1話A もう一度、したいこと(※現代パート)
Aパートは、現代編です。
Bパートから読んでも大丈夫です。
12年前の大雪が降った後のクリスマス。
父と母、それと仮面ライダーのベルトを巻いた小さな男の子が歩いている時に、トラックが雪道でスリップして歩いている三人に激突。
両親は子供を庇って覆い被さったお陰で、男の子だけは一命を取り留めた。
その後、子供は遺産相続で醜い親族争いの時に、子を授かれなかった優しい親族に引き取られた。
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それから、12年後のクリスマスシーズン。
高校生という多感な時期には、デートやイベント、バイト、部活など様々な予定が詰まる時期。
「帰ろうぜ、橙也!」
「良いよ、俺バイトだから途中までだけど」
日高 橙也。件の事故被害が成長して少年となっていた。
今は帰りのチャイムが鳴れば、帰宅部か塾通いの友人に囲まれて帰りに誘われる。
「夜のクリスマスパーティは橙也もパーティ来るよな!」
「行く行く、ルミちゃんとかもりっちとかも来るんでしょ?」
「マ・ジ・で女子とか先輩とか誘いまくって合コン(仮)みたいにしたから♪俺はアフターで能戸ちゃんと会う気だけど〜」
クラスのお調子者の堀元がハシャいで皆の周りをグルグルと回る。そして、何人かの奴らに掴まれて弄られる。
「クリスマス本番は男の会だから、そっちも橙也は参加するよな?女作ってる堀元はハブだけど」
「あっ、ひでぇー‼︎俺は男だから参加権利はあるだろうがっ‼︎」
「うっせぇー‼︎これは『独り身の会』なんだよ、お前みたいな人気者には必要ないの‼︎」
堀元とガタイの良い原塚やその他が、帰りでワーキャー男子同時で戯れる中で、『クリスマス』のワードを聞いた橙也は少し俯く。
「あっ、ごめん。クリスマスは両親と叔父さんの命日だから行けないや」
「おっ、そっか…。すまねぇな」
「何か、そのごめん…」
「いやっ、何か辛気臭くしてごめん‼︎あっ、自販機あるから何か奢るよ‼︎」
橙也は走って自販機で温かい飲み物を連打して人数分を買う。
彼なりの出席出来ない埋め合わせとして、雰囲気を悪くした分も合わせて飲み物をプレゼントした。
「本当は良いんだぜ、こんなのくれなくても…」
「気持ち、気持ち♪断り悪かったし、俺も寒かったし何だかんだ皆と飲むのも良いかなって」
「本当にそういう所だぞ!お前、裏でモテてんの知ってんだかんな!あれやこれやで断りやがって‼︎」
橙也は堀元に抱きつかれる様に首を絞められる。原塚は何処か申し訳なさそうに缶コーヒーの蓋を開ける。
「ってあれ、オタク君達じゃね?おーい!オタクくーん‼︎」
「あっ、堀元君たち。おーい!」
「……………。」
クラスのオタクグループの安周と田中。
安周の方は軽く手を振って答えるのに、田中は橙也達グループに苦手意識を持っているのか俯いて目を逸らす。
「なーに話してんの?ジャ◯プ?マガ◯ン?」
「特撮ヒーローについてかな。田中君は幼稚だっていうけど、僕は面白いから語ってるの」
「チッ、ガキが観る番組より深夜アニメの方が良いだろ…」
安周は堀元と気兼ねなく話している中で、田中はブツブツと何か言っていたが、橙也も含めて気にもしない。
「あのさ、俺たちが子供の頃のヒーローって何だったっけ?昔、親に買って貰った腰に巻く玩具、失くして分かんなくなっちゃってさ」
「あーっと、僕たちの子供の頃だとここら辺かな?」
安周がヒーローシリーズの公式サイトを見せる、フルーツの鎧?パーカー姿のオレンジ顔?ピンクで派手な独特のキャラ?
