はじまり キング・オブ・ブレンダーズとの邂逅
本作はロー・ファンタジーの皮を被ったお酒の蘊蓄話です。
それこそ皆様のお酒の席で、話のタネにでもなれば良いな、と思います。
お楽しみ頂ければ幸いです。
※作者の個人的な感想を元に作劇しております。
ウイスキーの味わいや香り等の感じ方には個人差があります。
※閲覧に年齢制限はありませんが、
未成年の方の飲酒を促す意図はございません。
お酒は二十歳になってから。
夜の一国を東京から横浜方面へ、一台のリッターバイクが駆け抜ける。
私は飲酒盃小町。
東京都内の商社に勤める妙齢のOLだ。
…20代後半は妙齢だ。
妙齢だったら妙齢だ。
出たくもなかった会社の飲み会に付き合った帰りである。
勿論、バイクで帰る以上、自分は一滴も飲んでいない。
烏龍茶と、ほどほどにつまみをパクつく程度で粘りに粘った。
飲めない訳ではない。
酒処・秋田の出身だから、という訳ではないが酒は好きな方だ。
でも外で飲むのは好きじゃない。
飲んだら運転はダメ、絶対。
飲むならバイクに乗れないから、帰りは当然電車になる。
飲んだ後に電車…あれは良くない。
あの心地よい揺れが私を夢の世界へ誘うのよ。
新人の頃、それで何度も終点で車掌さんに起こされた。
夜中に知らない街を一人彷徨う辛さに耐えかねて、
私は飲み会に出ないか、どうしても出るなら一滴も飲まないと
心に誓ったのよ。
ところが、である。
何でか今の私は課長様。
なりたくもない中間管理職に、私はなってしまった。
上から下からの圧迫祭りで、出たくもない飲み会に出る機会が増える。
私は元来コミュ障なのだ。
人付き合いは最低限で、シダ植物の様にひっそりと生きたかったのに、
私の機嫌もうなぎ下りってもんよ。
・・・
「こまっちゃん、聞いてよ~。
予約抽選当たったんだよぉ!」
ニコニコ顔で部長の佐渡島さんが声を掛けて来る。
どうやら某社の新型バイクの販売抽選に当たった様だ。
「やったじゃないですかぁ。
『慣らし』が終わったら一緒にツーリングでも行きましょうかぁ?」
答えながら、空いたコップにビールを注ぐ。
「おっとっと、零れる零れる…
そうだねぇ、こまっちゃんのバイクと並べて写真撮りたいねぇ。
かみさんに美味いもん買って帰れるといいなぁ。
楽しみだなぁ。」
瓶を持った私の手をわざとらしく撫でながら答える佐渡島さん。
ハゲ・デブ・眼鏡の三拍子揃った助兵衛なおっちゃんだが、
私はこの人、そんなに嫌いではない。
仕事は出来るし、愛嬌もあって、実は愛妻家。
何よりバイクやアニメ、特撮、etc…割と趣味の話が合う。
つまり、ヲタク趣味の同志なのだ。
私みたいな陰キャには時折眩い『陽の者』だが。
同志故、この程度の触れ合いは許そう…私の心は広いのよ。
「しかし、あれだねぇ。
こまっちゃんは相変わらず飲まないんだねぇ。」
「元々通勤はバイクですし、飲むと覿面に帰りの電車で
寝ちゃうんで、こればっかりは…
いっそ社員旅行なら私も安心して飲むんですけどぉ。」
「今のご時世だと社員旅行はねぇ…」
「例のコ○ナ禍以来、すっかりご無沙汰ですからねぇ…」
コ○ナ禍は、飲み会やら何やらの面倒な集まりが激減した、という点では
私の様な人間には有難くもあった。
でも世の中的にはデメリットの方が多過ぎたわよ!
「ツーリングっすか?
いいっすねぇ、俺も付いて行こうかなぁ?」
会話に挟まって来たのは入社三年目になる社員の茶良尾君。
「…生憎だけど、私達は大型二輪だし高速道路使うわよ?
貴方の原付スクーターじゃ高速乗れないんだけどぉ?」
「僕らそれなりに距離も走るから、中型以上じゃないと厳しいぞぉ?」
佐渡島さんも、やんわりダメ出ししてくれる。
「えぇぇ…」
こいつははっきり言って好きじゃない。
うちの課に来て早々の挨拶で、こいつは私の逆鱗に触れた。
「飲酒盃課長、美人っすね! 俺、狙っちゃおっかなぁ?」
何が『狙っちゃお』だ!…さかさうろこに触れたのだ、覚悟は出来ておろうな!?
