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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
アランの人生
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アランの人生5

残りの処理は衛兵たちに任せ、僕たちは次の店に向かった。次は部屋を紹介してくれたところだ。


「いらっしゃい・・・ま・・・せ」


宝石店の店員とは違い、こちらの店員はすぐに僕たちのことに気付いた様子で、気まずそうな雰囲気を出した。


「畏まらないでちょうだい。貴方には謝罪しにきたのです。時間をとらせ、迷惑をかけたわね」


そういうと母上は1枚の金貨を差し出した。


「いえ!これは受け取れません!仕事をしたまでです。しかも、僕は貴族様に失礼な態度を・・・!」


ここでもまた、すぐに貴族であることを見抜かれる。変わったのは服装だけなのは一緒なのだが。


「いえ、私たちは始めから部屋を借りる気はありませんでした。迷惑料として受け取ってちょうだい」


母上が再度いい重ねると、それ以上は無駄と判断したのか、店員は恭しく頭を下げて金貨を受け取った。


「さ、帰りましょうか」


母上と共に、僕は家に戻った。


家に帰ると、庭のガボゼに紅茶の準備ができていた。


「昼食の後のティータイムがなかったから、少し早いけどお茶の時間にしましょう」


そう言って、母上は椅子に座り、紅茶のカップを傾ける。僕の頭は少し混乱していたが、紅茶を飲むと落ち着いてきた。


「さて、アラン。今日の出来事を振り返って感想はどうかしら?」


僕が落ち着いたのをみてか、母上が僕に聞いてきた。僕はうまく言葉にできるか不安だったが、とりあえず思ったことをそのまま口にしてみた。


「えっと、まず驚いたのは2つの店の店員の態度の差です。僕たちはきている服装くらいしか違わないのに、態度が全然違いました」


「ええ、そうね。他にはあるかしら?」


「えっと。昼食をいただいた店では僕にも敬意を払ってくれたのも驚きでした。その前の2つの店では僕の存在を重要視してくれなかったような印象だったので」


「素晴らしいわ。ちなみに、そこで食べた昼食の感想はどうだったかしら?」


昼食の感想、と言われて僕は言い淀んだ。店でも同じ質問に答えているはず。にも関わらず母上はもう一度同じことを問うてきている。ニコニコ顔の母上の求める答えは、それではないんだろう、と思う。


僕は意を決して本音を言うことにした。


「美味しかったのは事実です。しかし、もう少し正直に言えば不味くはなかった、という感想です」


「ああ!アランが成長してくれて嬉しいわ」


怒られるか、と思ったが、どうやら違ったらしい。母上は大袈裟に喜んでいる。


「アランが食べた昼食は平民用のメニューなの。貴族同士の会談、商談とかに使われる店だけど、そんなしょっちゅうあるわけじゃないから、貴族じゃない人たちにも食事を提供しているの。その中でも高級店で、普通の人は年1回、行ければいい方でしょうね」


母上はそんな高級店に顔を覚えられるほど通っている、ということになる。そして、そんな店で出されるメニューですら、屋敷で普段食べている味には劣ってしまう。


「気づいたようね。ほかの2店もそう。最初の宝石店でも裏から本物の宝石を持ってこようとしてたでしょう?彼は過ちを犯してしまったけど、その態度は決して珍しいものではないわ」


「平民か貴族か、で態度が変わる・・・」


「ええ。貴族、というだけで平民からは尊敬される立場にあるわ。でも、それはきちんと仕事をしている貴族の場合ね」


「きちんと・・・?」


「ええ。貴族は平民から特別扱いされる代わりに平民が暮らしやすい生活を保証する義務があるわ。それを怠っていたら、平民は特別扱いし損でしょう?だから私たちは少々不自由でも、与えられた役割を果たす必要があるの」


段々と難しい話になってきて、僕の頭がショートしそうになる。


「簡単に言えば、ね。アランが今の生活を続けたければ、それ相応の不自由を受け止めて仕事をしなくてはならないわ。一方、アランは自由になる権利もある。その場合、今の生活は手放さないといけないわ。見せてもらったような部屋で生活し、私たちとも簡単には会えなくなる。いえ、あのような部屋で生活できるだけまだマシな方ね。道端にいる子どもたちをみたかしら。


僕はこくりと頷く。馬車からちらりと見えた、藁の上に座っている子どもたちは確かに気になっていた。


「彼らは親を亡くした、あるいは親から捨てられた子どもたちよ。本当は彼らのような子どもを救いたいのだけど、なかなかうまくいかなくて・・・。と、愚痴はアランにするもんじゃないわね。とにかく、あの子どもたちのように両親に会えず、屋根の下で寝ることもできないかもしれないわ。その代わり、彼らは何をしても自由よ。犯罪以外はね」


「僕は、母上や父上、兄上たちに会えなくなるのは嫌です」


僕は答えた。それが正解かどうかはわからないが、少なくとも今、僕に与えられている仕事をしなければ家族に会えないのだ、ということはわかった。


「それがわかればいいわ。貴方は貴方のやるべきことをやりなさい。少なくとも今は。そして、今の生活を手放してもいいと思える何かができれば、その時また相談しましょう」


母上は僕に優しく微笑みかけた。

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