。」
続いて、おっちゃんにはジンジャーエールで割って、スライスした
ライムをトッピング。
ウォッカベースのカクテルでは定番中の定番、『モスコミュール』だ。
私はトマトジュースで割って、隠し味にタバスコを数滴。
『ブラッディマリー』の出来上がり。
おっちゃんはトマトジュースはちょっと苦手。
チーズやハムと一緒に食べるトマトは大好きだから、不思議なもんね。
そして私は気になっていた事を聞いてみる。
「ドワーフの火酒ってこんな感じなのかしらぁ?」
穀物由来の結構きつい蒸留酒と言ったら、思いつくのはウォッカなのよね。
「う~む、どうかの…酒精の強さは似た様なもんじゃな。
だが、火酒は多少元になった穀物の風味はあるが、特に香りはないかのう。
舌触りもさらっとしたもんじゃしのう。」
「とろみは、冷やしたからよぉ?
同じくらいの強さなら、火酒も氷室でキンキンに冷やすと同じ様に
とろっとすると思うわぁ。」
「ほう、冷やすのか!」
このくらい強いお酒は冷凍しても凍らないのだ、と説明する。
そして、香りや風味を着けるなら、樽なり甕なりで貯蔵する時に
果物や香草、薬草なんかを漬け込めば良い、とも。
「実際、このズブロッカはウォッカとしては独特な香りと風味なのよね。
普通のウォッカはほとんど味や香りはないのが多いかしらねぇ。」
私の好みでズブロッカにしたけど、火酒と比べるんなら癖のないスミノフとか
ストリチナヤなんかの方が良かったか。
「漬け込む以外でも、果物を絞って果汁で割ったり、炭酸水で割ったり、
素材を活かすのも良し、ひと手間工夫をしてみるのも良し。
それぞれの美味しさってあるわよねぇ。」
「面白い事を聞いたのう。
氷室で冷やす、何かしら漬け込んでみる、割ってみる…」
おっちゃん、何やら思いついた様である。
近い将来、ドワーフ火酒に革命が起きる、のかも知れない。
…失敗しても私は責任を取らないわよ?
・・・
数日後、おっちゃんがどたどたと部屋に入って来た。
「嬢ちゃん、見てくれ!
『ぷらもでる』、完成したぞい!」
あら、随分早かったのね。
得意満面で手渡されたプラモを拝見…
…
……
なんだこれ。
すっさまじい表面処理。
白いボディは大理石の如き質感に磨き上げられた上に、
ほぼ全身に神様やら天使やら悪魔やらがレリーフされている。
要所要所の縁取りに金箔が貼り付けられ、宝石が象嵌されていた。
どっかでこんなの見た記憶があるわ。
なんだっけ…何かの遺跡だ、壁面にびっしり彫刻のある神殿だか寺院だか。
あぁ、アンコールワットだっけか。
「どうじゃ、渾身の作じゃぞ!?」
頑張ってひと手間かけたからの、とフンスするおっちゃん。
ひと手間の工夫ってそっちかよ。
確かにドワーフの細工の技術ってすごいけど…加減しろ、馬鹿!
「うん、すごいわね…」
それはそれとして、面白いは面白いので『シャベッター』に画像を上げた。
『友達がすんごいの作った。』
程なくして、謎の凄腕モデラ―『ワイン樽』氏の正体を巡って
その筋のネット界隈が大騒ぎになるのだが、それはまた別のお話。
今回は番外編、ウォッカにしてみました。
描写で分かる人には分かったかも知れませんが、観に行った映画は
『閃光のハサウェイ ~キルケ―の魔女~』。
おっちゃんが買ったプラモは『ガンダムキャリバーン』ですね。
『ハサウェイ』、面白かったので興味のある人は映画館へ急げ!
『ズブロッカ』も独特な香りで好きなのですが、昔『ペルツォフカ』と
言う唐辛子を漬け込んだ赤いウォッカがありまして、これで
『ブラッディマリー』を作るととても美味しかったのですが、
何時の頃からか日本には入ってこなくなりました。
まだ現地では作っている様なのですが、日本では売れなかったんですかねぇ。
城内は『ペルツォフカ』の輸入再開を心待ちにしております。




