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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
アランの人生
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アランの人生3

店員がいなくなったのを見計らって、僕は母上に声をかけた。


「ねぇ。母上と父上は一緒に暮らせないの?」


「安心して。これは演技だから。アレンは余計なことをいわないでね。あとで説明するわ」


母上がそういうのだから、僕は母上を信じようと思った。


しばらくすると店員が戻ってきた。


「こちらの物件はいかがですか?」


店員が差し出した紙には四角や三角といった図形や数字が書かれていた。


「で、これはいくらですの?」


母上はチラリと目をやっただけであった。その態度が気に入らなかったのか、店員は再び眉を顰めたが、すぐに元の顔に戻した。


「1年間の契約、前払いでこれだけになります」


店員が手を出して金額を伝える。僕にはわからなかったが、母には伝わったらしい。


「随分と信用がないのね」


「そこはお互い様ではないでしょうか?」


再び、僕は目の前で繰り広げられてる会話が信じられなかった。母上に対して、露骨に敵意を向ける人を見たことがないからだ。


「それもそうね」


だが、ここでも母上は意に介さない。


「じゃあ、部屋を見せてくれるかしら?それくらいはさせてくれるわよね?」


「ええ。少し歩きますが、いいですか?」


「もちろん。アランもいいわね?」


「はい」


3人は店を出てしばらく歩いていると、路地の近くで小さな御座を敷いて座ってる子どもが数人いることに気づいた。僕は母上の手を引くが、母上は小さく頭を降った。彼らについて聞くべきは今ではない、と僕は思った。


僕たちは街の中心部から離れたところにある小さな家に案内された。屋敷の離れくらいの大きさだ。そのうちの一室を店員が開けた。


「こちらになります」


僕の最初の感想は「狭い」だった。僕の部屋と同じくらいだ。そもそも、1部屋しかないのに服はどこにしまうのだろう。


「なるほど、わかりました。少し他を当たります。見送りは結構です」


母上がそう言った途端、店員は舌打ちをした。


「では、私は大家に鍵を返してまいりますので、こちらで失礼します」


鍵は自分で持っていたはずだから、ここで別れる口実を作るためだろう。母上も特に何を言うでもなく、その場を離れる。


「あっちこっち歩いて疲れたでしょう。お昼ご飯にしましょう」


「うん」


朝から歩き回ったので疲れたのが正直なところだ。母上が言い出さなければ自分から休憩を提案していただろう。


「その前に少し準備しないとね?」


母上はイタズラっぽく笑った。


僕たちは街中ではなく、自分たちの屋敷に戻ってきた。


「さ、いつもの服に着替えてらっしゃい?」


「はい」


すぐに着替えて玄関ホールに向かったが、母上はまだ来ていなかった。


「母上はまだかな」


「女性は支度に時間がかかるものですよ。アレン坊ちゃん」


僕がポツリと独り言を漏らすと、いつのまにか隣にいた執事長に苦言を呈された。


「そうなの?」


「ええ。時間をかければかけるほど、女性は美しくなるものです。しかし、男性を待たせ過ぎると男性の気持ちは離れていってしまう。常に女性はその狭間に立たされているのです」


「ふーん」


僕はよくわからなかったが、女性の準備を急かすのはやめたほうがいい、というのはわかった。


「お待たせ、アレン」


現れた母上は、確かに先ほどとは全く違う装いであった。


僕と母上は、今度は馬車に乗って街を目指す。


「言いたいことはたくさんあるわね。でも、それは食事をしながらにしましょう」


「はい」


早速母上に聞きたいことを聞こうと思っていたのだが、先を越されてしまった。だが、5分もしないうちに馬車は目的の場所に着いた。


「いらっしゃいませ」


店の中に入ると、店員が恭しく頭を下げてくれた。先ほどの店員達とは大きな違いだ。


「お待ちしておりました。ガーフィールド公爵夫人。アラン様もようこそお越しくださいました」


「アランは外出するのは初めてなの。だから、少々のマナーは許してくださいまし?」


「ええ。もちろんでございます。むしろ初めての外出に当店を選んでいただき、光栄でございます。では、お席にご案内させていただきます」


僕は先ほどとは別の意味で緊張していた。今、母上は公爵夫人だし、店も公爵夫人に対して敬意を表している。


さらに驚くべきは、初対面の僕にまで母上と同等の敬意を感じるところだ。先ほどの店では僕の存在を認識されてたかどうかも怪しい。


店員に案内されたところは個室になっていた。母上が二言三言店員と会話し、店員は恭しく頭を下げて部屋を後にした。

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