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1話 僕は色々と逆張りしてしまう

ここ最近、四季と言う概念は消え去ったのでは無いのかと思うほど暑すぎる春


そんな春に僕は いや"俺"神崎唯人はここの高校に入学した。


過去の自分を捨て去り誰も自分の事を知らない環境で新たな自分を表に出していく、世の中ではこれ を高校デビューとでも言うのか。俺は絶対にこの高校デビューを成功させたい。中学の時とは違う生活を送りたい。その一心で高校に入った。そう、ここから俺の圧倒的青春漫画が始まるんだ!!!



そう意気込んだ入学式の日がとても遠く感じる。入学式から早1ヶ月

俺の想像していた高校生活は実現していなかった。俺は入学してすぐに彼女の1人でも作って学校の一軍、言わば陽キャという部類に入ると思っていた。 だが現実は残酷だ。

一軍は愚か彼女も出来ず友達も片手で足りてしまうほどの数しか居ない。なぜこうなった、こんな予定では無かった、そんな後悔が頭の中を駆け巡り泣きそうだ。


そんな僕の昼休みの過ごし方を教えて上げよう。教室で皆と机を集めお弁当を食べる……

なんてそんな馬鹿な話がある訳無いだろう!僕は誰の目も付かない様な体育館倉庫でお弁当を食べて、その後跳び箱のマットを敷いて次の授業まで寝ている。これが高校デビューを失敗した者の末路だ。ただこのひと時が至福。誰の声も聞こえない静寂さ、そんな静けさが僕はとても好きだ。


ただそんな好きなひと時に今日はイレギュラーが起きた。そう体育館での告白イベントだ。まずい、まずすぎる。俺の静寂が壊される事がまずいのでは無い。告白イベントのメンツがヤバいのだ。


一軍男子の田中寿人と坪内蘭菜なのだ。もしこの告白イベントを盗み聞きしているのがバレたら、俺は間違いなくこの学校で浮く!ただでさえ浮いているのに!どうにかこうにか逃げ出したいがここの倉庫には出入り口は1つしかない。つまり詰みである。今の俺に出来ることはただバレないように祈る事のみ。


ただせっかくなら少し聞いてみたいと言う邪な思いがあるのが人間である。ここからだと少ししか聞こえないから聞き耳でも立ててみるかと思い、扉に近づいて行く。


「付き合って下さい」


坪内の一言が静かな体育館に響く。 良く言った!と言う誰目線かも分からないような思いを募らせてしまった。


「ごめん、君とは付き合えないんだ」


坪内の言葉の後少しの間を置いてから田中がそう言った。


「そっか、ダメか」


坪内が寂しげに言葉にする


「なんでダメか理由を聞いても大丈夫?」


「僕には別に好きな人が居るんだ、ごめんね」


田中の返答はよくある断り方だった。


その後の会話は気まず過ぎて聞くに堪えず盗み聞きは辞めた。それにもう気になるほどの声の大きさでは無いので寝るには問題無い。


「後はバレないように願いながら寝るだけだ」


そう声に出して僕は寝た。


少しして夢を見そうになっていた。体が浮くようなあの感覚。気持ちよく寝れるそう思った時に泣く声が耳に入ってしまった。


坪内が泣いていた。


フラれた事が相当効いたのだろう。恐らく漫画のイケメンなら、泣いている坪内の元に近づいて行き何か優しい言葉でもかけて坪内の事を落としに行くのだろう。だが俺は違う、イケメンでは無い背も死ぬほど低い、それに陰キャ。そんな僕が話しかけてもキモイだけだ。


どうしたものか。もうすぐ昼休みが終わってしまう。坪内は動く気配が無い、5時間目に行かずに泣き続けるつもりだろう。ここで倉庫から出たら盗み聞きしていた事がバレて晒し者。でも授業に出れなくても成績が落ちて先生から積められる。


究極の二択だ。


ありえない速度で脳みそを回転させて閃いた。顔がバレなければ問題無いのでは無いかと。

その作戦に掛けるしかない。そう決意を固め走り出そうとした。


ガラガラガラガラッ


なぜだ。俺はまだ扉に触れてないのに扉が空いた。ふと扉を見るとなぜか坪内が居た。


「うわっ」


そう言って坪内が後ろに尻もちを着いた。その間俺はありえない速度で脳みそを回転させた弊害でフリーズして大量の冷や汗を垂らしていた。


「ど、どうも」


俺は何を言って居るのだ。在り来りな挨拶で抜け出せるような状況でも無いのになぜ挨拶をしてしまったのか!


「君ずっと私達のやり時聞いてたの?」


「いや、、?そんな事ないですよ?たまたまここに居ただけと言うかなんと言うか」


俺よ、それは無理がある。倉庫に居てあれが聞こえない訳が無い。そう思い死を受け入れる思いでいた時


「私の告白どうだった」


坪内がなぜか質問してきた。俺は最低とかの罵詈雑言を覚悟していたのに思わぬ言葉。返答に詰まる。


「告白する相手も見定められないのはどうかと思う」


混乱したが故に謎の返答。なぜ普通に慰めの言葉を掛けてあげられないのか。なぜ優しい言葉を掛けてあげられないのか。


「最低」


坪内の返した言葉はごもっともである。失恋した後の女の子は丁重に扱うべきと分かって居るのになぜ。


なぜ僕は素直に慰められなかったのだろう。

なぜ逆張りして意地悪な事を言ってしまったのだろう。


その後悔が頭を駆け巡りながら坪内の走り去る足音をただただ聞いている事しか出来なかった。

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