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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
アランの人生
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アランの人生4

2人きりになると緊張感は増した。あまり母上と2人になったことはなかったからだ。


「あまり緊張しないでちょうだい。個室だし、多少のマナーは気にしなくていいわ。これまで勉強してきたことを私に見せてちょうだいね」


母上はウインクをするが、そう言われると余計に緊張する。


「さ、早速きたわよ」


先ほどの店員が持ってきてくれた皿を見て、僕は目を丸くした。


普段はサラダやお肉、お魚、スープ、パンかご飯、そしてデザートがそれぞれのお皿に盛られている。順番に運ばれてくることもある。


しかし、目の前にはスープは流石に別皿だが、肉もサラダもご飯も、そしてデザートも全て1つの皿に盛られていた。


「これは・・・」


母上をチラリとみると、母上の目の前には()()()()()の食事が並んでいた。


「さ、食べましょう」


母上は僕の視線に気づいてないのか、涼しい顔をして食べ始めた。それを見て、僕も口をつける。どうやって食べるかはわからなかったが、多少のマナーは気にしなくてもいいと母上が言っていたし、気にはしないでおこう。


まず、サラダを口に含む。まずくは、ない。しかし、いつものシャキシャキした味ではないように感じた。なにが、と言われるとわからないが。


続いてハンバーグを口にする。少し小ぶりのそれも同じような感想だった。他と変わらないと感じたのはデザートの果物くらいで、あとは概ね同じような印象だった。


「アラン、初めての外食はどうだったかしら?」


「美味しかったです。全て食べてしまいました」


母上に連れてきてもらった店で「いつもと違う」とは言いがたい。それに不味かったわけでもないため、あながち嘘でもない。


「それは良かったわ。それじゃあ、行きましょうか」


屋敷だと食後に紅茶を飲むのだが、母上はそれを頼まずに店を出ようとする。外出先だとそんなもんか、と思いながら僕は外に出て馬車に乗り込む。


「最後に先ほどの店に向かいましょう」


「え?」


母上の宣言に、僕は思わず顔を顰めた。


「どうかしたの?」


「ええ。どちらの店も母上を軽んじてたように思えたので、あまりいい印象はありませんでした。そんな店にもう一度行きたいという母上が意外だっただけです」


「まぁ。アランはよく見てるわね。そう。その2つの店は私のことを軽んじてました。が、だからこそもう一度行きたいのです。いい勉強になるでしょう」


馬車の中では僕は母上の言葉の意味を理解できなかったが、店に入るとその意味がわかった。


「いらっしゃいませ!」


僕たちが最初に訪れたのは宝石店だ。朝に来た時は舌打ちまでした店員が、今度は揉み手をしながらわざわざカウンターの中から出てきて挨拶をしてくれる。


「これはこれは、貴族様でいらっしゃいますか。今日はどのようなものをご入用で?」


その態度の変わり方に僕は目を丸くする。おそらく、店員は午前中に来た母子と同じだとは気づいていない。変わったのは服装だけだというのに。


「ええ。ちょっと訳アリでしてね。でも、ここにあるものはちょっと小さいわね」


「では、当店でとっておきの宝石をご用意しましょう」


「いえ、結構ですわ。()()()()()()()()()()()()()()らしいですので」


その言葉を聞いて、ようやく店員がマジマジと僕たちの顔を見る。そして目の前にいる2人が誰だったかを理解し、顔が青くなる。


「ここにあるものは全て傷物ですね。ですが値段は正規に近いもの。()()()()()()()()()()()にはギリギリの値段ね」


「くっ」


「おおかた、他店よりもやや安くしてそれをウリにしてたんでしょうが、流石に私の目は誤魔化せません」


「しかし、騙されるやつが悪いんで・・・」


「ええそうね。宝石にどんな値段をつけても構いません。その横柄な接客態度で何も聞かれないようにしていたのでしょう?ですが、流石にやりすぎましたね。摘発させていただきます」


「いや、これは・・・」


()()()()()()()()()、でしたよね?」


にっこりと笑う母上に、店員は何も言い返すことができずに肩を落とした。


母上は昼食前にすでに衛兵に連絡をしていたらしい。すぐに衛兵が集まって宝石の回収と店員の連行を行った。店の奥からは綺麗な、傷のない宝石も多数見つかった。


「宝石の価値はしっかりわかっているはずなのに、もったいない人生ですね」


母上は宝石たちを眺めながら、ポツリとつぶやいた。

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