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【第59話】負けない!

 また一体、オークウルフを斬り倒したイヴの目に、大きな丸太を抱えた巨体が映った。


 巨人族のトロールだ。


 丸太は、門を破壊するための物だろう。


 今のところ三体いるようだが、あれを門に取りつかせるわけにはいかない。


「マオ、できる限り、安全な場所に退避して!」


 イヴはマオから飛び降りて、三体のトロールへと駆る。


 4mを超える巨体のトロールは、攻撃魔法への耐性が高いとはいえ動きは鈍く、一対一ならイヴの敵ではないが、分厚い脂肪と硬い皮膚に守られ、一撃で動きを止めるのは難しい。


 狙うのは、足の腱だ。


 トロールの振り回す丸太を躱し、イヴは素早くその背後へ。


 ガキィン!


 だが振り抜いた剣は、横から飛び込んできたオークプルートの、大斧によって止められてしまった。


「くっ」


 イヴはすかさず後退り、二体のオークプルートに臨む。


 前後に挟まれないよう、左に立つ個体の更に左へ。


 横凪に迫る大斧をしゃがんで躱し、立ち上がりざま、腕を狙って斬り上げる。


 斧を握ったまま肘から切断された腕が、もう一体のオークプルートの正面に飛び、一瞬の足止めになった。


紫電(ライトニング)一閃(フラッシュ)!」


 気合を込めたイヴの剣が紫の光を放ち、轟音を伴って片腕の無いオークプルートを斬り裂く。


 残ったオークプルートも、光に目を焼かれ視界を失っているようだ。


 だがその後方からは、漆黒の鎧に身を包んだオークハデスが向かってきている。


「せめて、一体だけでもっ」


 直後、オークプルートに数発の火弾が命中し炎上した。


 リーナの魔法だ。


「いいタイミングです!」


 踵を返したイヴはトロールを追い、ぐっと身を沈めて足を斬りつける。


「グボォォォ!」


 足の腱を斬られたトロールが、叫び声を上げながら片膝をついたところへ、イヴは大きくジャンプし、着地と同時に頭の半分を斬り落とす。


「まず一体」


 残る二体は、多数の矢を受けながらも、怯む事なく門へと歩を進めている。


 後ろを振り向くと、オークハデスは先ほどイヴが戦っていた場所を通り過ぎようとしているところだった。


 まだ少し距離がある。これならトロールをもう一体、ギリギリ倒せる暇があるかもしれない。


 そう、イヴが思った時。


 なんとオークハデスが、倒れたプルートの死体を軽々と掴み上げ、イヴに向かって放り投げた。


「なっ!?」


 信じられない速度で真っすぐに飛んでくる死体を、横に躱してすぐに剣を構える。


「は、早い!?」


 十分な体勢を取る前に、オークハデスは一瞬で間合いを詰め、イヴ目掛けて大剣を振り下ろす。


 キィィィン!!


 イヴの振り上げた剣が、火花を散らしてハデスの大剣を受け止める。


 常人であれば、受けた剣ごと両断されていたに違いない。


 それほど鋭く、重い一撃だった。


 しかも、プルートを一回りも超える体躯でありながら、動きはイヴに匹敵するほど速い。


 イヴは大剣を払い、腹を狙って斬りつけると、ハデスは瞬きの内に数歩下がり、自分から間合いを取った。


 ある程度知能が高いのだろう、オークウルフやオークプルートと違い、がむしゃらに攻撃を仕掛けてくるわけではなく、相手の技量を計ろうとしているようだ。


 初めて対決する相手だが、その強さは噂で聞いた通り、オークプルートを軽く凌駕している。


 対峙するオークハデスの発する闘気が、ぴりぴりと肌を刺す。


 一瞬も気を抜ける相手ではない。


 イヴの経験則がそう告げる。


 気付くと、周囲からは魔物たちが消えていた。


 ハデスが指示を出した様子はない。魔物の本能が、これから起こる戦いに巻き込まれるのを恐れ、そうさせたのだろう。


 イヴは改めて、剣を正眼に構える。


 相手が誰であろうと、負けるわけにはいかない。


 最後の一体を倒すまで、倒れるわけにはいかない。


 それが、勇者である自分に課せられた使命なのだから。


「行きます!」


 イヴは、構えた剣に全霊を注ぎ大地を蹴った。

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、健気・・・勇者様だけど、姫騎士様しゅき。
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