邪神を討伐した俺、6人の美女を救うため死に戻る~ヒロインの好感度が最初から振り切れてる件~
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「――なので、この戦いが終わったら……俺とセッ〇スして欲しいです」
最終決戦の前夜、目の前の5人の女性たちに向かって身の上話と秘めたる思いを打ち明けた。
「「「「「……ん?」」」」」
女性陣から戸惑いの声が上がるが、もちろん俺は本気だ。
「ちょちょちょ、ちょっと待って!? アマトは『異世界から転生した人間で』……?」
「イセ、いつも元気をくれてありがとう!」
犬の獣人であるイセ。
その長く綺麗な赤毛と同じくとても明るい性格で……辛い日々を乗り越えて来られたのは彼女のおかげだろう。
「『女神様から特別に【ロード】というギフトを授かって』……確かに、人類の【ギフト】は女神様から授かるものだと言われていますが……」
「ルビア、優しく見守ってくれてありがとう!」
冷静で博識なエルフの女性、ルビア。
だけど本当は甘やかし系お姉さんなのを知っている。
「『死に戻りの能力でもあるため、死んでは時を戻り、また死んで……そして今に至るのだ』と。つまり、我らを何度も救ってくれていると言う事か!」
「ローズ様、王女であるあなたにこんなことを言うのは失礼だと存じてますが……大好きです!」
一国を背負う凛々しい姫騎士、ローズ。
何度も救ってはいるが、救えなかったことも多い。特に彼女のことは……。
「……それなら……どうして……」
「ニーサ、町を救えなかったこと本当に申し訳ない……!」
昏い目をした女性、ニーサ。
今回は彼女を満足に救うことができなかった。
本来なら、みんなを勇気付けてくれる心優しい歌姫なのだが……。
……本当に申し訳ないし悔しい。
「…………」
「フーシィ、助けるのがいつも遅くてごめんね」
うさ耳の少女フーシィがその耳をぴょこぴょこさせながら何か言いたげに……しかし何も言わずに見つめてくる。
彼女のおかげでこの死に戻りの旅も終わりが見えて来た、気がする。
それほど彼女のユニークギフト、【空間魔法】は強力だ。
「それで、何万回も時を超える中でみんなとは何度も出会って……思い出を積み重ねるうちに好きになりました」
地獄のような時を繰り返す俺の原動力は、最早ただ1つ。
彼女たちとこの先の未来を生きていきたいと言う願い。そのためのセッ〇ス。
……。
……はっきり言おう。
彼女らを好きになりすぎて毎日毎日たまらんのじゃああああああっ!!!
「え、えぇ~……?」
「いくらなんでも――」
「わかってる! みなまで言わないで欲しい! だけど……少しでも前向きに考えてくれたら嬉しいから……」
もしかしたら、この世界のみんなとは明日でお別れだから……。
後悔しないように伝えることに決めているんだ。自分勝手で申し訳ないけど。
それに、みんなの不安な気持ちを少しでも誤魔化せたらいいなって。
「だからこそ絶対に勝ちたいんだ! 邪神討伐を成し遂げてその先の未来を掴むために!」
「そうだな! 散った皆のためにも! そして私たち自身の未来のためにも! 必ずや邪神を打ち倒そう!」
ローズの言葉を締めに、それぞれ最後の眠りにつく。
未来を夢見て……。
◆
「見事だ、人間よ……」
「…………」
「……くっくっく。どうした? もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ……」
「…………」
……首から上だけになった邪神が何か喚いている。
「ガハッ……はっはっは。貴様も1人! 何もない世界で……惨めに過ごすがいいわ! はーっはっはっ!」
「……『次元分断』」
邪神の顔を2つに、次元ごと分かつ。
「…………」
周りを見回す。
どこまでも、抉れた地面しか存在しない。
共に戦った人類、敵である魔族。全て死んだ。
「……うぅ……ぐぅぅ……」
……イセ。ルビア。ローズ。ニーサ。フーシィ……。
誰も……助けられなかった……。
「くそ……ちくしょうっ!」
こんなのっ! こんなの意味がない!
