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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
ダレルの人生
24/31

ダレルの人生4

音楽が鳴り始めると、いつの間にかエマが側にやってきていた。


「殿下」


社交界に顔を出さなかった俺でも、その意味は分かる。ダンスの誘いだ。


俺はエマの手を取って曲に合わせてステップを踏む。とはいっても、非常に簡単なもの。ダンスの練習など、ほとんどしていない。1か月前から本格的に始めたくらいだ。


俺たちの隣では両親が優雅に踊っている。両親はやや複雑なステップを踏んでいるが、曲調もゆったりしており、激しいものではない。


「ありがとうございました」


1曲が終わるとエマは頭を下げた。


俺はもう少しエマと一緒にいたいと思った。


間近に感じる女性の香り。薄い化粧で十分際立つ彼女の顔立ち。街中の女性と付き合ってきたが、その誰よりも美しいと感じた。ここまで彼女は美しかっただろうか。


しかし、エマはダレルから離れ、今度は父と手をつなぐ。そして2曲目が流れ出す。王族が躍り終わったので、他の貴族たちが踊りだす。


彼らのダンスを見て、俺は驚いた。彼らは先ほどの両親よりも複雑なステップを踏んでいる。その中に父とエマの姿もある。この会で一回も話していないアランの姿もあった。


その後、何曲か続く。エマは彼女の父であるウォーカー公爵とも踊る。俺の時はあまり表情を崩さなかったが、今の彼女は笑顔を見せる。


いつの間にか母が近くに寄ってきていた。


「驚いたかしら?」


「エマはいつもあのようにダンスを?」


「ええ」


「俺とのときはあまり楽しそうではなかった」


「それはそうでしょう。あんな簡単なステップ、()()()()()()()()()()()()でも踊れるわ。エマにとってはつまらなかったでしょうね。私もあまりたのしくはなかったわ」


母も俺のことを子どもという。しかし、そのことを否定する気にはなれなかった。


今、目の前で踊っているのは12歳の少年や少女たち。俺の時と全く同じ曲、まったく同じステップを踏んでいる。彼らは自分の動きに一生懸命で、相手のことを見る余裕はあまりない。一方、パートナーは相手が躍りやすいようにリードしている。エマを見る余裕は多少あったとはいえ、先ほどのエマと俺のダンスも、第三者目線だとこう見えたのかもしれない。


「彼らは一生の思い出になるでしょうね。なにせ、王宮で初めて踊ったダンスですもの。最初の口上もそう。今日のために一生懸命練習し、親の会話に必死についていくために勉強し、それを披露する。ここで出会った同い年の貴族たちは、一生の友人となることも多いわね」


俺は自分自身を振り返る。


俺は成人の儀を適当にやり過ごした。


『ダレルだ。よろしく』


自分で口上を考えることはもちろん、講師に考えてもらった口上すらも覚えることはなかった。その後、パーティでは挨拶に来た貴族たちを適当にあしらい、母と踊ったダンスもまともに覚えていない。


その結果、どうだろうか。俺には友と呼べる人間はいない。彼らのように難しいダンスも踊れない。末端貴族には存在を忘れられる。


成人の儀を終えて4年。自分が積み上げてきたものが何もないと思えた。


「彼らはゼロからのスタートだけど、貴方はマイナスからのスタートよ。4年間、いえ、その前から貴方が立ち止まっている間、他のみんなは前に進んでるんですから」


俺の思ったことを、それでもまだ否定したかった想いを、そのまま母は口にする。


「貴方がこの場に立てるのは、貴方が王族だからよ。これが、私からできる最後の忠告です」


そう言って母はその場を去った。


その日を境に、俺は今までと態度を改めた。休みを返上して座学やマナーの向上に励んだ。


ただ、社交界だけはあまり成果が上がらなかった。親と一緒にいたときは上位貴族の話についていけず、エマと一緒だと女性ばかりで気を使わせてしまい、不協を買った。ならば同性で同年代と思われる貴族に話しかけたものの、こちらも気を使わせてしまっているようだった。


俺はアランに相談することにした。


「アラン、社交界ってどうすればいいんだ?」


「どうすれば、というのは?」


アランは書類から顔を上げることもなく俺に返答する。


「色々やってみてるんだが、うまくいかないんだ」


「はっきり言えば、知識をつけることですね」


「知識?」


アランはここで初めて目の前の書類から目をこちらに向けた。


「殿下。僕に話しかけてください。ただし、殿下の仕事内容以外で」


パッとは思いつかず、俺は目に入った書類について聞いてみた。


「それは書類なんだ?」


「これですか?これは過去3年間の災害が起こった地域とその内容、対策についてまとめたものです。具体的には・・・」


アランはしゃべり続けたが、その話の大半はわからなかった。


「な、なるほど」


俺は曖昧に返事をしたが、すかさずアランに咎められる。


「それです」


「それ?」


俺はアランの言うことが理解できなかった。

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