死んだ両親が、あの日に買ってくれたクリスマスプレゼント。いつ失くしたのか、どんなものだったのか忘れてしまった。
「どれも違うな…。もっとこう…アレ?何でか出て来ない…」
「うぅ〜ん、サブライダーとか?随分、真剣な顔して見てるけど何かあったの?」
「いや、ごめんごめん!懐かしいな〜、って思っただけで!俺、此処で別れっからバイトした後で向かうわ‼︎」
橙也はスマホを見た時の顔がいつにも増して真剣そのものだったせいで、皆に心配を掛けてしまったのを悪いと思って走り去る。
「日高君に悪い事しちゃったかな?」
「あぁー、多分あれだな。安周は悪くねえよ、寧ろごめんまである…」
堀元と塚原は友達として何かを察した様子で、心配する安周を宥める。
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時計が20時を迎える前にバイトが終わってから少し古臭い家に帰ると、部屋の中から良い匂いがしてくる。
「ただいま、叔母さん」
「あっ、橙也。お帰りなさい、今日も学校は楽しかった?」
「うん、超楽しい。それにバイト先で鍛えて貰ってるから筋肉ついてきた」
両親を失ってから育ての親として、ずっと一緒にいてくれている叔母さん。
橙也の帰りにわざわざ合わせて夕食を作ってくれていた。
ふと、机の上を見ると大量のフルーツと献花が置いてあった。
「もしかして、叔父さんと父さん達の?」
「今年も3人の命日。何の因果か分からないけど同じ日に亡くなっちゃったからって、まとめちゃってるのはごめんなさいね…」
「ううん、大丈夫!俺も叔母さんも忙しいのは父さんや母さんが上から知ってるだろうし、それに叔父さんは騒がしい方が好きでしょ?」
叔母さんは毎年の悩みの様に、3人の仏壇の写真を見る。
橙也は屈託のない笑顔で写真をみながら励ます。
「叔父さんからの教えはちゃんと守ってるから怒んないよ。『人には優しく助け合え』『人生は楽しめ』。そして、叔母さんを宜しくって」
橙也はこの言葉を口ずさむ度に、叔父さんのことを思い出す。優しくてきっぷが良い面白い人だったのを。
「あの人ったら、あの2人が亡くなってあなたを迎える前に『相続だなんだで揉めてる間に一番大事で凄いもんを貰ってく』って言ったのを今でも思い出す…」
「その後で、親戚から何度も電話で『高価な物ならちゃんと換金しろー』みたいなの言われたわ」
親戚は橙也の両親が死んでから養育費までの相続まで全部根こそぎ持って行った。
橙也自身も保育施設に入れる気満々で話を進めていたのを、叔父さんが一人で手を引いて家に迎え入れてくれた。
そんな経緯だからこそ、橙也は叔父に憧れと敬意を抱いている。
「そういえばさ…俺の子供の頃にあったヒーロー番組の玩具ってまだあった?」
「あ〜、あったのは知ってるけど…何処にあるかは知らないわ」
「ご、ごめん!何だか今になって思い出して、何処あったかな〜、ってさ!それよりも、ご飯食べようよ。腹減っちゃったし!」
「そ、そう?なら食べちゃいましょうか」
ふと、放課後の帰り道に話していた特撮ヒーローのベルトを思い出す。
両親が買ってくれた最初で最後のクリスマスプレゼント。もうどんな形なのかも覚えていないけど、この家に来た時にあった唯一の宝物だった。
けれど、12年も前のものだから自分でも知らないし、叔母も覚えていない様子だった。
両親の形見に近いからか変に言い出すと、今の重かった雰囲気から、叔母が必死に探そうとしそうだったから、その前に話を切り出した。
クリスマスイブの夕食を食べてから、団欒と少し楽しんでから寝初めて、時計が日付の始まりを回り出した頃に橙也は飛び起きた。
「はっ‼︎………また、あの夢か」
夢の内容は、両親が目の前で轢かれた瞬間がべったりと血の付いたあの記憶。鮮明に思い出せる感触と匂いが頭にこびり付いて離れなくなる時がある。
大抵は暫く寝付けなくなるので着替える。
「ちょっと気晴らしにコンビニでも行くか」
コートを着てから寝ている叔母さんを起こさない様にして夜のコンビニへと出かける。
「おっ、トーヤンじゃん」
「ソノ先輩、ちーっす」
「何、お前もバイト帰り?」
コンビニの前でコーヒーを啜っているのは2年先輩のソノ先輩。橙也を非常に気に入ってて目を掛けている。
先輩はクリスマスのイベントバイトで、トナカイコスをした帰りらしく疲れ切っていた。
「俺はちょい目ぇ覚めちゃって。先輩こそ夜遅くまでのバイトお疲れーっす」
「んあぁ、俺は大学行かずに就職組だからなぁ。美佳の腹の子供の為に高校卒業後までも金貯めねぇとな」
「子供、大変っすね。ゼロから始めるって尋常じゃないっすよね」
橙也はソノ先輩に渡された1個余分に買っていたコーヒーを貰う。
学生婚した奥さんの分だったらしいが話を切ってしまうよりも話したい気分らしい。