「よくぞ邪神を倒してくれました、転生者アマトよ。あなたの働きにより、この世界は安寧を手に入れました」
「……プリムラ様」
……何度も見た女神が目の前に……。
――いや、俺をこの世界に転生させた彼女ならっ!
「邪神討伐の褒美に、何か望みがあれば叶えましょう」
「ならっ! 彼女たちを……みんなを生き返らせてください!」
「……申し訳ありませんが、あなたの望むような方法では不可能でしょう。別の世界か、生まれ変わるならまだしも……」
蘇生魔法の類は聞いたことがない。
俺を転生させた女神なら或いは、と思ったのだが……。
「……ならば! もう1度戻りたい! 今度こそ彼女たちを守って――」
「…………」
黙り込む女神。
「どうかっ! 自死では【ロード】が発動しないなら……あなたの手で!」
「よろしいのですか? 危ない場面が何度もありました。今回はたまたまうまくいっただけかも知れません」
「構わない!」
「何千何万と繰り返した果てに掴んだ勝利ですよ?」
「構わないっ! それでも俺は……彼女たちと一緒にいたいんだ! 一緒の未来に行きたいんだよぉっ!」
だめだ、涙が止まらない。
「……やはりやめときましょう。さて、邪神を倒した時点で【ロード】も、あなたの役目も終わりです」
「……」
「なので……その能力、返して貰いますね」
「え――ガブッ!?」
胸に手刀が――!?
「アッ、ガァッ!?」
「随分鍛えましたね。有効活用させて頂きましょう」
……。
……。
……。
お、わり……?
そんな……あんまり、だ……。
み……んな……。
◆◆◆◆◆◆
「……――はっ!? …………えっ!?」
気が付くとそこは最初に訪れる町、マリーノのハンターギルドの前だった。
「こ、ここは……?」
前世の街並みより既に見慣れた……中世ヨーロッパ的な街並みだと感じたことを覚えている。
死に戻る時はいつも女神の前から始まるんだったんだけど……。
「……戻った……のか?」
俺は……女神に能力を奪われた上に殺されたはず。
刺された胸に手を当ててみる……傷はないけどまだ鮮明に感触を思い出せる。
「……『ステータス』」
女神から授かった【ロード】の、死に戻りとは別の能力。
それは『死者から能力を継承する』こと。
【ロード】を失った今、使えるかどうかわからないが……。
「――あ、よかった……」
【ステータス】
個体名:久保田天仁
目の前に展開された立体ディスプレイを見て少しだけ安心する。
能力が発動したということは、継承した【ギフト】自体は生きていると言う事。
しかし表示される情報が少ないということは能力レベルは低くなっている……。
以前【ロード】のレベルが上がったことで他のギフトレベルも引き継げるようになっていた。
だからこそ半年でギフトレベルを最高の9まで上げることが――。
「ぴぃ~!」
「え?」
状況確認を続けようとしたのだけど……肩にいつの間にか――。
「なっ! 何だ!?」
「ぴっ!」
丸い顔に白い翼の生えたピンクの生き物。
何度も経験した死に戻りの中でも、こんな生物は見たことはない。
危険はなさそうだが……。
「えっと……」
「――ぁ」
そこに聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。
そうだ、この世界に降り立つとすぐに彼女に――イセに出会うんだ!
何万回繰り返しても彼女との出会いだけは変わらない!
いつも俺を見かけた彼女は――!
「あ……あぁ…………あっ!」
……ジョロジョロと、何かが零れる音が……。
「……」
「……」
お、お漏らししてる……?
そんなこと1度もなかったんだけど!?
