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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
エマの人生
3/31

エマの人生3

翌日から私の王妃教育が始まった。実家でも王妃になるべく家庭教師とともに勉強をしてきたが、質も量も段違いだった。


毎日勉強に明け暮れる毎日だったが、その中で午後のお茶の時間は少し心に余裕ができる時間であった。本来であれば婚約者であるダレル殿下と過ごす時間ではあるが、彼の姿を見たのは最初の1ヶ月で数回程度。2か月目には姿を見せることすらなくなってしまった。


一応、マリーを通じてお誘いしているのだが、「忙しい」とのことで断られている。何度もお伺いするのも殿下に失礼であること、何よりも毎度申し訳なさそうな顔で伝言を伝えてくれるマリーを見てられなくて、3か月目には殿下を誘うことすらなくなった。


休みの日でも殿下からの連絡はなく、エマは1人で読書や刺繡をして過ごした。マリーがダレル殿下とエマの接点がないことを侍女長、執事長を通じて両陛下のお耳に伝えているということだが、改善される様子はない。


私はダレルの関心をひくべく、手紙をしたためてみた。返事は来なかったが、エマは余裕を作って数日に1回のペースで書き続けた。2週間ほどして、殿下からの返事が来た。


エマもマリーも期待しながら封を開ける。しかし、手紙の内容は期待していたものとは大きく違うものであった。


『エマへ


いつも手紙を送ってくれているが、書類に埋もれてしまっていた。今後も手紙を書く暇はないだろう。それは了承してほしい。


ダレル』


その手紙を読んだとたん、私の頬には涙が流れ、マリーは憤慨した。


手紙を受け取って数日間は私は熱を出して寝込んでしまった。その間、両親や皇后陛下がお見舞いに来てくださったが、殿下が訪れることはなかった。


熱が下がると再び勉強に明け暮れる日々を送った。しかし、以前よりも勉強には身が入らなかった。殿下の気持ちがわからず、自分が勉強する意味を失いかけていた。


「エマ様。街に出てみませんか?」


ある休みの日。マリーは落ち込んでいる私を励ますように街に出るように誘った。私は特にすることもなかったのでマリーの提案に従うことにした。


国王陛下に了承を得て、私はマリーと一緒に外出することにした。外出は王宮に来てから初めてであり、少しドキドキした。


当日は装飾の抑えた服装に着替え、マリーが準備してくれた馬車に乗り込んだ。マリーもいつものメイド服ではなく、町娘の恰好をしている。


「エマ様。どこか行きたい場所とかはありますか?」


「うーん。私は街のことはよくわからないの。マリーのほうが詳しいでしょうし、お任せしていいかしら」


「わかりました。お任せください」


私はマリーのエスコートで街中を散策した。いくら装飾を抑えているとはいえ、平民が来ている服装とは一目で違いが判る。それに護衛の騎士も2人連れている。馬車も王族のマークはないものの、頑丈なつくりであることがわかり、高位貴族であることは誰の眼からも明らかであった。マリーと女性二人ということで、やや奇異の眼で見られたが、エマはまだそれに気づくほど大人ではなかった。


ドレスをみて、食事をし、そして宝石店に入った。


「いらっしゃいませ」


ニコニコと店員が接待をしてくれる。子どもの私に買えるものは限られるどころか、まったく手が届く値段ではない。宝石の価値もはっきりとわからないが、きらきら光る宝石には心が躍った。


その中で一つ、私の眼をひくものがあった。


ダレル殿下の瞳と同じ、山葵色の小さなブローチ。


何が殿下の不評を買ったのかはわからないが、私との関係がいいとはお世辞にも言えない。それでも私は殿下を支えたいのだ。血のつながった両親のように、また、血のつながっていない両親のように。


「殿下の瞳と同じ色ですね」


いつの間にか後ろに立っていたマリーが私に声をかけてくれた。


「ええ。でも、私には買えないわ」


プレゼント1つでどうにかなるとも思えないが、何か形のある者を贈りたかった。


「ご両親に相談してみてはいかがでしょうか」


「え?」


「エマ様はご立派であられますが、今はまだまだ子ども。ご両親に頼るのもいいでしょう」


そういってエマは店員と何やら話をしにいった。はじめは難しい顔をしていた店員だが、徐々に表情が変わり、裏に消えた。代わりに現れたのは恰幅のいい店員だった。二言三言、マリーと話をして、二人は握手を交わした。


「エマ様。こちらの商品をお取り置きしてくれるようです」


私はその言葉に久しぶりに笑ったような気がした。

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