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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
エマの人生
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エマの人生4

私は足取り軽く王宮へ帰ってきた。部屋に入るとすぐに父上に手紙を書いた。両親にはダレル殿下との関係は詳しく伝えない。余計な心配をかけたくなかったから。


手紙をマリーに預け、自身は夕食を摂りに食堂に向かった。国王皇后両陛下との食事会は1回きりのみであるが、ダレルとは何度か一緒になった。もっとも、私が誘ってもダレルが誘いに乗ることはなく、ダレルが私を誘うことはない。たまたま食堂で一緒になった、というのが数回あった、というだけだ。


今日がそのたまたまの日だった。私は慌ててカテーシーを行う。


「お食事中失礼しました。ダレル殿下。途中からではございますが、私も同席させていただいてもよろしいでしょうか」


「・・・ああ」


私はリラックスした気分から一転、緊張感に包まれた。


「あの」


私は意を決して殿下に声をかけた。


「殿下の誕生日はいつでしょうか」


「そんなのを知って何になる」


「あ、いえ、一緒にお祝いできたら、と思ったのですが・・・」


「そんなのはいらない」


ダレルはつっけんどんにそういうと席を立った。


「それよりも今日はどこに行っていた?」


「休みでしたので侍女のマリーと街に出かけておりました。何かありましたでしょうか」


「せっかく一緒にお茶でもしようかと思ったが、いなかったからな。お前が独断でそういうことをするなら俺もそうさせてもらう」


それだけ言って殿下は食堂から出ていった。私に何も言わせずに。


数か月お茶もせず、ほとんど会話もなく、それどころか顔を会わせることもほとんどなかった。でも、殿下にも声をかけるべきだった。自分がうかつだった。


その後、出された食事の味を感じることなく、ほとんど喉を通らなかった。残してしまうことに罪悪感を感じるが、どうしても食べることができなかった。


ごちそうさまでした、と手を合わせて食堂を去る私を、給仕してくれた従者たちは沈痛な面持ちで見送っていた。


マリーが手紙を出して帰ってくると、真っ暗な部屋に私がうずくまっているのをみて悲鳴を上げそうになった。しかし、泣いているのがわかると、そっと背中から包み込んでくれた。


私はマリーに先ほどあったことを伝えた。しゃべっている間に涙があふれてくる。それを聞いているマリーも一緒に泣いていた。


「なんでマリーが泣いているの?私のせい?ごめんなさい」


「いえ、エマ様のせいではありません。あまりにもダレル殿下の振る舞いがよくないことに怒っています。ダレル殿下はこれまで、休日のお誘いどころか食事のお誘い、いいえ毎日のティータイムすらお姿を見せておりません。そんな殿下の許可を取る必要はありません。それに、お誘いしたのは私です。罰せられるなら私です」


「マリーは悪くない!」


私は思わず大声を出した。


「そう言っていただけると嬉しいです。つまり、エマ様は気にすることはありません。このことは国王皇后両陛下にお伝えいたします。もっとも、どこまで聞いていただけるかはわかりませんが」


マリーは私を安心させるように、もう一度抱きしめてくれた。


その後、湯あみを手伝ってもらい、ベッドで添い寝までしてくれた。マリーが隣にいることで安心し、すぐに眠りにつくことができた。


少し気持ちを切り替えることができた私は再び勉強に打ち込むことができた。


マリーは皇后陛下に直接面会を取り付け、これまでのダレル殿下の様子について直談判してくれたらしい。一歩間違えれば直子であるダレル殿下に苦言を呈する侍女の口封じなど簡単に行えそうだが、皇后陛下は真摯にマリーの言葉に耳を傾けてくれたらしい。お心の広いお方だ、と改めて尊敬する。


「皇后陛下は2年間、ダレル殿下に尽くしなさい、とおっしゃったのね?」


「はい。私はもう耐えれません、と訴えたのですが、頑なでした。皇后陛下にとっても大事な一人息子ですから大事にしたいのはわかるのですが・・・」


「うーん」


私は皇后陛下の言葉の意味を考えた。皇后陛下の言葉には何か意味があると思う。少なくとも、我が子可愛さ、ではないと思うのだ。しかし、いくら考えてもその答えは出なかった。


「とりあえず、2年間はダレル殿下に尽くします」


「正気ですか?エマ様」


「ええ。高位貴族の中には寵愛を受けない妻、というのも存在すると聞いています。それでも妻として果たすべき役割はあるでしょう。あるいは私を試しているのかもしれません」


「・・・エマ様がそうおっしゃられるなら。ですが、お辛いときはいつでもおっしゃってください。私はエマ様専属侍女です。仮にエマ様が王宮から去られる日が来ても、私はエマ様に付いていきますので」


「そこまでしなくてもいいよ。私が王宮から去るときは貴族籍から抜けるとき。きっとマリーを雇うお金はないわ。寂しいけど」


「ならば、その時のために今、お勉強しないといけませんね」


「・・・?」


「今はわからなくても結構です。が、勉強を疎かにしてはいけません。必ず役立ちますから」


最後のマリーの言葉はわからなかったが、私にできることは勉強をすること。そして将来、この国を支えることだ。

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