チャラい見た目や言動は置いておくとしても、仕事をしない奴は大っ嫌い。
出来ない、分からないじゃなく、『しない』のは論外だ。
教えた事はメモを取れ。
日がな机の下でスマホいじってるのを知らないと思うなよ。
茶良尾君へ塩対応する私達を横目に、もっきゅもっきゅとつまみやら鍋やらを
掻っ込んでいるマッチョマンは係長の安藤君。
気は優しくて力持ち、を絵に描いた様なタイプだな。
こっちの気も知らんで嬉しそうに食いやがって、こんちくしょう。
彼は体質的にお酒が飲めないけど、飲み屋飯は大好きだそうで、
飲み会の出席率は高い。
なもんで、彼に非はないのだが、私としては参加を断りづらくなるのが困る。
何だかなぁ、と飲み会の様子を思い出しつつ、私は交通ルールに則り安全運転で
家路を急いだ。
・・・
自宅へ到着。
私の家は横浜市内の中古マンションの最上階。
築半世紀も過ぎているし、エレベーターもないので上り下りは結構きついが、
その分広いし安かった。
一人暮らしとは言え、ヲタクは荷物が多いのよ。
何かと趣味も多いしね。
ビバ、ヲタ活!
買い物袋を抱えて五階までひいこら言いながら登る。
都会は遅くまで開いてるスーパーがあるのでありがたい。
実家は田舎もいいところで店仕舞いは早いから、こうはいかないわね。
スーパーで買い込んだ惣菜やら何やらを冷蔵庫へ放り込むと、
お風呂を沸かす。
熱いシャワーで汗を落とし、ゆっくりと浴槽に浸かる。
疲れが溶けてくわぁ。
良い感じに温まり、お風呂を上がると、髪を乾かす。
タオルでしっかり吸水してドライヤー。
私の髪は結構長い、背中まであるストレート。
排気ガスの臭いは髪に引っ付くのよ! 髪が痛むのよ!
ライダーでこのさらっさらの長い髪を保つのは結構大変なのよぉ?
伊達に『首都高の峰不二子』と呼ばれていないわぁ。
…うん、だから呼ばれてないわよ、自称よ。
取り合えず髪を乾かし、顔に化粧水をぴしゃんと叩くと、バスタオルを
肩から羽織っただけの全裸で、クローゼットへ下着を取りに向かう。
一人暮らしの家だもの、誰憚る事もない。
私は裸族。
クローゼットという名の押し入れをがらりと開ける。
…あれ?
なぁに、これぇ…
押し入れの向かって右の襖を開けると、下着の入った収納ボックスが
あるはずなのだが、私の目には岩壁の洞窟が見える。
無言で襖を締める。
もう一度開ける。
洞窟だ。
壁に触れてみる。
ひんやりした岩だ。
締める。
何? 何が起こってるの?
何で私の部屋の押し入れが洞窟に繋がってるの?
そもそも、ここはマンションの五階よ!?
ふと思いついて左の襖を開ける。
収納ボックスやら布団や毛布やら、私が知っているいつもの押し入れだ。
襖を締める。
開ける。
うん、いつもの押し入れだ。
こんなCMあったわねぇ。
『右に回すとボールペン、左に回すとアメリカ沈没』だっけか、物騒だな。
左の襖を締め、改めて右の襖を開ける。
やはり岩壁の洞窟がぽっかりと広がっていた。
白昼夢を見ている訳ではないらしい。
よく見ると、木箱やら樽やら、色々と物が置かれている。
…この洞窟には人がいる?
と、洞窟の奥でゆらりと灯かりが動いた。
そして、足音が近づいて来る。
我知らず、ごくり、と唾を飲み込む。
もぞりと人影が現れる。
蠟燭を持った人影と目が合った。
お互いに無言。
向こうも驚いたのか、目を見開いて硬直している。
…意外に小さい?
私の身長は170cm、女性としては割と背の高い方だが、
相手は150cmあるかないか、という処。
だが、横には大きい。
手足も身体も全体に太く、がっしりと筋肉質なのが見て取れる。
西洋風の濃い顔立ち、青い目に茶色でウエーブの掛かった立派なヒゲと髪。
布の帽子に布の服。
チョッキはレザー?それともビロード?
…あれだ、ファンタジーな作品で良く見る頑健な種族、ドワーフだ。
私は今、『生ける幻想』を目の当たりにしている!?
だけどそれ以上に、どこかで見た気がするのよね…
ぽんと思い当たる。
『あれ』よ!
どこぞのウイスキーのマスコットキャラクター!
そう、『キング・オブ・ブレンダーズ』がそこに居た。
…これが、私達の初めての邂逅だった。
OLと異世界のドワーフ。
本来出逢う筈もない二人はこうして出逢ってしまいました。
この二人が如何にして酒を酌み交わす事になるのか、レビューと言うなら
そこまで話を進めなきゃですね。
この後直ぐ二話目を投下しますので、顛末はそちらで見届けて下さい。
ご興味をお持ち頂けましたら併せて前作、『若きハドスン夫人の冒険
~如何にして彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~ 』
(完結済)もお楽しみ頂ければ幸いです。
城内はウイスキーが大好きです。