「大丈――」
「あ、あなた! 駆け出し冒険者ね! 私が面倒を見てあげるっ!」
いつも最初に俺を見つけた彼女が明るい笑顔で言うセリフ。
何万回も聞き、そのたびに胸が張り裂けそうになっていたその言葉。
今は――泣き笑いしながらお漏らししている彼女に、少しだけ戸惑っている。少しだけね。
……変わらない出会い、どこ行った……?
「ちょっ、ちょっとだけ待っててね!」
そう言って物凄い勢いでどこかへと走り去って行く彼女。
「……一体どういうこと……?」
この後『何だか弟に似てるからっ!』とか言って色々世話を焼いてくれてそのまま一緒に行動する、というのが今までの流れ。
「ぴぃ~……」
今回の死に戻りはわからないことが多すぎる。
その中でも最もよくわからない謎ピンク生物を突きながらイセを待つことにした。
◇
「あ、あははっ! それじゃ……一応冒険者の基本的なことから確認するね!」
「う、うん! お願いします!」
どうやらお漏らしのことはなかったことにするらしい。
「冒険者は……って、やっぱりこの確認いるかなっ?」
「? うん、頼めるかな?」
本当は何度も聞いてるから知ってるけど。
それでも彼女との会話を大切にしたい。
……これで最後かもしれないからね。
「でも――って、痛たたっ!?」
「あ、こらっ!」
謎ピンクが翼でイセを叩きだした!
「ぴぃっ! ぴぃ~っ!」
「えっ!? あああ、ごめんなさいっ! わかったからっ!」
そして何やら謝っているイセ。
会話でもしているのだろうか……。
「……コホン。ハンターは、魔物を倒したり植物や魔物の素材を集めてお金を稼ぐ職業だよっ! ギルドは情報の提供や仕事の斡旋とかしてくれる組織だよっ!」
「え? あ、うん……」
何だかいつもより簡潔な説明だ……。
もっとこう、『私は家族を奪った魔物を許せなくてハンターになったのっ!』的な会話が……あれ、この会話はもう少し後だったっけ?
「【ギフト】の確認は……必要?」
「うん、お願いしていい?」
自分の【ステータス】のレベルが低いうちはギルドの測定器に頼ることになるだろう。
この測定器はギフトレベル5相当の情報が表示される魔道具だ。
「【ギフト】はね、女神様から1人に1つ授けられる能力だよっ! 使っていけば能力のレベルも上がって強くなれるっ! レベル5で達人クラス、レベル7もあれば王宮勤めでウハウハねっ!」
「うんうん」
俺の場合は魔力上限が上がれば【ギフト】のレベルも戻っていく……はず。
魔法の『使い方』は覚えてるからね。
「基本の能力と言われる火、風、地、光、闇の属性と、珍しいユニークギフトって言うのもあるんだよっ! 私の【身体強化】もその1つ!」
同じユニークギフトでも、比較的多い種類もあるし唯一無二の物がある。
【ステータス】は前者、【ロード】は後者だ。
「ユニークギフト持ってるんだ! 凄いねっ!」
「うんっ! 【ギフト】とは別に誰でも使える無属性魔法の中にも身体強化はあるんだけど、私のは更に特別みたいなのっ!」
……むむむ。
いつもなら『どうして私の身体強化だけ別に表示されるんだろう』との会話があるはず……。
『きっとあなただけ更に特別な能力なんだよ、素敵だね』というナイスフォローをして好感度を稼いで来たというのに……!
