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【第57話】迎撃開始!

 街の東端に建てられた、クローナークの砦の背後には大河が流れ、街を囲む堀が河の上流側と下流側に繋がり、港を含むクローナーク全体を、陸路から完全に隔離する形となっていた。


「シュルツ分隊長、門を守ってください! 私は、遊撃で敵の数を減らします!」


「ああ、任せてくれ!」


 シュルツの率いる小隊を、門の前を囲む半円形に展開させ、イヴは彼らに攻撃が集中しないよう、ウィンドランナのマオと共に戦場を駆け敵を翻弄する。


 防御壁上の隊員が、空と地上の魔物を攻撃する主力となり、リーナとクレムがそれを援護、支援し、全体の戦力不足を補う。


 これは、勇者であるイヴの力を、十分に生かす事のできる作戦だった。


 砦と街の建物との間には、あえて整地されていない広場があり、そこへと続く三つの通りは広場に入る直前に狭くなり、大挙して押し寄せて来る敵を密集させる。


 最初の一団が現れた北の通りへと向かい、イヴは戦端を切る。


「エアカッター!」


 風の刃が、先頭のオークを切り裂く。


 すり抜けざまにオーク数体を斬り伏せ、アルミラージたちはマオで蹴散らす。


 そのまま止まらずに駆け抜け、西の通りへ。


 直後に上がった炎の柱は、リーナの魔法だ。


 目の前では、数本の矢をくらい、魔物たちがばたばたと倒れる。


蒼雷(ライトニング)疾走(ドライヴ)!」


 振り上げた剣先から発生した青い光が、大地を切り裂きながら進み、直線上のオークウルフたちを、瞬時に焼き焦がす。


 それでもすぐに、魔物で溢れかえる。


 600を超える敵を、簡単に防ぎきれるとは思っていない。


「ノーバディさん、無事かしら……」


 イヴの脳裏に、ふと漣の姿が浮かぶ。


 しかし、気にはなっても、今は考えている余裕などない。


 イヴは、沸き上がる想いを抑え、眼前に迫る魔物たちに剣を向けた。


「イヴってば、絶好調みたいだね~」


 防御壁上のリーナは、無駄のないイヴの戦いぶりに頬を緩めて呟いた。


 彼女の役目は、イヴの背後に回ろうとする敵を魔法で排除する事だ。


「まだまだ、始まったばかりですよ、リーナさん。油断は禁物です」


「あはは、わかってる、わかってるってば」


 今のところ、砦前に突入してきたのは、それほどレベルの高くない魔物とオークだけ。


 アルミラージを筆頭に、大山猫型のリガース、2mを超す猪型のベルクボア、赤い目で子牛ほどの黒い狼シルブスもちらほら確認できるが、これはいわば尖兵がわりだろう。


 巨人族や上位のオークは、この後に控えた本隊に含まれるはず。


 現に、突入してくる魔物の数も、徐々に増している。


 リーナはイヴの動きを目で追いながらも、戦場全体の状況を把握しようと努めていた。


「リーナ様!!」


 走り込んできた守備隊員の一人が、素早く盾を構える。


 カンカンッと金属音がして、ハーピーの放った羽根が盾に弾かれる。


「うわ、気付かなかったよ、ありがとう」


 一応、クレムから強化魔法を掛けてもらっているとはいえ、当たれば多少の傷は負っていただろう。


「いえ。上はお任せください」


 二人の隊員が、それぞれリーナとクレムの背後に立ち、上空からの攻撃に備えた。


「ハーピーと、大蝙蝠のビイアンフだね」


「ええ、合わせて20……いえ30といったところでしょうか」


 翼長3mを超すビイアンフは、口から風の刃を吐くうえに、ハーピーよりも飛行能力が高く、魔法でも弓矢でも墜とし辛い厄介な相手だ。


「とにかく、地上に集中しないとね」


「ええ」


 そうしている間にも、広場には次々と魔物たちがなだれ込んでくる。


「ロックレイン!」


 雨のように降り注ぐ岩が、魔物の群れを広範囲に押しつぶすが、それでも、門の前へと突き進む勢いを止められない。


「リーナさん、門は私が。サンクチュアリ!」


 門を守る守備隊の前に展開した聖域が、一時的に魔物たちを足止めする。


 戦闘の序盤で、彼らの体力を消耗させるわけにはいかない。


 それはイヴも同じだ。


「ファイアストーム!」


 イヴの背後に纏わり付こうとする敵を、リーナは一気に焼き焦がす。


 砦に続く通りの奥に、丸太を抱えたトロールが見えた。


 数は多くはないが、オークプルートもいる。


 漆黒の鎧は、オークハデスか。


 今のところ、先日のダークエルフは見かけない。


 こちらが弱ったところで、襲ってくるつもりなのだろう。


 残りの魔力を考えると、かなり厳しい戦いになるのは必至だ。


「キテレツくん、ちゃんと逃げられたかな……」


「あの空飛ぶ乗り物があれば、大丈夫ですよ、きっと」


「うん、そだね」


 リーナとクレムの目には、北や西に比べて、南は心なしか魔物の数が少ないように思えた。




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