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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
その後の人生
31/31

ダレルのその後

かちゃり、と俺がカップを置く音がする。


「また来る」


「ええ。お待ち申し上げております」


立ち上がる俺を一瞥しただけで、立ちあがろうともしない。


だが、それを咎める者もいない。彼女は過労による体調不良のために療養しているのだから。


彼女との差をまざまざと見せつけられた俺は、それを埋めるべくがむしゃらに知識をつけ、仕事を覚えていった。しかし、その過程は屈辱の連続であった。


仕事はアランどころか、俺より歳下の、成人してわずかな文官見習いと一緒に教わることになった。俺は憤ったが、彼らと同じようなスピードでしか処理できなかったため、文句も言えなくなってしまった。


積極的に参加するように社交界では王太子だというのに、高位貴族からは相手にされなかった。彼らの多くはエマや両親と話をしたがっていた。


歳が似たような相手を見つけると、近づいていって話しかけるのだが、腫れものを触るようによそよそしく、エマのように気軽に話をできるような雰囲気ではなかった。


これも当然ではあり、社交界では成人の儀が終わった後、男女ともお茶会や舞踏会でそれなりの交流を図る。多少の派閥や地域性で交友関係は形成される。そこに突然王太子が現れても困るだけだ。


本来であればアランの兄弟やエマの兄が私の友人となる対象なのだろうが、いずれも俺を避けるように他の貴族たちと話していた。アランやエマといい関係を築けていなかった証拠だ。


最も辛いと思ったことは外交である。エマやアランに対して親しげに話す他国の要人に対し、やはり私に対してはよそよそしく、その後、軽んじられた。初めは腹も立ったが、会話に参加することも難しく、また昔話などされるとどうしようもなかった。


エマと婚約してから1年。屈辱に塗れた日々を過ごし、結婚に漕ぎ着ける頃には、ようやく俺も仕事に慣れてきた。


そして、エマと結婚をした。


仕事もできるようになった。プレゼントやアプローチも行った。夫婦になれば関係も変わるだろう。今年、招待されていないというふざけた理由で、エマの誕生日会には参加させてもらえなかったが、来年は流石に招待されるだろう。


しかし、それは初夜で打ち砕かれた。俺の初夜の相手は、なんとサラだった。女だとわからないように男装したサラは、それはそれで美しかったのだが、エマには敵わない。俺がほしいのはエマだ。


エマがその場を去り、悶々とした気持ちをサラにぶつけた。サラが何か言った気がしたが、聞こえないフリをした。


サラは妊娠し、無事に出産したが、これはエマと俺が産んだ子として育てられた。エマは自分が産んだ子のように子育てに励み、一方の俺は仕事に忙殺された。


2年ほどエマともサラとも関係を持たなかったが、突然、サラが関係を迫ってきた。結果、長女、次女と出産した。


「サラ、何かあったのか?」


「殿下には関係ありませんので」


俺は事後にサラに尋ねたが、突き放されてしまった。次女を産んだ直後にサラは王宮を去ったと聞かされたのは1年も経ってからだった。


エマが主に活躍していた社交の場から彼女が消えることで、俺の仕事と心労は増えた。


「エマ様のお加減はいかがですか?」


誰も彼も、他国の王族でさえも二言目にはエマの名前が出る。それに俺は苛立ちを募らせる。


「エマ様くらいしか共通の話題がないんじゃないですか?」


アランは俺に寄り添うわけでもなく、事実のみを淡々と話す。


アランは俺と一定の壁を作ったままであり、専属として俺についてくれる男も仕事一筋という感じでとっつきにくい。父母も多少は手伝ってくれるものの、対人関係だけはどうしようもなかった。


他国や他の貴族から信頼を勝ち取るのに10年近くの月日が費やされた。


その頃に、俺の戴冠がなされた。忙しい中でもエマにアプローチしてきたが、それでもエマは俺の方を向いてはくれなかった。


エマは自らの子のように3人を育てた。俺もたまに子どもたちと遊ぶ機会があったが、仕事に翻弄されていた。休日にも関わらず、終わらない仕事と睨めっこしながら、視界の片隅にエマと子どもたちを含めた複数の家族が集まっているのを見ると、俺も参加したいという気持ちにかられた。


次女が成人の儀を終えて早々、過労で倒れたエマは実家であるウォーカー家の別荘に療養に行ってしまった。


仕事の合間をぬって、エマと会う時間を作る。ただし、ウォーカー前公爵から許された時間はごくわずかだ。


「娘は殿下に尽くしました。本来であればゆっくりさせてあげたいのですが、王妃としての義務ですので」


俺がエマに放った言葉が重くのしかかる。


もう義務は嫌だ。俺のことを見てほしい。


「エマ、どうか義務ではなく、俺と一緒に人生を歩んでほしい」


突然、頭を下げた俺の言葉に、エマはキョトン、とした。


「私は王妃という義務を果たさなくて良いのですか?」


俺が頷くと、エマが立ち上がった。


「王妃という義務がなくなった以上、私は陛下と離縁します。私は陛下と歩みたいと思っておりませんので」


エマはそれだけ言うと、俺の元を去った。


心の底で燻っていた願望が崩れ、俺は項垂れるしかなかった。

今度こそ、本当の完結です。

ご愛読いただき、誠にありがとうございました。


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