「まあ、俺にとっちゃ。今のお前も子供以上に何か心配なんだよな…。何だか、どっか飛んでいきそうでさ」
「は?綿毛かなんかっすか、俺」
「お前さ、以前に同級生のオタク連中らが絡まれてる時に助けに入ったろ?あの時の必死さたるや怖かったよ、マジで」
ソノ先輩は真面目な顔で忠告を告げる様に話してくる。本気で怒っている様で心配している様で、少し上のお兄ちゃんみたいだった。
実際に、中学生の頃にあった事件の時には、顔中傷だらけで骨にヒビが入るレベルの大喧嘩だった。今もネットを軽く検索すれば、橙也の顔が出てくる。
「あんまり危ない事に突っ込んで欲しくない訳で。人助けも程々にしろよ」
「ん、まぁ、はい。でもまぁ、叔母さん置いて死ねないんで頑張りますよ」
「………まぁ良いけどさ。お前には俺達の子供を一番に見せたいからさ」
2人で感傷に浸りながら寒い夜風を身体に浴びる。
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翌日のクリスマス。休日と重なった明るい街並みに比べて、家では叔母さんは黒い服、橙也は制服を着ていた。
「こじんまりとしたものだけど、変にゴタゴタさせちゃうと皆んな困っちゃうからね」
「そろそろ線香あげようか」
仏壇の前に座る2人の前には、3人分の写真が並んでいた。
叔父さんと、橙也の父親と母親の写真。既にいない写真には笑みだけが写されていた。
「あら?昨日買った果物の中に、あの人が大好きだった林檎がないわ…」
「急いで買ってくるよ。叔父さんがいつも食べさせてくれた奴だから無いと寂しいでしょ」
買い物袋を探す叔母さんに、橙也は気を遣って財布だけを持って家を飛び出す。
「うぅ〜、寒っ!うげっ、雪まで降り出しちゃってる。早めに帰らないと」
異常な寒冷による12月で久しぶりの雪が降った。
スーパーへ走る道で河川敷の橋の下に何かを見る。そこでは橙也とは全く違う学生服を着た三人組がホームレスを虐めていた。
「喰らえっ!ドクズのゴミに、ドロップキィーック‼︎」
「やめてくれ!やめてくれぇっ!」
「良いねぇ〜、こうちゃん‼︎『正義の審判 浮浪者に下る‼︎』ってタイトルに相応しい動画、撮れてるよぉ〜♪」
1人がホームレスを羽交いじめにして、もう1人がスマホで録画をして、最後の1人が蹴りを入れる。
制服からして、橙也の学校よりも偏差値の高い高校にも関わらず低俗過ぎる光景に思わず、橙也は走り出す。
「お前ら、やめろぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」
「ごげっ⁉︎な、何だ、テメェ⁉︎」
「おじさんは早く逃げて‼︎コイツは押さえておくから‼︎」
橙也は蹴りを入れていた学生にタックルをお見舞いする。突然の乱入に、羽交い締め役の腕が緩んだのかホームレスは逃げ出す。
追おうとする学生に再びタックルして抑え込む。
「離せっ!離せよっ!」
「絶対離さないッ‼︎何で人を傷つけやがるッ‼︎」
掴み合い揉み合う橙也の腹に学生は何回も蹴りを入れるが全く力を緩めない内に、ホームレスは河川敷を登って遠くへと走る。
「逃げられたか…」
「テメェ、くらいやがれッ!」
顔を上げて逃げたのを見てホッとするのも束の間、激情したタックルした学生が大きめの岩で橙也の頭を殴る。
瞬間、当たりどころの悪かった橙也は崩れ落ちる様に血を出して倒れる。
「やったね、こうちゃん‼︎今の良い一撃だよ、絶対今のシーン伸びるって‼︎」
「こんなんで許す訳ないだろ、まさやん。アレ持って来てるっしょ」
橙也は頭から血を流して痙攣して倒れる。
明らかにヤバい場面に、一人の血の気が引いて青ざめる。
「な、なあ。これヤバくね?あいつ、身体が痙攣して血が流れてるし死んだじゃ…」
「は?低学歴のクズが死ぬんだったら、成敗スッキリ系で売れんだろ?早く爆竹で囲んで燃やせ‼︎」
激情した学生と録画役の学生はテンションが高まった様子でいる反対に、羽交い締めをしていたもう一人だけは『殺人』が頭を通り過ぎる。
以前として痙攣している橙也の周りを爆竹で囲んでライターを付ける。迫る火花に橙也の曇っていく瞳には世界が遅く見えた。
「(痛い…何か熱くもなってきてるけど寒い…俺死ぬのかな…いや、死ぬんだなぁ……)」
「お前達!何をしてるっ‼︎」
「やべぇ、サツだ‼︎逃げるぞ‼︎」
「やっぱり、こいつ死んだんじゃ…」
薄れていく意識の中で、学生達は河川敷の砂利を踏んで逃げていく音に警察が鳴り響く爆竹が止んでから安否を確認して揺らす感覚。
学生達が別に来た警察に挟み撃ちにされて捕まって喚き叫ぶ言葉を最後に、橙也は意識を手放した。
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