「それじゃあ早速測定してみよーっ! まずは私からねっ! …………うん」
「どうしたの?」
「な、何でもないよっ!」
結果は他者には見ることができない。
だからイセの微妙な表情の原因がわからない……。
「ささ、アマトも計測してごらんっ!」
「……わかった」
ドクンと心臓が跳ねる。
震える手を必死に伸ばし、ゆっくりと水晶に触れると――。
【ステータス】
個体名:久保田天仁
種族名:ヒューマン
ギフト:無属性1 火属性1 水属性1 地属性1
光属性1 闇属性1
ユニークギフト:言語理解5 身体強化1
広域化1 鼓舞1 危機察知1
隠密1 隠匿1 ステータス1
魔力操作1 空間魔法1
「……どう?」
「あ、あぁ……」
やはり、【ロード】は……。
つまり……もう、何があってもやり直すことができない……。
失敗してもやり直せた。
自身の記憶や継承した【ギフト】も引き継げていた。
それが……もう……。
「……大丈夫だよ、私が守ってあげるからね……」
「――ぁ」
呆然としかけた俺を……イセが抱きしめてくれる。
「……大丈夫、大丈夫」
「……」
……さっきから初めてのことだらけだ。
謎ピンクも、イセのお漏らしも……こうして抱きしめてくれることも。
……。
……。
……。
「……ごめん、もう大丈夫!」
切り替えの早さは死に戻りの繰り返しで培った俺の力!
【ロード】がないならないで頑張らなきゃ!
なぁに、1度は邪神を倒すところまで行ったんだ! 問題ない!
「……うんっ!」
何度も救われた明るい笑顔。
彼女を守るためにも……落ち込んでなんかいられない!
「さぁて! 早速――」
「早速行きたいところあるんだけどっ! いいかなっ!?」
「あ、はい」
もう流れに身を任せよう。
どうせしばらくは地道に魔力を上げていくしかない。
「……」
地道なハンター活動をしながら魔力を枯渇させて休息して、それを繰り返せば魔力上限も上がる。そしておよそ1か月後にこの街を大量の魔物が襲うからそれまでに力をある程度取り戻さなきゃいけない。この魔物の大氾濫が彼女を救えるか否かがかかっている最初の関門。これを乗り越えられず何度悔しい思いをしたか……思わず、握った彼女の手に力を――。
ん?
「あ、あれ……? 手、いつの間に……」
考え事をしながら歩いていたら……いつの間にか手を繋がれていた。
「あ、あはは~! 何があるかわからないからね! しっかり握ってようね!」
「へっ?」
こんな街中で何があるのだろうか……。
「……うん」
「えへへっ!」
しかし抗えなかった。
「……」
「……」
まるで付き合いたての恋人のように手を繋いで歩く。
長い時の中で何度も夢見た状況に――。
◇
「さ、今日はここで魔物をハントしよう!」
いつの間にか腕まで組んで歩いてきたのは、件の大氾濫発生源である深い森。
「……えと、俺はまだ駆け出しなので――」
安全に薬草とか毟りたかったんですけど……!
「大丈夫大丈夫っ!」
「ってちょっと待って!」
すたこらと早歩きで進んでいくイセ。
組まれた腕が痛いんですけど!
「この先は本当に危ないと思う! 引き返そう!」
「ぴっ! ぴぃ~っ!」
森の奥には……大氾濫発生の原因であるアースドラゴンがいるはずだ。
今の彼女ではどう転んでも勝ち目はないだろう。
謎ピンクもイセの頭を叩いている。
「……私が心配? それとも自分が心配?」
「えっ!? そりゃもちろん……」
自分もだけど――。
「イセさんです! さっき初めて会ったのに変に思うかも知れないけど……あなたが危険な目に合うのは絶対に避けたい!」
「……むふふ!」
そういって笑う彼女は――。
「大丈夫! 私に任せてっ!」
「――ちょっ!? お姫様抱っこ!?」
俺を抱えて木から木へと飛び移りながら森の奥の方に進む彼女。
身を任せるしかなかった……。
◇
アースドラゴン。
翼こそないが、5メートルを超える巨体に逞しく発達した全身の筋肉。腕の一振りで大木を容易く吹き飛ばす。
さらに身に纏う鱗は物理的にも魔法的にも高い防御力を備えており、少なくともレベル6の攻撃手段がなければ傷ひとつ付けられないだろう。
ギルドが定めた危険度ランクは上から二つ目のA。凄腕のハンターと言われる人間が何人も束になってようやく倒せる、国を挙げての対処が必要な魔物。
過去の全ての時間でこいつが原因でこの森の生体バランスが崩れ、魔物たちが近くにあるマリーナの街になだれ込むスタンピートが発生した。
最初の内は街どころかイセを守ることすら出来なかった。
文句なしの圧倒的強者が今――。
「あはっ! ちょうど木から飛び降りた先にドラゴンがいて落下の衝撃で死んじゃったみたいねっ! ラッキーっ!」
「……」
死因、頭部の破裂。
「でもでも! きっとこれでドラゴンに恐れをなした周りの魔物が食料や安全を求めて街を襲うってこともなさそうね!」
やけに説明口調だとかそんな衝撃だったらこちらも無事じゃすまないとか……。
いろいろ飲み込む! そんなこともうどうでもいい!
