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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
ダレルの人生
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ダレルの人生6

アランに軽く悪態をついたものの、書類がなくなるわけではない。やるべきこともわからない。


「アラン、これはどうすればいいんだ?」


「まず、なぜこの嘆願書が来たのかを考えてください。例えば教育施設を建てて欲しい、という嘆願書はなぜ来たと考えますか?」


「そりゃ、この地域に学校がないからだろう」


「よくできました」


俺のことをバカにしてるのか?と思ったが、それを問う前にアランは口を開いた。


「では、なぜ、今、この嘆願書がきてるのでしょうか。いきなり学校がなくなった?領主が変わった?あるいは、すでにプロジェクトが進んでいるけどこの領地には伝わってないのでしょうか?」


「それは・・・」


「わかりませんよね。それを調べてください。来月には予算委員会が開かれますから、それまでに」


アランは俺に書類を突き返す。


俺はもう一度書類を見直す。アランに言われた通りに考えてみると、確かに疑問点は湧いてくる。俺は一つ一つ、丁寧に読み解き、調べ、回答した。


数日すると、恐ろしい事実に気がついた。


量が多い。1日で処理できる分量は2、3件。期限は1ヶ月。数日経って1割も進んでいない。


「アラン、少し手伝ってくれないか?」


アランに頼りきりなのは癪だが、アランしかいないのだから仕方ない。


「僕には僕の仕事がありますので。それに、全部じゃなくてもいいですよ。できるところまでで」


アランは俺の頼みを断った。それはそれでショックだったが、一方でゆるい嘆願書の処理を聞いて、そんなものか、と拍子抜けした。


結局、俺は半分程度の処理をして、アランに提出した。


その数日後、事務方と会議が行われるとのことで俺はアランと共に会議場に向かった。


中に入ると、驚いたことに椅子に座ってるのは子どもばかりだった。地方からの声と、何より俺の仕事を子どもにやらせるとは、という怒りを感じる。


「おい、子どもばかりじゃないか。どういうことだ?」


「言ってませんでしたっけ?これはシミュレーションです。嘆願書も数年前のものを使っています。子どもに見えますが、1-2年前に成人の儀を終えた、れっきとした成人です」


「だ、騙したのか?」


「騙してませんよ。いってもいませんでしたが。そもそも、殿下も4年前、成人の儀が終わった後にやったはずですよ。僕も2年前にやりましたし」


全く記憶にない。いや、正確には似たような処理をした記憶はあるものの、こんな会議に出た記憶はない。


「こんな大変な作業と会議の記憶がない、ということは、やはりここから初めて正解でしたね」


アランが肩をすくめている。


「殿下、アラン殿。そろそろよろしいですか?」


年季の入った男性が声をかけてきた。


「では、第一回嘆願書調整会議を始める。最初の議題を」


彼がそういうと、1人が立ち上がった。


「まず、マナラス領の教育機関についてです」


その後、マナラス領の現状と要望書を擦り合わせる。マナラス領に学校自体はあるか、老朽化が激しいとのことだった。結論としては現存する建物を改築することで決済となった。


こうやって、次々と議題が片付いていく。そのスピードに俺はついていくのがやっとだ。たまに聞いたことのない単語が出てきて、頭にはてなが浮かぶ。


そんな状態なので、議長がたまに俺に話を振ってきても、曖昧に返事を返すことしかできない。


数時間経って、ようやく会議が終わった。会議はほとんど議長と俺以外で行われており、俺は最後に首を縦に振るくらいだった。


「今日は活発な議論ができて何よりでしたな。今回、殿下は君たちに気を使って、()()()()()()()()()()()()も目を瞑ってくださった。次回はそうもいかないから、気を抜かないように」


『はい』


俺以外が元気よく返事をする。彼らが帰った後、俺は机にへばりつきたくなった。


「アラン。今日は議題が少なかったのか?」


「本来の半分以下ですね。何せ、2ヶ月で嘆願書を精査して、翌月の予算委員会には間に合わせないといけませんから。殿下も期待されてますから、頑張ってくださいね」


アランに言われ、俺は絶望的な気持ちになった。


その後、課題の期限は厳しくなり、俺は寝るまま惜しんで仕事という名のシミュレーションに没頭した。ふと「これだけ頑張っても仕事ではない」と我に帰ることもあるが、心が折れそうになるのですぐに振り払うようにした。


それでも、とうとう限界がきたので、やはりアランに泣きついた。


「殿下の手伝いなんてできませんよ」


「どうして!?お前は俺の側近だろう?側近なら俺の手助けをしろよ!」


俺は思わず声を荒げてしまう。


俺の言葉に、アランも立ち上がって反論してきた。


「この際なので言わせてもらいますが、僕は殿下の側近ではありますが、味方ではありません。今、僕がやっている仕事は本来、殿下がやるべき仕事です。ですので、殿下のお役には立っていますし、陛下も評価をしてくださっています」


アランは俺の書類を手に取ると、サラサラと何かを記入していく。手元に渡された書類には、俺が数時間もかけて作った内容の訂正事項が書かれていた。


「殿下の仕事は、僕にとってそこまで大変でもありません。そんな僕が側近を辞めたらどうなりますか」


「そ、それは・・・」


そこでようやく、俺はアランの大事さに気づいた。


「ま、ここまでできるようになったのは、殿()()()()()()()()()()()()()()()()()でもありますから、感謝もしてますけどね」


「し、しかし現実的にこの量は・・・」


「エマ様がいらっしゃるでしょう?エマ様に頼んでみては?」


アランは椅子に座り直すと、俺にそう呟いた。

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