2話 なぜ僕はこんなにも
告白イベントに遭遇してから2日経った。俺が思っていた様な事にはならなかった。よくよく考えてみれば元々友達もほぼ居なく、浮いていたので状況が変わるわけも無い。
今日の昼休みも本来なら体育館倉庫に行きたかったのだが、残念ながら今日は委員会があるので行けない。そんな俺は図書委員である。なぜこの委員会を選んだかと言うと、
死ぬほど楽だからである!
図書室という誰も来ない空間でボーッと出来るのはとても幸せな事であり体育館倉庫とそう変わりない空間だから!そもそも俺の高校ではスマホの持ち込みが可能であり、本を読むにしてもスマホで事足りるしそもそも、今どきの高校生が本なんて読むわけが無い。
なので暇&静かと言う最高の委員会なのである!
ただ暇というだけで仕事が無いわけでは無い。例えば本の貸出等を行う必要があるのでその時にはもちろん人と話す必要が出てくる。そしてなんと本を借りた人をリストで見る事が出来る!
なのでここにもし名前が無ければ本当の意味で暇になると言う事だ。
まぁそんな事は中々無いのだがそんな一縷の望みに掛けてリストを除く。
「今日は外れの日か」
リストを見た時に思わず声が出てしまった。パッと見12人くらいが借りている。頼むから今日返しに来ないでくれよ、そう思いながらリストの名前に目を通した。
"坪内蘭菜"
その名前が目に入ってしまった。最悪だ。そのパターンは想像してなかった。相手は一軍陽キャ女子、俺みたいな最底辺の男と絡む事なんて今後一切無いと思っていた。
いや、焦るな俺。あくまでも借りている人のリストってだけだ。今日返しに来る訳では無い。何もビビって待つ必要も無い。どうせ来ないだろう。
俺は知っている、陽キャ女子と言う生き物はこういう期限をまともに守る訳が無いと。
俺の考えすぎだ、ビビって損したぜ。
焦る気持ちを落ち着かせながらまたボーッとし始めようとした。
だがその焦りはまたぶり返す事になる。なぜなら2日前に聞いた事のある声が廊下から聞こえてきたからである。
(いやいやいやいや、待て待て。返却期限は来週だぞ!?そんな、まさか返しに来るわけ無いだろ!?)
段々と近づいて来る声に怯えながら俺は冷静を保っている様に振舞っていた。
だが俺の思いは虚しく坪内とその仲間、計4人が図書室に入って来た。
「ラ〜ちゃん偉すぎるよ〜 本の返却来週でしょ〜?めちゃくちゃ早く返すじゃん。図書室の本なんて過ぎても何も言われないのに〜」
そう言ったのは佐々木葵。常にダルそうにしてるよく分からないギャル。だが俺は賛同する。陽キャは期限内に本を返すな!
「つぼっちゃんは真面目だからね。葵と違ってしっかり期限内に返すんだよ」
「何だって〜?私だって返そうと思えば返せるし!」
(太田よ、期限内に返すのは割と当たり前のことだぞ。真面目云々では無く)そう心の中でツッコミを入れたがこれを声に出してしまうとタダのヤバいやつなので心に閉まっておく。
「蘭菜は何の本借りてたんだ?」
「地学の自習で使ってた図鑑的なやつだよ」
本の中身を聞いた時俺は思わず真面目かよ!と声を大にして言いそうになってしまった。危ない危ない
だが危機は何一つ去って居ない。このまま近づいて来られて坪内に俺の事がバレたら確実にリンチされる。だが今図書委員は俺1人、つまりここで逃げれば仕事放棄、対応すればバレてリンチ。完全に四面楚歌である。
ここは声を少し高くしてバレないようにするしかないか、いや無理がある…だがやらずに居ると殺される。やらない後悔よりやる後悔だ、顔を見られないようにして声を高くだ!
「本の返却ですか?学年と番号名前をお願いします」
俺の最大限高くした声だこれならバレないだろう。
「そうです。1年2組24番坪内蘭菜です」
「分かりました。では本をお預かりしますね」
「ありがとうございます」
よし!何事もなく行けたぞ!俺はバレなかった!これはデカイ一難去った。後は帰ってもらうだけだ。
そう思っていた
「図書室なんて来た事無いな〜ちょっと探検してから帰ろ〜」
佐々木がそんな事を口にした。
(いや!帰ってくれ!長居されるとバレる!)
「いいね、休み時間まだあるし見て回ろうか」
「賛成!」
そういう会話があり4人は図書室に残った。俺は今日死ぬらしい。このままバレて吊るし上られるらしい。
だが俺は少し心がザワついていた。このままでも別にいいかもしれない。どうせこの先接点も無いような人達だ。このままでも別になんの問題もない。
だけど
なにか
ふと坪内の方を見た。楽しそうに話している。とても一昨日フラれたとは思えないような笑顔。だが他の3人が坪内を見てない時彼女は少し寂しそうな、悲しそうな顔を一瞬だけ見せる。
そうだ、坪内は悲しい気持ちを周りに悟らせないようにしているだけで、気にしてない訳では無い。
(つまり俺の事も…)
色々ひっくるめて悲しいんだ。俺があの時
「告白する相手も見定められないのはどうかと思う」
そう言った事ももしかしたら気にして未だに傷ついてるかもしれない。
「謝らなきゃ」
そう思った。まだ休み時間はある。謝るチャンスはこの先死ぬほどあるだろう。
だけどここで謝らないと彼女はしばらく引きずるかもしれない。でも俺が謝っても心情になんの変化も無いかもしれない。俺がただ自己満で謝るだけになるかもしれない。
俺は、謝りたい。
俺はそう決意した。だが相手は陽キャ、俺みたいな陰キャが話しかけても良い相手なのか。いや関係無い。謝るんだ、声を出せ。
「あ、あの」
あまりにも小さすぎる俺の声。それは4人の話し声より遥かに小さい。そんな声が届く訳無い。チャレンジしようと何度も声を出そうとした。でも声は出ない。俺はなんて弱いんだ。たった1度謝る事も出来ずにただ逃げて。
心が体の原動力とよく言うがあれは嘘だ。心で決めても体が動くとは限らない。それを今ひしひしと実感した。
そしてチャイムがなった。今1番聞きたくない音。俺が俺自身に負けたと告げるゴング。
彼女達が教室に戻るのを後ろ目に思わず視界が震えてしまった。
なんでたった一言言えなかったのだろう。
なぜ僕は"こんなにも弱いのだろう"
震える体と零れそうになる雫を押さえ込み俺も教室に戻った。