俺は遂に見てしまった! 木から飛び降りる瞬間、彼女の足が光り輝くのを!
そんなことあり得ないと思っていたが!
目の前の光景こそあり得ない!
「イセ! もしかして君は――」
「ぴぃぃぃぃーっ!!!」
「うわわわっ!? ちょっとやめっ! ごめんなさいって!」
……置いてきたと思った謎ピンクがどこからか現れ、イセに襲い掛かる……。
邪魔すんなよぅ……。
「……あのさ、イセ。聞きたいことがあるんだ」
謎ピンクを鷲掴みにしながら、改めて問いかける。
「もしかして……前世というか、今までの記憶があるんじゃ……? それに能力も!」
あり得ない。わかっている。
何度繰り返しても、記憶の引継ぎは俺だけ。
だけど……あまりにも……!
「へ? 何のこと?」
「……」
と思ったが……。
やっぱりそんなことはないのか?
「あなたとは今日が初めましてだし、こんな森の奥にまで来たのは初めてだよっ!」
「…………そ、うか……」
期待が外れ……落胆している俺から謎ピンクを掴み取るイサ。
それのほっぺたをいじりながら後ろを向く彼女を呆然と見つめる。
「けどね! 前世があって、毎回出会って、何度も助けてくれてるとしたら……きっとその男の子は私のこと大好きだよねっ!」
「……そうだね」
そうだよ。
◇
「あ、けどね! 何でか知らないけど【ギフト】のレベルが急に上がったんだっ!」
「……え?」
ひたすら謎ピンクをいじり倒しているイサ。
その横で黙々とアースドラゴンをはぎ取っていると、彼女が思い出したかのようにそんなことを言いだした。
「上がったって……どのくらい?」
「ん~? 9くらい?」
レベル9!?
かつての俺と同レベル!?
「そんなばかなっ!?」
「あー! ばかって言う方がばかなんだよっ! だめでしょ!」
笑いながらデコピンしてくるイセ。
もし彼女が本気なら……今の一撃で頭が吹き飛ぶ……!
「……」
記憶の引継ぎはないが、能力の引継ぎが起こった……?
いや、記憶も……無意識かもしれないが引き継がれているんじゃ……?
「それ、便利ね!」
「ん? ……あっ!」
しまった、無意識に【空間魔法】の『アイテムボックス』にはぎ取った素材を入れてしまっていた!
「あー……実は俺のユニークスキルで……」
こうなってしまったらしょうがない。
しばらくしたらある程度伝えることになるんだ、それが早まっただけ……。
「ふふ。ねえ、他にどんな【ギフト】があるの~? パーティを組むなら知っておく必要があると思うよ!」
「……えーっと……」
意地悪な顔をしている気がする……。
「……【空間魔法】と、【ステータス】と……ひ、【光属性】……」
すぐに使ってバレそうな物は言っておくことにする。
1人ひとつの【ギフト】だから、これでもおかしいんだけども。
「他には?」
「……【火属性】と……【水属性】! 以上です!」
「ぴぃぃぃ~……」
俺の気持ちを代弁するかのように、謎ピンクが力なくイサを叩く。
「まだあるでしょ!」
「……ないっ!」
「あるっ! 実は私、今は共通言語じゃなくて犬獣人特有の『わんわん語』で話してるのよねっ!」
「へ?」
そんな可愛らしい名前の言語聞いたことがないのだが!
