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お手!と言ってしまったばかりに...

作者: 乙熊こはな


「ご主人!ご主人!もう、朝だよー」


誰かの呼ぶ声が聞こえる。が、昨日夜遅くまで本を読み、お昼まで寝ると意気込んだ私に向けてでは無い。二度寝をかまそう。


「ご主人、もしかして二度寝しようとしてる?」


私は誰かのご主人になった記憶は無い。消去法で私に向けてでは無いな。犬が1匹...犬が2ひ...


「そうか、分かった!ご主人はお目覚めのキスが欲しいんだね。昨日も夜遅くまで僕との未来を想像してあーんなことやこーんなことしてたもんね」


聞き捨てならないことを言い出したので、飛び起きる。


「ちょっと、待ったっ!!!昨日読んでいたのは犬の雑誌だし、何より私はただ待ってる姫じゃない!」


布団をアイツに向け投げ出し、飛び起きる。


「おおっと、ご主人が使ったばかりの布団だ...匂いが染み付いていてこれは...!」


変態が言い出したことに寒気がし、すぐさま布団を取り返す。


「な、なんで、いつも何もかも私は上手が取れないんだ!」


手元に布団が無くなって落ち込んでいるヤツは、誰もがイチコロになる笑顔になり、


「ご主人への愛が大きすぎるからかな」


その言葉に少し傷付きながら、今日も一敗したことを悟る。


「おはよう、太一」


「おはよう、ご主人。今日の朝ごはんはご主人の好きなワッフルを焼いたよ」


言われてみれば、寝室にも甘い香りが漂っている。


「作らなくて良いって言ったのに...、でも、ありがとう」


作ってくれたことはありがたいので、素直に言う。




「さて、ご主人。ご飯を食べた後はもちろん散歩だよね」


「そうだね。今日は学校が休みだし、行こうか」


太一は私の言葉を聞くとがさごそと棚を漁りはじめた。「これも、ご主人に命を握られてるって感じで良いし...こっちも捨てがたいっ!!!」なんてほざいている。


「もう、私は行くから」


「あっ、待ってよ〜ごしゅじーん!」


あいつの遊びに付き合いすぎるのは良くないので、さっさと家を出る。


私と駄犬こと太一は同じ家に住んでいる。所謂同棲ってヤツにも見えなくも無い。が、決してそんなんじゃ無くて私は家事担当として住み込みでバイトさせてもらっている。

太一は普通の人間ではなく、犬の耳が生え、尻尾もある獣人と言う種族だ。

獣人と人間は基本的には変わらないと文献を読んだが、犬の獣人の場合匂いを感じやすかったり、蛇の獣人は皮膚が硬いところがあったりするらしい。つまり、元となった動物の性質を軽く受け継ぐらしい。ただ人によって性質も濃く出たり、あまり出なかったりもあるらしい。

私は獣人じゃないから、らしいまでしかわからない。でも、動物が好きだから人よりは文献を読んだり、大学では獣人専攻で学んでいたりする。


置いて行きすぎるのも良くないから、少し歩く速度を遅くしながら駄犬を待つ。飴と鞭は上手く使わないとね。


「ご主人〜、やっと追いついた!見てみて〜、この首輪はご主人をイメージしたカラーなんだよ〜」

「はいはい、ありがとう」

「あと、やっぱりご主人にはリードを持ってもらわないと」


当たり前かのように渡されて受け取ってしまう。


「って、ダメ!!!」

「じゃあ、代わりに手をつないで。僕が逃げないように」

「も〜、しょうがなくだからね!」


逃げないようにしてるのはどっちかとか、絶対こうなる事を見込んでリードを持ってきたのだろうと思いながらも、手を繋ぐ。これじゃあ、どっちがご主人なんだか...つい笑ってしまう。

それにしても、あたたかい。きっと、太一は体温が高いのだろう。初めて会った時も太一はあたたかかった。




私は小さい頃から動物が好きだった。特に犬が好きだった。でも、お母さんが犬アレルギーだったから犬は飼えないと言われていて毎日公園に出掛けては飼い犬を触らせてもらって何とか犬欲を抑えていた。

