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新興宗教の勧誘には絶対に近づかないと心に誓っていた俺だが、ふとしたきっかけで妙な集団に足を踏み入れることになった。
案内されたのは、薄暗い通路の奥にあるライブハウス。中には数百人規模の観客が詰めかけており、ステージには演奏の準備が整ったバンドが控えていた。
「さあ、君が主役だ。」
リーダーとおぼしき男が俺にそう言い、観客が一斉に拍手と歓声を送る。
状況が全く飲み込めない中、不思議な高揚感が湧き上がってきた。
この異様な空間の熱気に飲まれた俺は、気づけばステージに足を踏み出し、手にマイクを握っていた。
「次に歌う曲は…」
観客の視線が俺に集中し、胸の奥から言葉が湧き上がる。
「一曲目、『和同開珎』!」
観客のざわめきが歓声に変わる。俺自身もなぜこの言葉が出たのかわからない。ただ、口にした瞬間、それがこの場で正しい選択だったと確信した。
「古いものから新しいものに変わっていこうって曲だよ、おい!」
なぜか自然と声が弾む。
「紙幣のようにね!」
すると観客が一斉に笑い、熱気がさらに高まった。
バンドがイントロを奏で始める。俺は深呼吸して、マイクに声を乗せた。
--イントロ--
ちんちんちん 和同マイロード〜♪
歴史の川を渡れ〜♪
硬貨の声が響くよ〜♪
ちんちんちん 和同マイロード〜♪
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