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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
その後の人生
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サラのその後

「元気にしていたか」


私は休みをもらい、街のカフェに座っていた。目の前には少し老けた父が座っている。年月以上の歳を感じるものの、その眼は王都にいた頃よりも輝いており、着ている服もしっかりとしている。


私は父と王都で別れた後、王太子妃、今の王妃であるエマ様から紹介状をもらって辺境伯の屋敷を訪れた。辺境とはいうものの、単に王都から離れているだけで、決して栄えていないわけではない。むしろ、王都に次ぐくらいの賑わいを見せる港町だ。


王国の海の玄関口であるこの地を守る領主の地位は高く、また、王族に連なるその血はこの場所を守るにふさわしい。


私は屋敷の中に案内されると、メイド長の元に案内された。彼女は奪うように手紙をとり、何も言わずに部屋を出た。


しばらくすると渋い顔をしたメイド長と、執事長を名乗る人物が現れ、私の採用を言い放った。即日採用されるとは思っていなかったが、無事に仕事にありつけたことに安心した。


私のことはすぐさま広がった。王都から田舎に来た、貴族令嬢くずれのメイド。この経歴で疎まれない方がおかしい。私は教育期間も教育係もつけてもらえず、仕事だけは一人前以上のものが与えられた。


「手伝おうか?」


途方に暮れている私に1人の女性が声をかけてくれた。


彼女はこの近くに領地を持つ男爵の次女と名乗った。私は蜘蛛の糸に縋る想いで彼女にさまざまなことを聞いた。道具の位置、この屋敷でのマナー、そして近隣の貴族や有力者の特徴など。彼女がいなければ、今の倍以上の苦労があっただろう。


後から私に声をかけた理由を聞くと、私の所作や仕事が他のメイドの何倍もきれいだったからだとか。私を育ててくれたカネーシャやシモーヌには感謝だ。


私は生まれ変わったつもりで働いた。メイドという職業は、貴族令嬢よりもよっぽど私に合っていたらしい。


私はメイドとして頭角を表した。他のメイドよりも何倍もの仕事を、何倍もの速さでやる。メイド長と執事長がいくら隠しても、隠し切れるものではない。


3年もすると私の能力は完全に認められ、私がメイド長となった。異例の若さではあるが、私は自分の仕事に誇りを持って挑んだ。


「なんでこいつがメイド長なのよ!貴族崩れの令嬢のくせして!ダレル殿下をたぶらかした女なのよ!」


大声で私を貶める元メイド長。最初は知られたくない秘密ではあったが、今では公然の秘密と化している。私の経歴とメイドとしての仕事。自身の経歴を補う働きをしてきた自負はあった。


「ご主人様!何とぞご慈悲を!私には養わねばならぬ家族がおります!」


元執事長は情に訴えた。しかし、人を見る目を疑われた以上、辺境伯の執事としては不適と判断された。辺境伯は過去の私ではなく、今の私を見てくれた。


おそらく、エマ様のお力添えが多分にあることだろう。長年、支えてくれた執事を首にするくらいに。


「その場面、見たかったなぁ」


私のその話を聞いて親友は笑う。彼女は私と出会って1年で男爵家の次男と婚約し、結婚した。政略結婚ではなく、恋愛結婚だそうだ。


「確かに、肩書は大事だけどね。でも、こんな田舎だもの。肩書きにこだわっちゃ結婚できないわ。私は三女だし、貴族様と結婚できただけでも幸せよ」


相手について聞くと、彼女は頬を染めた。


貴族でもない、一介のメイドをお茶に呼んでくれるお礼として、私は彼女の惚気話に付き合った。


いつかのあの日々が思い出される。それを思い出しても、私は傷つかない。完全に過去のこととして清算できたのだろう。


さらに数年が経過し、商人のジャン・ヤーレンが訪れるとの連絡が入った。


ジャンは男爵を王家に返上し、傾きかけた自らの商店を建て直したと評判になっている。ジャンは販路を広げ、航路を使った商売に手を広げようと辺境伯の地を訪れたのだ。


ジャンは私にとっての父でもある。父は仕事終わりに私に会いたいと伝えてきた。


私は久しぶりに会う父に緊張を覚えたが、それは相手にとって同じだったらしい。


「元気か?」


私が最後に会った時よりも背筋が伸び、服も整っている父が、私に聞くまでもないことを聞く。


「私は元気よ。父さんも元気そうね」


私は父に返した。わずかなやり取りではあったが、お互いにお互いの苦労と、そして今の心境を理解した。


「私は幸せよ」


別れ際、私のことを想ってくれていた父に、私は本音を告げた。


「また来る」


父は満足そうに頷き、去っていった。


お互いに長い年月を経て、立場も肩書きも変わってしまった。お互いが目指していた場所からはかけ離れた生活を送る。


しかし、それは単なる後退ではなく、前進するための助走だったに過ぎない。これからも前を向いて、歩いていく。

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