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“ゲームは人格に悪影響を及ぼす”と実験で判明いたしました

 RPGや格闘ゲーム、シューティングゲームなどを始めとしたいわゆるTVゲームについては、昔からあることが危惧されていた。

 それは、ゲームをプレイしていると人格に悪い影響が及んでしまうのでは、ということ。

 例えば、人を殴るゲームをやれば殴りたくなり、人を殺すゲームをやれば殺したくなるのでは……という不安である。


 この手の「この犯罪が起こったのはゲームの影響」「いや、ゲームは関係ない」といった議論は幾度も繰り返されてきた。

 答えは出ていないが、この説を支持する人はもちろん、支持しない人にも「ゲームは性格や人格形成に影響するのか」が気になる人が多いというのは事実だろう。


 しかし、このたびこの問いに明確な答えを提示する男が現れた。



***



 魅村(みむら)修二(しゅうじ)、50歳。

 名門である盟帝大学の教授で、社会学や心理学、さらには脳科学に精通しており、その分野では第一人者の一人とされている。

 グレーのスーツが似合う整った顔立ちから人気は高く、著書も多く出しており、テレビ出演歴も豊富である。

 そんな魅村が、こんな発表をした。


「“ゲームは人格に悪影響を及ぼす”と実験で判明いたしました」


 魅村が行った“実験”は次のようなものだった。

 ある施設に、20代の男女30人を集めた。施設内にはキッチンやバスなど、必要なものは全て揃っている。

 そして、彼らを5人ずつ6つのグループに分ける。

 その6つのグループにはそれぞれ朝昼晩の3時間は違うジャンルのゲームをしてもらう。

 ジャンルは「冒険物RPG」「格闘ゲーム」「パズルゲーム」「恋愛ゲーム」「戦争ゲーム」「レースゲーム」の6種類。

 それ以外の時間は、食事時間や就寝時間を除き自由に共同生活をしてもらう。

 この環境で被験者たちにどんな変化が起こるのか見ようというのだ。

 実験期間は30日を予定していた。


 最初の一週間は特に何事も起こらなかった。

 グループ同士、健全に協力し合って共同生活を続ける。


「ゲームやるだけでお金貰えるって最高だな!」

「ホントよね~」

「ずっとここで生活できないかな」


 こんな軽口まで飛び出すぐらいの余裕があった。


 ところが、十日を過ぎたあたりから異変が起こり始める。

 グループ同士が生活音をめぐってトラブルになり、「格闘ゲーム」グループの若者がこう叫んだのだ。


「てめえ、ブン殴るぞ!」


 拳を構え、今にも殴りかからんとするその若者に、相手はたじたじになった。

 普段は穏やかで、とても暴力など振るいそうにない若者であった。

 「格闘ゲーム」が彼の暴力性を高めたのかもしれないと思える一幕であった。


 他にも、被験者同士の性的な接触は禁止としていたのだが、「恋愛ゲーム」グループの被験者が色仕掛けのようなことをするようになった。


「ねえ、私といいことしない?」


 「戦争ゲーム」グループに属する若者が、高圧的な態度を取るようになった。


「貴様、上官の指示に従えないのか!」


「な、なんだよ、それ……」


 「冒険物RPG」をプレイしていた者たちは、そういった争いが起こると、モップなどを持って止めようとする。


「ケンカはやめろ! この僕が成敗するぞ!」


 まるで自分が勇者にでもなったかのような振る舞いである。


 「パズルゲーム」被験者たちは、食事として出されたパンを積み重ねるなど、奇妙な行動を取るようになった。


「これで三つ積み重なった……」


「わー、すごい! ハイスコアだね!」


 「レースゲーム」をプレイする者たちはなにかにつけ、スピードを競うようになった。


「よっしゃ、5分で食えた!」


「くそーっ、負けたーっ!」


 こういった奇行はどんどん目立つようになり、ちょっとしたことで諍いが起こるようになっていく。

 敵を倒す要素のあるゲームプレイヤーは暴力的になり、そうでないゲームのプレイヤーも明らかにゲームに染まった行動をするようになった。

 このままでは致命的なトラブルが起こることにもなりかねない。

 実験の責任者である魅村はこれ以上の実験は危険と判断し、二十日目で実験は中止となった。

 被験者たちには全員医師の診察を受けさせ、健康的には問題がないことを確認すると、謝礼を渡し帰宅させた。


 ――以上が、魅村が行った実験の全容である。


 この発表は世間に大きな衝撃を与えた。

 魅村は「これはあくまで一実験の結果」「閉鎖的な空間という特殊な状況だった」とフォローしたのだが、ゲームによる影響は明らかであり、「やっぱりゲームは悪影響なんだ」と判断する人が多く出た。

