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溺愛王子と寡黙令嬢  作者: 御節 数の子
サラの人生
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サラの人生3

「ダレンの妾になってくれない?」


エマが紅茶を口にしてから放った言葉は、おおよそ王太子妃らしい発言ではなかった。


「今後、世継ぎのことを考えないといけないのですが、殿下との婚約、結婚は義務であって、恋愛感情はないのです。恋愛感情がない相手に身体を許すほど、私は人間ができてません。幸い、貴女は私と髪の色も同じですから、ちょうどいいですね」


「いいんですか?」


「ただし」


私の疑問に答える前に、エマは続けた。


「貴女には秘密裏に産んでもらいます。そして、その子たちは私が責任を持って育てます。この提案を受け入れてくれるならば、貴女は王宮のメイドとしての身分を保証します。契約期間は5年間です。改正された憲法を再び改正できるのは5年後ですからね。あと、子は3人産みなさい」


私は少し悩んだが、おそらく選択肢は一つしかないだろう。その選択をしたところで、果たして私が生き残れるかどうかはわからないが、寿命は少しでも長いほうがいい。


「しかし、先ほどの憲法が」


「ええ。ですから殿下と不貞を働いた人物は罰さないといけませんね」


にこり、と微笑んだエマから殺気を感じ、私は身を震わせた。


「3人子どもを産み、5年が経過すれば貴女は自由の身です。王宮でそのまま働いてもいいですし、王宮を離れたければ斡旋しましょう。それにこの契約が守られている限り、貴女の命を守りましょう」


「本当ですか?」


「ええ。私は嘘はつきません」


身分を保証され、子どもの保証もある。一方、断っても自分に不利益はないが、将来は保証されない。


正直、ダレル殿下への恋心は霧散していた。ただ自分の身を守るという点で、どちらを選ぶかは悩むまでもなかった。


「わかりました。お受けいたします」


私は首を縦に振った。


「では、契約成立ですね。とはいっても証拠が残るようなことはしません。口約束ですが、私にとってもメリットのあること。うまくやってくださいね」


エマにそう言われたのち、私は王宮を出た。王宮を出た瞬間、どっと疲れがのしかかった。正直、どうやって帰ったか、父にどう説明したかは覚えていない。


翌朝。どうやらドレスを脱いで寝具で眠っていた私は、早々に王宮からの使いに起こされ、王宮に召喚となった。


パーティ会場ですら浮いていた私が、ほぼ普通の格好の今日はどうなるのだろうか。


しかし、その心配は無用だった。私が案内されたのは従業員用の通路。渡されたメイド服に着替えると、さらに奥に進んだところにある扉の前に着いた。


「どうぞ」


ノックの返事は若々しい女性の声であったが、その先にいたのは妙齢の女性だった。しかし、フリル付きのメイド服を見事に着こなし、違和感はない。


「なんだい。入ってきて黙ったままなんて。挨拶くらいせんかい」


まるでメイドとは思えないほどの荒々しい口調に、私は戸惑いながらカテーシーで挨拶をしようとする。


「だめだめ。貴族と違ってあなたはメイド。頭を下げなさい頭を」


私は勢いに押される形で頭を下げ、名を名乗る。どうやら貴族式の挨拶はお気に召さなかった様子なので、家名は名乗らない。今度は気に入ったらしい。


「案外飲み込みが早いね。まぁ、いい。私は侍女長のカネーシャ。これからあなたを1年で立派なメイドにする。ついてこれるね」


「は、はい!」


「では、まずは服の着こなしから。全くなってないわ!」


その日からメイド長やそれに準ずる人から私は説教の日々だった。


「そこに埃が落ちてるよ!床の埃は王宮の誇り!しっかり掃除するんだよ!」


「ベッドに皺ができてるよ!ベッドの皺は顔の皺。きちんと伸ばす!」


「クロスに汚れ!クロスの汚れは心の汚れ。ちゃんと落としときな!」


チラリと他のメイドたちを見るが、ここまで辛辣に叱責を受ける人はいない。最初の3ヶ月が終わっても変わらなかった。それどころか、普通のメイドはしないはずの料理まで手伝わされる。


流石に私は疑問に思い、メイド長に聞いた。


「あの、私、メイドなんですけど?」


「知りません。私は王太子妃殿下の命令通りにしております」


どうやら、私の仕打ちやキッチンの仕事はエマの命令らしい。それなら従わざるを得ない。


半年もすると、徐々に仕事に慣れてきた。たまに説教されるものの、その頻度は格段に下がる。


少しだが、周りを見る余裕も出てきた。すると私の仕事は他のメイドたちもやっているが、自分の仕事の方が格段に早く、そして正確だと気付いた。どうやら私は特別だったらしい。


「なんでこの部屋を毎日掃除してるんですか?」


私が聞いたのは、来賓室の掃除をしている時だった。いつからか、ここを掃除するのが私の仕事になっていた。しかし、ここ半年で使われたのはわずか数日のみであり、今日も明日も使われる予定はないはずだった。


「そりゃ、弱みを見せないためさね」


恰幅のいいシモーヌが答えてくれる。最近はメイド長ではなく、彼女が私と一緒に仕事をしている。彼女の漂う雰囲気は穏やかだが、仕事にはストイックだ。


「弱み?」


「そうさ。予定もなく急に訪れる、いわば非常識な行動をするやつなんて、嫌な性格に決まってるさね。でも、そういった相手でも王宮は相手をしなければならない。もし、そのときに部屋が汚れてたら、これみよがしに指摘しよるさね。場合によっては交渉ごとで王宮が不利になるかもしれんさね」


「そんなに!?」


「王宮ってのはそういうとこさね。で、それを責められるのはワシらじゃねぇ。国王様だったり王妃様だったり大臣様だったり。とにかく上のもんじゃな。上にはそういう責任がある。ワシらはその責任に応える義務がある。それだけのこっちゃな」

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