【第55話】容赦しない!
「この間は油断したがな、今日はそうはいかねえぜ」
街の入口側を背にして、ガロウズと手下たちは剣を構えた。
「俺も、今日はもう、遠慮はしない」
ガロウズたちの後方には、夥しい数の魔物とオークの群れが、結界に攻撃を加えている。
結界があとどれくらい存えるのか、漣には見当もつかないが、それほど多くの時間は残されていない事は確かだ。
その光景と、ガロウズたち、それから倉庫の陰で震える女性を交互に見比べて、漣は唇を噛み小さく首を振った。
「へっ、今さら後悔しても遅いぜ!」
漣のその様子を弱気とみたのか、ガロウズはここぞとばかりに勢いづく。
「ホント、それな。反省してるよ……あの時殺しておけば良かった、てな」
それでも、魔物の襲撃は起こっていただろうが、少なくとも、ここで女性が襲われる事ななかっただろう。
「ふざけんなあ!!」
怒りに任せ、一斉に襲い掛かってくるガロウズと手下たちに向け、漣は躊躇いなくバスターガンの引き金を引いた。
グゥォォォォォン!!
青い閃光が、手下たち五人の額を無慈悲に撃ち抜く。
「は……?」
ばたばたと倒れる手下たちと、その状況に理解が追い付かず、呆然と立ち竦むガロウズ。
「こいつらは、今自分が死んだ事も、わからなかっただろうな」
だが、ガロウズには、自分が死ぬ事を自覚させる。
「う、あ……」
ぴくりとも動かない、倒れた手下たちを見渡して、ガロウズはようやく自分の置かれた状況を認識したのか、苦し紛れの言い訳を口にし始めた。
「ま、待ってくれ、こ、これは、俺の本意じゃねえんだ。魔族に殺すと脅されて、し、仕方なかったんだっ」
「ああ、なるほど。どっちにしても、死ぬ事に変わりはないな」
見苦しい命乞いなど、聞くつもりはない。
「うああああああっ」
ガロウズは、意地もプライドもかなぐり捨てて逃げ出した。
「今さら、逃げるなよ」
漣は、ガロウズの背中に狙いを定め、引き金に掛けた指に力をこめる。
グォン!
発射された光弾が、正確にガロウズの心臓を射抜いた。
よろめいて倒れ、動かなくなったガロウズを見ても、まるで映画のワンシーンを眺めているようで、何の感情も沸き上がってはこない。
だが今はそれで良い。
深く考えている暇はないのだ。
一瞬空が赤く光り、雷鳴に似た音が響く。
結界が消えた。
漣はバスターガンをホルスターに納め、不安そうな顔でへたり込む女性に駆け寄る。
「大丈夫? 立てる?」
「は、はい。あの、ありがとうございます……」
「お礼には、まだ早いんじゃないかな」
既に街の入口からは、魔物の群れが大挙して侵入し始めていた。
引きつるような悲鳴を漏らした女性の手を取り、漣はHaTMCを出す。
「乗って! 早く! 質問は無しだ」
「は、はい!?」
HaTMCの後部シートに彼女を乗せ、スロットルを開く。
上空から見下ろすと、魔物たちは漣の事になど目もくれず、ひたすらに砦を目指し進んでいる。
砦の方角には、北や西から飛行型の魔物も近づいていた。
「どうするっ」
砦はすぐにでも乱戦となる、そんな所に連れて行っても、彼女が生き残れる保証はない。
もはや、この街に安全な場所はなかった。
漣はHaTMCの機首を南に向ける。
一旦街から離れ、安全な場所に彼女を降ろす。
多少、時間のロスはあるものの、彼女の命を守るにはそれしか方法がなかった。
「けど、その前に……」
亜空間収納からライフルを取り出し、フォトングレネードランチャーにエネルギーカートリッジを装填する。
フォアエンドをスライドさせエネルギーを収束、真下に向かってトリガーを引く。
魔物の群れの中で、激しい爆発が起こる。
密集しているお陰で、先頭をゆく十数体が一度にバラバラの肉片と化した。
「もう一発!」
更に十数体が、消し飛ぶ。
戦っているはずのイヴたちのため、少しでも数を減らしておきたい。
漣は、続けて三発を撃ち込むと、南に向かってHaTMCを飛ばした。