「あなたが『わんわん語』を話せるような【ギフト】があるはずよ! 他にもさっき――」
「わかった、わかりましたよ……降参です……」
不信感を持たれないよう、折を見て伝えてきたことではある。
逆に今伝えないと不信感を持たれるだろう。
今までもそうだったが、カンが良すぎる……。
「じゃあ最初から……【火属性】と【水属性】と――」
あきらめて俺の【ギフト】を地面に書いていく。
……。
……。
……。
「たくさんあるのね」
「……まぁね。それと……」
最後に【身体強化】の文字を書く。
彼女を守れなかった世界、その亡骸から引き継いだ【ギフト】。
自分と同じユニークギフトを見たらどう思うだろうか……。
「……」
「……」
恐る恐る、彼女に視線を向ける。
「……あり――んぴゃ!」
「んびぃぃぃぃーっ!!!」
彼女の顔に謎ピンクが物凄い勢いで体当たり!
「わかったっ! わかったから……『あり得ないけど、信じるわあなたのこと!』」
「え? あ、うん……」
それならそれでいいんだけど……。
何だか釈然としない……。
◇
――その後マリーナの街に戻り、借りた宿の一室にて寝転がる。
1日の最後、魔力を極限まで放出して……。
「……あー~……だるくなってきた」
魔力枯渇が招く体の疲労を感じながら、今日あった出来事を思い出す。
イセとの再会、お漏らし、【ロード】の喪失、距離感の近さ、ドラゴンのハントとそれによるギルドでのひと騒動……。
前までの世界なら……イセとの出会い、薬草摘みでキャッキャウフフ……のみ。
……訳が分からないよ!
「こんばんは~……ちょっといいかな?」
扉を叩く音とともにイセの声が聞こえて来た。
中々動かない体に鞭を打ち、扉を開ける。
「どうしたの? こんな遅くに……」
「あ、ごめんね! 寝てた?」
「まだだけど……」
「じゃあさ、ちょっと来て欲しいんだけど!」
今日何度目かもわからない、いつもと違う状況。
しかしもう私の体は限界よ……。
「すまないけど、魔力切れを起こしてね……体が動かないんだ」
「……へぇ~……私物は置いてないよね?」
「……まぁ。あれだけ」
「……へぇ~……!」
寝ている謎ピンクを指さす。
私物……ドラゴンの素材を売却したお金は『アイテムボックス』に入っているし。
「じゃ、行こっか!」
「…………」
再びのお姫様抱っこ。
うん、知ってた。
◇
夜の街を……家々を踏み台に跳んでいくイセ。
「着いたよ!」
彼女に連れられて来たのは……この街1番の宿屋。
そういえば、かつて魔物の大氾濫を阻止した時に泊めさせて貰ったことがあるっけ。
「……えと……」
「まぁまぁ!」
そのまま……流れるように最上階の部屋まで連れて来られ、気が付けばベッドに寝かされていた。
「……実はね、犬獣人には……発情期があるんだぁ~……」
「……」
そんな話は初耳……ってもしかして!?
「ごめんね、でも……我慢できないの……ん」
「――んんっ!?」
口で口を塞がれ……。
ふわぁあああ~…………。
「ぷはぁっ……キ、キスって、凄いね……」
「――ぁ」
名残惜しくも、彼女の顔が離れる……じゃなかった!
