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【第26話】美女二人とお買い物

 日の傾きかけた街は入って来た時よりも人通りが増え、商業地区となっているクローナークの東側は、物売りが客を引く掛け声や値引きを交渉する買い物客たちの声が入り交じり、喧噪と活気に満ちていた。


「ここが、市場です。いろいろな食材が売っていますよ」


 布を張った屋根の立ち並ぶ通りを指さし、先頭を歩くクレムが振り返った。


 ここへ来るまでに街中央の砦や市庁舎、商業地区にある酒場を兼ねた3件の宿屋に商店、それを抜けると河に繋がる裏門があり、裏門を出たすぐ先の港には運送用の中型船が数隻と、数十艇の小さな漁船が繋いである。


「ねえキテレツくん、今日の夕飯はなにかなぁ」


 リーンは両手を頭の後ろで組み、期待のこもった瞳で漣を見つめた。


「そうだなぁ、二人は苦手なものってある?」


 料理人など初めての経験だったが、引き受けたからには仕事はきっちりとやりたい。そのためにはみんなの好みくらいは把握しておくべきだろう。


「ボクは何でも食べるよ。特に好き嫌いはないかなぁ」


「リーナさんは悪食……いえいえ、味に無頓着ですものねぇ」


 クレムが楽しそうに微笑む。


「あ~それ言っちゃう? ならボクも言うけどさ、クレムだってイヴだってそう変わらないじゃん? 野宿が続いた時なんか、ボクと一緒に蛇とか芋虫とか食べたよね、美味しい美味しいってさ?」


「そ、それはっ。冒険者なら普通のことではありませんかっ」


 おっとりのクレムにしては、意外なほど動揺して頬が赤く染まっている。


 芋虫……ないな、うん、ない。


 漣は心の中で強く思った。


「ってことだからさキテレツくん、ボクたち作ってくれたものは何でもOK。あんまり気を使わなくていいよ」


 リーナがにっこりと笑ってウインクする。


 口はちょっと悪いが、性格は漣が思っていたほど捻くれていないようだ。


「大丈夫ですよぉ、私もリーナさんも庶民の出ですし、イヴさんも食には拘らない方ですから」


「そう言ってもらえると助かるよ。俺の料理は異国のものだし庶民料理だから、みんなの口に合うか心配だったんだ」


 その後、市場の端まで露店を見て回り、今夜の食事に使えそうな食材を探した。


 解体された魔物らしき肉がそのまま吊るされていたり、獲れたてらしい魚が台の上に氷で冷やすこともなく並べられていたりと、現代日本人の漣からすればどれもこれも不衛生に見えてしまう。


 ハエのような虫がたかるのを、店主が払いもしないでいるのが不衛生さに輪をかけていた。


「何か買う気しないなぁ……」


 アルミラージの肉なら山ほどあるので、それを使った料理にしようかと思い始めたとき、漣の目に一軒の魚を扱う店が映った。


「お、これは……」


 その店はこの市場で唯一、魚をイケスに入れて生きたまま売っていたのだ。


 漣は視界の中にインベントリーを開き、サバイバルキットのメニューからある物を探した。


「ええっと……お、あった、クーラーボックス」


 その後、一度市場を出て人の目のない場所へ行き、リーナとクレムに壁となってもらい亜空間収納からクーラーボックスを取り出した。


「わっ、ホントに収納魔法使えるんだ」


「目の前で見るのは初めてです。凄いですねぇ、ノーバディさん」


 リーナもクリスも、少しは漣を見る目が変わったようだ。


「それで、その箱は何ですか?」


「見たことない材質だね~」


 漣が肩に掛けたクーラーボックスを指さして、クレムとリーナは首を傾げる。


「これは、中身の温度を一定に保つ箱だよ」


「中身の温度を一定に、ですか?」


「え、何それ。魔道具なの? そんなの聞いたこともないよ」


 二人は驚いた顔で目を大きく見開き、まじまじとクーラーボックスを見つめた。


「いや、魔道具じゃないよ。構造自体がそうなってるんだ」


「へぇ~、キテレツくんって、持ち物までキテレツなんだね~」


「本当に……いえっ、そうではなくて。ノーバディさんのお国は、いろいろ変わった物があるんですねぇ」


 一瞬、リーナに同意しそうになったクレム。


 どうやらクレムからもリーナと同様、奇天烈だと思われていたことに、漣はようやく気付いたのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ色々とね・・・ノーバディ君は。さて、食事で分からせるのは次回かな?
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