【第18話】バレてない?
「撃つにしても、タイミングを考えなきゃな……」
射撃姿勢を保たまま、漣は戦況の全体を監視するためスコープの倍率を下げた。
飛び回るハーピーの一体が、オークプルートの頭上でホバリングするのを捉える。
「今だ」
スコープの倍率を上げ、横を向いたハーピーの耳上に輝点を合わせ撃つ。
頭を射抜かれたハーピーは、タイミング良くオークプルートの真上に落下する。
できればハーピーをプルートにぶつけたいと思っていたのだが、プルートは漣の予想に反し、落ちてきたハーピーに目を向けもせず大斧を振るい、その体をバラバラに砕いた。
仲間意識など微塵も感じられないその行動にも驚かされたが、驚愕したのはなのは大斧の威力だ。
「やばい、何だあれ。衝撃波かっ」
あんなものを喰らっては、人間の身体など跡形も残らないだろう。
それが分かっているのか、イヴは巧に斧の攻撃を躱している。
「とりあえず、大丈夫そうだな」
次の獲物を狙おうとした漣の目が異変を捉えた。
スコープ越しに、ハーピーと目が合ったのだ。
「なっ、気付かれた!?」
猛禽類を思わせる視力で漣を視界に捉えたハーピー3体が、飛行速度を上げて向かってくる。
漣を最優先の脅威と判断しての行動だろうが、これはハーピーたちにとっては悪手だ。
「あんまり頭は良くないようだな」
空中からの攻撃がなくなったイヴは地上の敵に集中できるし、漣も戦況を考える必要がなくなった。
援護をイヴに悟られることなく、ハーピーを屠れる。
今のところ、秘密を知られたくない漣にとっては好都合だ。
ハーピーたちは不可視の攻撃を警戒して、不規則なジグザグ飛行で漣に迫ってくる。
「無駄だよ」
スコープを等倍にセットし、EARのセレクターをフルオートに切り替える。
「散れ!」
毎分1500発の粒子弾が横なぐりの雨のように、弾幕となってハーピーを襲う。
光速近い速度で飛ぶ粒子弾から、せいぜい時速100Km程度のハーピーが逃れるすべはなく、瞬く間に身体中を蜂の巣にされて墜落していった。
墜ちてゆくハーピーに目もくれず、漣はもう一度イヴの方にスコープを向ける。
すでにオークウルフ3体を倒したイヴは、残ったオークプルートと切り結んでいた。
戦いの様子からお互いの実力はほぼ互角にみえるが、体躯の割に動きの速いオークプルートが振るう大斧対して、明らかに力の劣るイヴは少々攻めあぐねているようだ。
「アラートⅢって、怪人レベルだよな……」
漣が監視する中、体力の差なのかイヴの動きが徐々に鈍くなる。
オークにオークウルを合わせて、10体も倒してきたのだから当然といえば当然だろう。
「ちょっとやばそうだな……それなら……」
彼女の、勇者としてのプライドを傷つけないように配慮しながら、スコープを覗き援護射撃の好機を待つ漣の目に、オークプルートが一気にイヴとの間合いを詰め、大斧を振るおうと踏み込むのが見えた。
オークたちは上半身に鎧を装備しているものの脚に防具は無く、このオークプルートも例外なく裸足だった。
体重の掛かった足首を狙い、3点バーストで引き金を引く。
硬い骨に阻まれたのか貫通こそしなかったものの、3発の粒子弾によって足首を撃たれたオークプルートは、大きく体勢を崩した。
漣は更にフルオートで粒子弾を撃ち放ち、大斧の刃を粉々に砕く。
「今だ、イヴ!」
聞こえてはいない漣の声を合図にしたかのように、イブは素早く踏み込みすれ違いざま、雷光を纏った剣でオークプルートの首を刎ねた。
洗練されたスピードと舞いのような剣技。
頬についた返り血さえも、強さと厳しさを表出する装飾となって、彼女の荘厳ともいえる美しさを引き立てている。
「何度見ても、凄いな……」
イヴの凛として輝くような立ち姿に、漣は暫く我を忘れて見惚れてしまった。
剣を納めたイヴが、何やら辺りを見渡し口を動かしている。
「あ、そっか……」
それが自分を呼んでいるのだと気付いた漣は、EARをレッグバックに収納して樹から飛び降りた。
「援護したこと、気付かれてなけりゃいいんだけどな」
イヴが信用できない訳ではないがこの世界の実情も、それから彼女たち勇者の所属する国の政治体系も分からない現状では、自分の情報をあまり晒したくはない。
隠しておけるカードは隠しておく。
それが身を守るための手段だ。
亜空間収納については何も考え無しに晒してしまったが、あんな失敗は二度としない。
そう心に誓いながら、漣はイヴの元へと駆け出した。
〝レベルアップしました〟
特変[特撮変身ヒーロー]
レベル3➡4
基礎能力
攻撃力:15➡20[×12]
体力:13➡18[×12]
俊敏:20➡25[×12]
守備:16➡21[×12]
【HaTMC(Hall Thruster MotorCycle)ホールスラスタモーターサイクル】が解放されました。
これで、イオン推進型バイクも使えるようになった。




