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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
アランの人生
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アランの人生6

その夜、僕は父上に呼ばれた。おそらく、今日のことだろうと思ったし、実際、父上から聞かれたことも今日のことだった。


「僕が自由にすることで家族と会えなくなるのは嫌だと感じました」


僕は母上に答えたことと、同じ内容を答えた。父上は大きく頷いた。


「アラン。誰でもできることがあるのは事実だ。しかし、貴族にしかできないことがあるし、平民にしかできないこともある。もっといえばアランにしかできないこともある」


「僕にしかできないこと?」


「ああ。だが、それが何か、誰にもわからん。見つけるのはアラン自身だ。それを肝に銘じておきなさい」


「はい」


僕は頭を下げて執務室から離れた。


僕自身にしかできないことなのかはわからなかったが、殿下を支える側近という僕に与えられた役割は、少なくとも今は僕しかできないことだと思った。その役割を果たすため、2年間僕は勉強をした。少なくとも自分のやれることはやっただろうと思って成人の儀を迎えた。


「なんだ。お前も親のレールに沿ってきたのか。つまらんやつだな」


だから2年ぶりにお会いした殿下が全く変わっていないことに、僕は驚愕した。


「貴方がアラン様ですね」


固まっている僕に声をかけてくれたのは、エマ様だった。慇懃な態度のダレル殿下に対し、丁寧な態度の彼女をみて僕は見惚れてしまった。それが決して叶わぬ初恋の始まりだったということに気づいたのは、しばらくしてからだった。


「私はウォーカー家長女、エマ・ウォーカーと申します。アラン様は殿下の側近になるお方で大変優秀だと伺っております。以後、お見知り置きを」


エマ様がカテーシーをする。エマ様はまだ正式な王族ではなく、婚約者だったはずだが、僕にはすでにオーラが見えた。


「あ、ご挨拶が遅れました。ガーフィールド家次男のアラン・ガーフィールドです。エマ様は王妃になるために日々努力されていると伺ってます。僕も負けないように頑張ります」


僕も負けじと最敬礼を行う。緊張でうまくできたかはわからない。


「ええ。お互いに殿下を支えていきましょうね」


微笑むエマ様に僕は完全に心を奪われたのを自覚した。


その時、ふん、という音が聞こえた。音のする方に目をやると、殿下が不機嫌そうにこちらを見ている。どうやら、僕たちが親しげなことに不満な様子だ。


「待ってくださいまし」


早々に立ち去ろうとするダレル殿下に、エマ様が声をかける。どうやらエスコートを要求しているようだ。その姿に、殿下はため息をついて右手を差し出す。その手を掴むエマ様は僕に見せた笑顔とは違い、寂しそうな顔をしていた。


ダレル殿下とエマ様。両極端な2人に衝撃を受けた以外は、特段変わったこともなかった。国王皇后両陛下との挨拶も無事に終わり、複雑な感情を抱きながら、僕は家族と共に帰路に着いた。


翌日、僕は父上と共にダレル殿下の執務室を訪れた。成人の儀を終えた家族の子どもは一人前、とまではいかなくても大人の一員として仕事を与えられる。だから、僕も殿下の側近として働くことになる。


「アラン、よく来てくれた」


僕たちが部屋に入ると、昨日とは一転してにこやかな表情で迎えてくれた。昨日とは違って友好的な態度であり、僕はホッとした。


「ダレル殿下。我が倅、アランです。一通りの教育は施し、アランもついてきてくれましたが、先に成人された殿下と比べればまだまだ若輩者です。何卒よろしくお願いします」


「ガーフィールド公爵。いつも父が世話になっている。アランを確かにお預かりしました」


お互いに挨拶を済ますと、父上は自分の仕事に戻っていった。去り際、不安そうな顔をしていたので、僕は少しでも不安を取り除ければ、とにこりと微笑んだ。


「さて、アレン。早速だが、仕事の話をしよう」


殿下は自分の席から書類を持って僕の座ってるソファの正面に座った。


「今、僕に与えられている仕事は少ない。だが、これからどんどん増えていくだろう。まず、アランには僕のやってる仕事を覚えてもらいたい」


そういうと殿下は全ての書類の説明を始めた。いきなり全ての仕事を説明されるとは思っておらず、若干パニックになりながらも僕は一生懸命に書類の内容を理解しようとした。


最初はわからないところを殿下が教えてくれたし、間違っているところは殿下が修正してくれた。だが、その回数は徐々に減り、1ヶ月も経つと殿下がやるべき書類仕事は全て僕がやり、殿下は判を押すだけになっていた。


僕の存在があるからだろう、徐々に書類の量が増えていったし、それにつれて新たな仕事も増えていく。


「殿下。これはどのようにすればよろしいですか?」


「そんなのは文官に聞け」


ある日、僕がわからなかったところを殿下に尋ねると、殿下からは冷たい言葉が返ってきた。それどころか、書類に判を押しただけで執務室を出ようとする。書類はまだまだ残っているのに。


「殿下、どこに行かれるのですか?」


「ああ。俺は忙しいんだ。書類仕事のために産まれてきたわけじゃないからな」


言外に「お前と違って」というメッセージが聞こえてしまったあたり、すでに殿下に対する忠誠は欠けていたのだろう。


だが、この時は殿下も国王になるべく学ぶべきことは多く、それの時間もあるのだろうと納得した。

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