表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
アランの人生
15/31

アランの人生2

夕食後、僕は父上に呼ばれて執務室に入った。ここに入るのは随分と久しぶりだ。僕の教育が始まったころから、もうここが父上のいる遊び場でないことを理解していた。


「失礼します」


父上の入室の許可があってから、僕は部屋の中に入る。父上に促されてソファに座った。向かいに父上が座る。父付きの侍女がすぐにお茶を淹れてくれた。そういえば、殿下に侍女はいなかったな、と思い出した。


「アレン。殿下とはどういう話をしたのだ?」


単刀直入に父上が聞いてきた。僕はダレル殿下との短い会話を父にぶつけた。


「アレンはそれに対してどう思った?」


すぐに否定されるかと思ったが、父上は否定しなかった。むしろ、僕の考えを聞いてきてくれた。


「僕は殿下の側近になることに疑問を持っていませんでした。しかし、殿下の話を聞いて、本当に僕がやりたいことなのかどうか、疑問に思いました」


父上にこういう話をするのは初めてだった。ただ、何を言っても怒られないだろうという雰囲気は感じたので、そのままの気持ちを伝えた。


「確かにそうだな。貴族というもの、与えられた役割をこなすものではあるが、果たしてそれが正解なのかどうかは誰にもわからない」


父上は僕の言葉に納得するように頷いた。


「ならば明日、イザベルと街に行くといい。そこで何かやりたいことがあれば、遠慮なく言いなさい」


明日、母上と出かけることができる!


僕は飛び上がるくらいに喜んだ。


「父上、ありがとうございます!」


翌日、僕はいつもより早く目が覚めた。寝巻きから部屋着に着替え、朝食を食べたのち、簡易な服装に着替える。子どもの僕でもわかる、薄く硬い生地の服だ。平民の子どもが着る服らしいが、違和感があって動きにくい。


これは乳母が準備した服だ。どうやら父上からの命令らしい。おめかしするものだと思ってた僕は少しがっかりしながら玄関ホールに向かう。そこでは、すでに母上が待っていた。母上もいつものドレスではなく、質素な服を着ていた。


「母上、お待たせしました」


「私も今、来たところよ。さ、行きましょう」


母付きの侍女と執事長、そして僕の乳母に見送られて屋敷を出る。


「今日は歩いて行きましょう」


「はい」


貴族街から街の中心まで街まで歩いていくと大人の足で15分ほどかかる。それを知ったのは後からだったが、その意図は先に知ることができた。


「アレン。これから私たちは街の視察に行きます。私たちがガーフィールド家の者と知られたら、街の人たちは萎縮してしまいます。それを悟られないようにこのような服装をして、徒歩で行きます。いいですね?」


「わかりました」


母上と一緒に歩けるのは嬉しかったが、街の中心までは通常の倍くらいの時間がかかってしまった。


「母上、少し疲れました。休みませんか?」


「これくらいで疲れていては楽しみませんよ?さぁ、まずは宝石店に行きましょう」


僕は母上に半ば引っ張られる形でとある宝石店に入った。そこには色とりどりの宝石が並んでおり、もともと宝石に興味のない僕でも目を奪われるほどだった。


「いらっしゃい!」


店員が元気に挨拶をしたが、僕らの方を見ると露骨に興味をなくした様子だった。


「あら、ここにある宝石は値段が高いのではなくて?」


「いや、これが正規の値段さ。価値のわからん人には高く映るかもしれんが」


目も合わせずにぶっきらぼうに答える店員を見て、僕は驚いた。母上にそんな話し方をする人はいないからだ。屋敷の人たちはもちろん、家族ですら、こんな口調で話しかけたりはしない。


「わかったわ」


しかし、母上は意に介した様子もなく、一通り宝石を見終わると店を出た。


「アレンの言いたいことはわかるけど、後でお話ししましょう」


そういうと、母上は次の目的地に向かった。そこは何も置いていない、ただ椅子と机がある建物だった。


「今、街に着いたところなんですけど、いいですか?」


「はい」


そういうと一人の店員が奥から出てきて僕たちに席を勧めた。


「今日はどういった物件をお探しで?」


「ええ。最近、夫を亡くして息子と二人で田舎から出てきました。そこで2人で暮らせるアパートを探してるの」


父上はまだ生きてるよ!何を言ってるの!?


僕は喉まででかかった声をなんとか飲み込んだ。母上が僕の太ももを軽くつねり、首を横に張ったからだ。


「それはご愁傷様です。ところで予算はいくらくらいでお考えですか?あと、働く先はお決まりですか?」


「働く場所は決まっておりませんが、夫の遺産がありますから、当面の生活費ならなんとかなります」


母上がそういうと、店員は眉をひそめた。先ほどの宝石店の店員と同じだ。


「働く場所が決まってないとなると、こちらとしてはなかなかご案内しにくいと言いますか・・・」


「あら、どうしてかしら?」


「部屋を貸したはいいですが、逃げられても困るので。前払い制ならお貸しすることもできますが、割高になりますよ?」


「それでもいいわ。一つ、物件を紹介してちょうだい」


「・・・かしこまりました」


店員は資料を取りに奥に向かった。

よろしければ⭐︎評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