サラの人生2
会場が静まりかえる中、声を出したのはエマと呼ばれた女性だった。
「ダレル殿下。お戯れもほどほどにしてください」
「うるさい。私は自分の婚約者は自分で決めるのだ」
雰囲気にのまれ、朦朧とした私の頭ですらはてなマークが浮かぶ。これって単なるわがままなのでは?私はわがままに付き合わされただけ?
「国王憲法第百一条」
王子の言葉には返さず、エマは憲法の条文を読み上げた。
「王族においては生涯1人の女性を愛すると決め、王位継承者の存在が危ぶまれる時のみ、複数の女性と婚姻関係を持つことを許す」
「はぁ?」
王子が間抜けな声を出す。とはいえ、私も同じ気持ちだ。こんな憲法があるのに、こいつは私に求婚したのか?
「なんだその憲法は」
「あら?お忘れですか?殿下が直々に議会に通された憲法ですよ?」
そういうとエマ様は1枚の紙を取り出す。そこには確かに、先ほどの条文が書かれており、印が押されていた。
「なっ!お前!」
「お仕事は順調に進んでたみたいですから、盗まれたわけではないでしょう?まさか、他人に王印を渡す、なんて真似はしないでしょうし」
「ぐっ・・・」
王子のこの反応、そしてチラリと国王と王妃の顔を盗み見ると、どうやら王子の言っていた「両親も承認している」というのはでまかせか、あるいは両親に裏切られた、ということか。
ぱちぱちぱち
突然、国王が立ち上がり、拍手をする。周りの客は事態がわからずにポカンとしている。
「ふははは。エマにダレル。良い演技だった。それにサラ、とか言ったか。此度の芝居に一役買ってくれて、感謝するぞ」
笑顔だが目が全く笑っておらず、逆に私の心臓が止まりそうになる。
「さて、皆のもの。最近はダレルに関して良からぬ噂が立っておろう。だが、安心して欲しい。ダレルはエマ一筋じゃ。社交界にはあまり顔を出さなかったが、思春期特有のものがあった。だが、勇気を持ってこの場を設け、自らの噂を吹き飛ばす芝居を見せてくれた!みなのもの、拍手を送ろうではないか」
国王がそういうと、最初はまばらだった拍手が徐々に広がり、そして全体に広がる。
私はほっとした。
「あとで私とお話ししましょう?」
いつのまにか隣に来ていたエマ様に耳元で囁かれ、私は気絶しかけた。
その後、パーティはつつがなく進んだ。私は壁の花になりながら、これからどうなるんだろうか、とぼんやりと考えていた。逃げ出すことはできないだろうと直感で分かった。
パーティが終わると、私は侍従に案内され、エマ様の待つ部屋に案内された。しばらく待っていると、エマが侍女を連れてやってきた。
エマが椅子に座り、私に椅子を勧めてくる。私が席に着くと、先ほどの侍女が紅茶を入れてくれた。
「毒の類は入ってないから安心してね」
エマが口をつけた後、私がカップを持とうとすると、突然、エマがそう言ったので、私は危うくカップを落としかけた。
「聞きたいことはいろいろあるけど、まず、貴女はサラ・ヤーレン、ヤーレン男爵の長女、であってるかしら?」
「はい」
嘘をつく必要もないのだが、それを許してくれない雰囲気をエマ・・・いや、エマ様は放っていた。これが高位貴族、父は絶対に入ることはできないな、と頭の中では現実逃避をしていた。
「ヤーレン男爵家といえば当代のお祖父様が男爵を与えられた家ね。よほどのことがない限り、今代まで、と言われているわね」
言われている、というよりも確定事項だろう。私が王妃になる、とかいうよほどのことがない限り。
「なるほど。だからダレル殿下に近づいた、と」
「違います」
私はきっぱりと否定した。それだけは断固として否定する。
「あら?じゃあどういう経緯かしら?」
ふたたび鼓動が速くなる。
「ダレン殿下です。街に買い物に出ている時、たまたまぶつかってしまって・・・。父からはなんとかどこかの令息とお近づきになるように、と言われていましたが・・・なかなかうまくいかず・・・。そんな時にお会いしたのが殿下でした・・・。その時は殿下だとは知らず・・・」
事実ではあるが、言い訳のようになってしまった。これでは印象が悪いかもしれない。
冷静な自分と。
とにかく自分は悪くない。そもそも声をかけて、口説いてきたのはそっちだ。しかも正体を知らず。正体を知ってたら近付くわけないじゃないか。
感情的な自分と。
そのせめぎ合いのなかで息も絶え絶えになりながら言葉を紡ぐ。
「わかった。もういいわ」
ヒッ!と息を飲む。まるで呪文にかかったかのように口を閉じた。
「それよりも貴女に一つ、提案があるのだけれど」
エマ様の口から出たのは、私にとって想像以上の提案だった。
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