「だ、だめだって!」
「どうして?」
「それは! それは……」
邪神討伐への辛く苦しい地獄のような旅。
その途中で彼女たちとこういう関係になってしまえば……きっと俺は……。
「溺れてしまう。きっと前に進めなく――んんっ!?」
「んんーっ! 好き! 好き好き! 大好きだよぉっ! んー……ちゅっ!」
人の話を……話を……。
「イセぇ……」
「大丈夫、私に任せて……って言っても、私も初めてだけどねっ」
頬を赤く染めてはにかむ彼女に……理性は吹き飛んでいた。
◇
「……んん……?」
鳥のさえずりで目を覚ます。
昨夜は………………あ。
ああぁぁぁっ!!!
つ、ついに……!
夢にまで見た……!
イセとのセッ〇ス!!!
何だか……今まで以上にイセのことが……。
「……いかんいかん、イセは……?」
「あっ! お、おはよぉ~……」
恥ずかしそうに俯く彼女……が、その背に何かを隠したのを見てしまった。
「……何か隠してない?」
「う、うううんんんっ!」
どっち!?
「……」
お、俺は……彼女にどこまで踏み込んでいいのだろうか。
好きなのはもちろん大好きなのだが……彼女からしたら昨日出会ったばかりの男。
やはり彼氏面するのは気持ち悪いか……であれば俺は……?
いや絶対に幸せにするって気持ちは誰にも負けない!
いやいや、その考えが気持ち悪いのでは――!?
「ふ、ふ~ん? 別に興味ないけど、何を隠したのかな~? 別に興味ないけど!」
「……ぷっ! 知りたいならそういえばいいじゃないっ!」
な、なぜバレてしまったのだ……!
本当は知りたくて知りたくてしょうがないってこと!
「ふふ。ちょっとね、手紙を書いていたのよ、手紙! あなた宛てのね!」
「え? 俺?」
それなら直接言えば……。
「今はダメだけど……いつか渡すから、それまで待っててね!」
「……わかった」
そう言われたら……待とうじゃないか。
なに、俺は何万年も同じ時を繰り返せる我慢と忍耐の化身! ちょっとくらい待つさ!
「……ちなみに、良いこと? 悪いこと?」
「さーて、どっちでしょうねっ!」
そう言いながら顔を近づけてきて――。
「ん~ちゅっ! はい、これならわかるでしょっ!」
「……はい」
*********
『久しぶりのはじめましてだね、アマト。
突然ですが、私はあなたに嘘をついています。
それは――本当は今までの記憶があるってこと!
ごめんね、リムリムちゃんに言ったらだめって言われてて……。
今は言えないから……この気持ちを手紙に書いておくことにします。
この世界で再会した時、嬉しくって思わず……泣いちゃいました。
きっと、直前の世界で邪神を倒したご褒美なのでしょう。
最初は少しだけ信じられない気持ちもあったけど……私の【身体強化】を持っていたことで確信しました。
今までの世界でも、たくさん守ってくれてありがとう。
それと、いつも最期まで力になれなくてごめんね。
今回でロードのギフトが無くなったと聞いています。
だから……最後のこの世界では絶対に力になるからっ!
私の身体強化、多分9より上のレベルEX。
きっとそのための力だから。
だから、私に任せてねっ!
それと余談ですが……記憶と能力が私に流れ込んできたのは、家族が襲われる前でした。
だから、お父さんもお母さんも、弟も生きています。
全てが終わったら……みんなに紹介させてね!
アマトが、本当は弟に全然似てないってことがバレちゃうけど!
何万回目かの一目ぼれ。
ずっと、ずーっと好きでした。
イセより』
読んで下さりありがとうございます!
ふと思いついた、死に戻りの果てのお話でした。
きっとこの後は何万年も積み重ねた能力と想いで主人公たち最強無双イチャイチャラブラブが繰り広げられるのでしょう、という内容でした!
誤字報告や温かい感想を頂けると跳んで喜びます!
★★★★★頂けると泣いて喜びます(´;ω;`)