 もちろん、この状況でもゲームは安全だと主張する人はいたのだが、実験結果という明確な証拠がある以上、さほど力は持たなかった。

 メディアも「ゲームは危険」「人を変貌させる」という報道をするようになり、不安は煽られ、短い間にゲームの売り上げは激減してしまった。

 このままゲーム業界は急激に衰退していくものと思われた。


 しかし半年後、被験者の一人がある週刊誌の取材にこう答えたのである。


「あの実験は……全て“やらせ”だったんです」


 彼によると、被験者たちは事前に魅村から「ゲームに染まったような行動を取るように」と言い含められていたという。

 すると、芋づる式に他の被験者たちも告白を始めた。


「パズルゲームにハマりすぎたふりをしていました」

「実験前日に呼び出されて、演技するよう指示されて……」

「格闘ゲームグループだったので、暴力的な振る舞いをするように言われてました」


 これらの告白は大きく報道され、再び世間に衝撃を与えた。


 マスコミから問い詰められた魅村は実験の“やらせ”を全面的に認めた。


「歴史に残るような研究者になりたくて、このようなことをしてしまいました。大変申し訳ありませんでした」


 功名心からの行動だったと大勢の前で謝罪する魅村。

 大学もこの問題を重く見て、魅村は解雇される。もう二度と彼を表舞台で見ることはないだろう。


 そして当然、“やらせ”だった実験で証明されたゲームの危険性は、撤回されることとなる。

 逆にゲームは安全なんだ、人格に影響を及ぼすことなどないんだ、ということが証明された形となり、今までの反動で皆がこぞってゲームを楽しみ始める。

 一度下がった売上を帳消しにする以上の勢いでゲームは売れた。


 そう、魅村は「ゲームは性格や人格形成に影響するのか」の問いに明確な答えを出したのだ。

 自分の社会的地位と引き換えに……。



***



 とある場所で、スーツ姿の魅村がある男と話している。


「全て上手くいきましたよ」


 魅村と話しているのは、とあるゲームメーカーに勤める男だった。


「これで……“性格や人格に悪影響がある”と心のどこかに不安を抱えながらゲームをプレイする人はいなくなるでしょうな」


「うむ……我が社で今度発売するゲーム……社会現象クラスの大ヒットが見込まれているが、そこにはある種の暗示を潜ませてある」


「……」


「光や音、文字などでプレイヤーを洗脳にいざなう暗示をな……。だが、この暗示も万能ではなくゲームに対し不信感や不安感が少しでもあると、非常にかかりにくいものとなっている。しかし、そうした心の壁は君のおかげで一掃されたというわけだ」


「ええ、なにしろ“ゲームは悪影響”などという実験は真っ赤な嘘だったわけですから」


「感謝するよ。私のために、自分の社会的地位まで投げうってくれた君にはな」


 魅村は口角を上げる。


「いえいえ、あなたがゲームを通じて世の人々を洗脳し、どんな世界を作るのか、私はそれに非常に興味がある。それを見られるのであれば、私の教授の地位など安いものですよ」






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
つまり……。 “やらせ”とみせかけて“やらせ”ではなかった。ということ……かな? そして、洗脳して世界征服とか……かな? ゲームで人格に影響があるとは思います。 私は小さい頃、ロボット映画などを観た…
面白かったです。 星新一を彷彿とさせました。
タイトルを見てそんな訳ないだろう、と思ってたらそこから更にもう一捻りとは。非常にマッドな意味で目的のためなら手段を選ばない人だった。 持ち上げておいて梯子を外すことでより強く信用を失墜させる手法はよく…
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