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【第23話】保証人は勇者様

 それから、守衛に言われた通り二人は登記所へ向かった。


 身分証の発行は日本でのそれと違い、生まれた国と名前、それと保証人の証明があれば良い。


 イヴの提案で、生まれた国は彼女と同じミルセット王国とした。


 名前をどうするか迷ったが本名を使う気にはなれなくて、とりあえず「ノーバディ」で通すことにしたのだが、これにはイヴも賛成してくれた。


「記憶が戻って名前を思い出したら、その時にもう一度登録しましょう。大丈夫、もし問題があれば一度ミルセットに戻って、そこで登録し直せばいいわ」


 イヴの家はミルセット王国でもかなり大きな領地を持つ辺境伯で、それなりの権力が有るらしい。


「ああ、その時は頼むよ」


 漣は軽い気持ちで答えた後にイヴの言葉の意味を悟り、彼女には聞こえないような声で呟く。


「あれ? これって当分は一緒に行動するってカンジ……?」


 イヴに雇われた料理人、というのは街に入るための設定だったはずだが、いつの間にか彼女の中で、漣は本当に料理人として雇われたことになっているようだ。


「ま、それも悪くはないか」


 右も左も分からない、誰も頼る者のいないこの世界でたった一人生きてゆくのは、たとえグランゼイトの力を持っているにしても難しいだろう。


 この世界の常識もルールも分からないのだから。


 メビウス少年がくれた金貨や銀貨も、もったとして数か月程度のもの。


 金が手に入って住む所が確保できて、その上仲間ができるのならこれ以上望むものはない。


 漣は出来上がった身分証を受け取り、イヴと一緒に登記所を出た。


「とりあえず、私たちの宿に向かいましょう」


「宿?」


「ええ。宿といっても空き家を一件借りているだけなので、食事も身の周りのことも、全部自分たちで行う必要があるのだけれど」


「ああ、そういうコト……」


 それで、料理番が必要という訳だ。


 自分たちで食事の準備をする手間を考えれば、金が有るなら専門の料理番を雇うのはアリだろう。


「ここに市場とかあるのかな?」


「ええ、大きくはないけれどね。仲間を紹介したら、街を案内するわ」


「ああ、頼むよ。食材とか見てみたいから」


 街の入口付近にある登記所から西側は住宅地となっていて、練土の壁に板瓦の小ぢんまりとした家々が立ち並ぶ。


 時折見かける大きめの家は石材を使っていて、これらは財力のある商人たちの物らしい。


「クローナークは自治都市なので、比較的裕福な人が多いの」


 街の政治を取り仕切っているのは、都市貴族と呼ばれる有力な商人ギルドの親方で、職人や狩人ギルド等と協力しながら運営を行っている。


 ちなみに冒険者ギルドもあるのだが、この町に支所はないとのこと。


 道路は舗装されている訳ではなく踏み固められた土のままで、所々に雨が降れば水溜まりになるような窪みが見える。


「あれは何?」


 漣はふと目に映った、屋根の向こうの白い大きな建物を指さした。


「あれは、守備隊の駐在する砦です。ここは魔族の支配する魔境に近いから、自治都市とはいえ王国から守備隊が常駐しているの」


 守備隊の隊長は領地を持たない男爵で、政治に口は出さないものの、街のギルドは折り合いが悪くトラブルになることも多いそうだ。


 埃っぽい道をしばらく歩き、街のほぼ中央にある石作りの砦を左に折れた先に、イヴたちが拠点とする一軒家があった。


「ここよ、入って」


 イヴの案内した家は比較的大きな石作りの2階建てで、ささやかな庭もある。


 以前は商人の持ち家だったものを、その商人が他の街に移った後商人ギルドが管理していた。


 勇者の支援を要請したのは商人ギルドなので、彼らは快くこの家を提供してくれたらしい。


 もちろん、家賃はタダ。


「あ~イヴ、お帰り~」


「お帰りなさいイヴさん。お疲れ様でした」


 玄関のドアを開けてすぐのリビングに入ると、椅子に座っていた二人の美女が立ち上がってイヴを迎えた。




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