【第20話】魔族の仕業?
「オークプルートまで転移しているのは想定外だったけれど、とりあえずこれで任務完了ね。街に戻りましょう」
魔物の死骸を焼き払う作業を終えて、イヴはマオの手綱を取り漣に声を掛けた。
「誰が何のためにゲートを仕掛けたのかな?」
漣は素朴な疑問を口にした。
「ゲートを操れるのは上級魔族だけよ」
「魔族……?」
「ええ、人や魔物とは違った存在。魔王の元で統制され、人、エルフ、ドワーフの連合と敵対関係にあるのだけれど、近頃その動きが活発になっているわ」
危機に瀕した世界。
人と敵対関係にある魔族。
メビウス少年が言っていたのはこのことだったのかと、漣はようやく理解することができた。
その魔族が、大掛かりにも見えるゲートを3か所も設置し、魔物を他所の地域から召喚させた意味。
人に対する嫌がらせ、という訳ではないだろう。
「このまま何事もなく終わりってことは……」
「そうであることを願いたいけれど、少し悪い予感がするの。できるだけ早く街に戻って、防備を固めるよう守備隊に進言した方がいいでしょうね」
「そっか、じゃあ急がないとね」
「ええ、でも……」
イヴは漣とマオを交互に見比べ、少しだけ困ったように眉根を寄せた。
「君はマオに乗って。俺はこいつで……HaTMC、フォースアウト」
レッグバックのスイッチを押し、取り出したい備品の名前を呼ぶ。
すると、漣の目の前の地面が緑の光に輝き、その光が消えると同時にイオン推進型のバイクが現れた。
「えっ? 何、それ??」
「これは、その……馬とかウィンドランナ代わりの魔道具ってカンジかな……」
イオン推進、と正直に話しても、この世界の住人であるイヴには理解できないだろう。
当然だが、その原理は漣にも理解できていない。
『HaTMC(Hall Thruster MotorCycle)ホールスラスタモーターサイクル』
モーターサイクルと名がついているが、HaTMCに現代のバイクのようなタイヤはない。
代わりに格納式のランディングギアが装備され、メンテナンスや短距離の移動に使用される。
形状は陸上のバイクより水上バイクに近く、テール部分にはイオン推進用の翼に似た4つのスラスターが装着されている。
機体両脇には操縦翼面を備えた小翼を装備し、これは兵装や電子装置を懸吊するためのハードポイントを有している。
ハンドルバー前方のフードにはマルチファンクションディスプレイがあり、機体情報や速度の他、各種センサーにレーダーの表示、武装(現レベルでの武装は無い)選択及びマッピング機能等を見ることができる。
一応GPSを装備しているが、人工衛星の無いこの世界では無用の長物なのが残念だ。
「馬代わりの魔道具……今まで見たことも聞いたこともないわ……ノーバディさんのお国は、とんでもなく魔道具が発展しているのね……」
イヴは驚きを隠せないほど、目を丸くしている。
「まあその代わり、魔法を使える人はいないけどね」
「魔法使いがいない!? そんなことが?」
イヴにとっては、魔道具のことより魔法使いがいないことの方が、一層の驚きだったようだ。
「魔法のない国……想像もできない……」
もしイヴが現代の日本を見たなら、漣がこの世界に感じたのと同じような衝撃を受けるだろうか。
漣は心の中で、その時のイヴの顔を思い浮かべくすりと笑った。
「いつか機会があれば詳しく話すよ。とりあえず出発しよう。君が先導して、どんなに飛ばしてもついてくから」
「あ、はい。では」
ひらりとマオに騎乗したイヴが手綱を弾くと、マオはそれに応えて即座に走り出す。
漣はハンドル中央にあるスタートスイッチを押し、エンジンを掛けた。
HaTMCが自動的に80cmほど浮き上がり、ハンドル左のスイッチを押すとランディングギアが機体に収納される。
ゆっくりと右手のスロットルを回すと、あっという間に数十メートル離れていたマオのすぐ後ろに迫った。
「本当にっ、速い!?」
振り向いて様子を眺めていたイヴは、HaTMCの見せた速度に改めて驚いたようだ。
「これなら、日が暮れる前には街に戻れそうね」
イヴがマオの両脇を蹴る。
マオはぐっと首を下げ、力強く地を蹴り速度を上げた。




