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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
サラの人生
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サラの人生6

3回目の妊娠も1回目、2回目と大きくは変わらなかった。シモーヌからは2人目と3人目の間が短かったことを揶揄われたが、苦笑いしかできなかった。


大きな違いといえば、産休に入って早々、エマ様に呼び出されたことだろう。


「身体の調子はどう?」


「至って順調です」


「そう。ならば安心したわ」


エマ様はそう言って紅茶を啜る。以前は立ったまま対応していたわたしだが、流石に大きいお腹を支えて立ったままは腰に響くので座らせていただいた。エマ様の隣にはいつもの侍女が静かに佇んでいる。


「ところで、もうすぐ5年になるわね」


私が初めてエマ様にお会いした日。その日は人生で最悪に近いから、鮮明に覚えている。順調にいけば出産するくらいにその日を迎えるはずだ。


「サラはどうするのかしら」


「私はこの王宮を離れます」


私は即答した。


メイド生活ではカネーシャやシモーヌなど、周りには恵まれていた。これからもいい関係を築けていけるだろう。


しかし、エマ様を母と慕う自分の子を見る勇気はない。不意に目にしてしまうくらいなら、いっそ離れてしまった方がいい。


「その言い方だと意思は固そうね」


「ええ、ダレル殿下が何か仰っていたようですが、私には関係ありませんので」


「王宮を離れて、行く当てはあるのかしら?」


「それは・・・」


それは私が一番聞きたくない言葉だ。


お給金は王宮で働くだけあってなかなか良かったが、半年もあれば底をつく。実家も父の代で男爵位が途切れることが発表されており、私を娶る奇異な男が簡単に現れるとは思わない。


「辺境の地でよければ紹介状を書きましょう」


「え?」


「辺境の地といっても心配しなくていいわ。海辺の街でね。外交の要なの。辺境伯が治める街なんだけど、中央の人材が欲しいと言っててね。貴女がぴったりなわけ」


「いいんですか?」


私は半信半疑で聞いた。エマ様にとって、私は秘密を知る一人。この世から消してしまった方がいいまであるし、そうなる覚悟も、できてはなかったがぼんやりと考えてはいた。


「ええ。言った通り、貴女が約束を守る限り、私が貴女の命を狙うことはないわ。それに、今更貴女が『自分の子』と主張したところで信じる人はいないでしょう」


それもそうか、と思う。


「先方には伝えておくわ。詳細は伝えないけど、訳あって乙女じゃないことは伝えておくわね」


「ありがとうございます」


「殿下に何か伝えておくことはあるかしら?」


「・・・一国民として、王太子、将来の国王としての活躍を期待しております、とだけ」


私はエマ様に礼を述べ、敢えてカテーシーをして退室した。


出産して1週間。私は王宮を出た。カネーシャからは身体を気遣ってもう少し休むように言われたが、私は早く王宮(ここ)から出たかった。


エマ様からは感謝と紹介状と、思った以上の退職金をいただいた。


紹介先は5年前に王宮から賜った辺境伯らしい。もともと交易をしていた小さな港を発展させ、今やこの王国の玄関口となっている。優秀な人らしいが、平民出身らしく、貴族的な振る舞い、メイド教育のできる人材を探していたらしい。


王都を離れる前、私は父に会った。父はまだ貴族のはずではあるが、その姿は小さく見えた。


「辺境の港に行くことにしたわ」


「そうか」


私が伝えると、父は小さく答えた。


5年前なら大反対していただろう。しかし、今は私の行く先に文句はないようだった。


5年。父も変わったが、私も変わった。強くなった、と思う。あの頃のような世間知らずの乙女ではない。


「貿易で有名な街なんですって。そこを治める辺境伯様の屋敷でメイドをすることになったわ。お父さんも、いつか必ず来てね」


「ああ。必ず」


父の言葉に、わずかだが力が入ったような気がする。


次に会うのはいつになるだろう。でも、必ず会える。


そんな予感を胸に、私は辺境の港に向かう馬車になった。

もしよろしければ⭐︎評価をお願いします。


明日はお休みします。

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