その日も公園に訪れていた私は犬の足跡を見つける。


「この方向に行けばわんちゃんが居る!!!」


とことこ幼い手足で足跡を追いかける。その犬は生垣も入ってしまうやんちゃな犬だったようで私は泥だらけになりながらもその存在を追った。


「見つけたっ!」


発見した犬を思わず抱きしめる。犬はビクッとしたが脅威ある存在では無いと思ったのか大人しくなった。


「いきなり抱きしめてごめんね、逃げずに居てくれてありがとう!よーしよし!」

「くぅーん」


私の犬撫で検定1級の実力を受けたわんちゃんは降伏のポーズになる。


「よしよーし!じゃあ、お手!」


わんちゃんは何を言われたかわからなかったようだが、私は右手を持って自分の手と合わせた。


「こうだよ〜」


今どきお手を覚えてない犬も居るんだな〜と思いながら。

もう一度お手!と言うとしっかり右手を合わせてくれた。教えられてなかっただけでこの子は賢い子だ。


「いい子だね〜よしよし!」

「くぅぅーん」


いい子はしっかり褒めるが私の座右の銘である。

私も撫でられて気持ちが満たされていく。撫で撫で攻撃を受けた犬は微睡んでいた。

しかし、飼い主さんはどこに居るのだろう。首輪も探したが無かった。

私は立ち上がるとお父さんが居るお家に向かう。幸いわんちゃんは私に懐いてくれたようで着いてきた。


「お父さん、数日の間この子を預かれないかな...」

「そうだなぁ、お母さんは出張だからお母さんが帰ってくるまで数日間預かろうか。」

「やったぁ!ありがとう、お父さん!」

「じゃあ、二人とも泥だらけだしお風呂に入ってきなさい」

「はーい!」


そこからお風呂に入ったり、わんちゃん用のご飯などを用意して夜になった。

お風呂では何故かわんちゃんは目を隠したりしていて不思議なわんちゃんだなぁと思ったりもしたけど、わんちゃんが家に居ると言うことはとても幸せだった。

ベッドは犬と人が入ると物凄く狭かったけど、暖かさと幸せも詰まっていてとても嬉しい。


「ありがとう、わんちゃん。私ね、こんなに幸せな1日生まれて初めて、全部貴方のお陰!大好き!」


ぎゅっとわんちゃんを抱きしめる。ぺろぺろ舐められてると感じたが、何もかもが心地よくて寝てしまった。


わんちゃんこんなに大きかったけ...ともぞもぞなでなでしながら目を開ける。そこには犬では無く、耳が生えた人間が居た。


「キャー!!!」


そこからは、昨日拾ったわんちゃんが獣人であることが分かったり、その子が泣きながらお家に帰ったり怒涛の日々だった。

これが私と太一の出会い。

そして、何故か今も太一とは付き合いが続いている。


久しぶりに一人で家に帰ると、犬が居ておてをすると、何故か太一が居てお手をされる

浮気者!と言われ何故か家に連れて行かれる



「今日も教授に扱かれたけど、沢山学べたな〜」


 疲れの中にも達成感があり、気持ちよく帰路に着く。目を前に向けてみると、散歩している犬が居た。

「これはラッキー!」と飼い主さんに話しかける。


「こんにちは、かわいいわんちゃんですね。触っても良いですか?」

「ええ、どうぞ。この子うちに来たばかりで昨日お手を覚えたばっかりなんですよ」

「へぇ〜じゃあ...お手!」


その瞬間嵐が通ったような風が起きる。思わず目を閉じた私の手には重さが乗った。

目を開けるとそこには_


「え?」

「ご主人!」


私にお手をする太一が居た。


「ご主人酷い!僕以外にもお手を言うなんて...浮気だー!!」

「え?えぇぇ?」


太一が何か言ってるか理解できない。わんちゃんの飼い主さんもわんちゃんもポカンとしている。


「それでは僕たちはこの所で、マダムご機嫌よう」


誰も何も理解できないまま、太一に担がれていく。家へと近付いて行くにつれ状況を何となく理解していった。


「太一!!!ちょっと待った!」

「んー、なに?ご主人」

「いつの間にあそこに居たんだ?」

「ご主人の愛があれば瞬間移動さえも...と言いたいところだけど今日はご主人を迎えに行ってたんだよ」

「他にも気になるところはあるけど、そっか...そうなら連絡してくれれば合流出来たのに」


あの巻き起こった風とかどう言う理屈だろうとか思わなくも無いが、太一なら起こせる可能性も捨てれないのが憎々しい。


「それよりも、ご主人!浮気!!!」

「さっきも言ってたけど、何が浮気なんだ...」

「他の犬にもお手言ってた!ご主人のお手と褒められるのは僕だけの特権なのに!」

「いつから太一の特権なんだ...」

「それは出会った時からに決まってる」


太一の目が真剣な色を帯びた。急に暖かい空気感になる。


「ご主人が動物が好きなのは理解してるし、その夢も応援してる。けど、お手とご主人の褒めだけは譲れない。僕はご主人と出会った時に初めて温かい気持ちになったんだ」

「会った時...?」

「そう、ご主人に会って初めて好きって言う気持ちが生まれたんだ。この気持ちは僕の一生の宝物だよ」

「す、すき...?」

「言っておくけど友達とかの好きじゃなくて、愛してるの好きだから。鈍感なご主人」

「私も太一のことが好きだよ」

「ご主人はどうせそう言うと思ってたよ...って、え?」


いつも振り回されてるから目を丸くする太一を見るのは楽しい。


「私はいつもご主人じゃなくて、太一と対等な恋人になりたかったんだ。まぁ、少し意地になってた部分もあるが」

「ってことは僕たち恋人!?!」

「そうなるかな」

「やったー!!ご主人のこといつまでも大切にする!!!」

「それだ、私はご主人じゃなくて栞って呼んで欲しかったんだ」

「うん!栞!」


「栞、しーおーりー」


体を揺さぶられて意識が浮上する。


「さては、お目覚めのキスをご所望かな」


気配が唇に近付いて_


たまにはお姫様も悪く無いな、

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