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5妨害


 私は幸せな結婚式の前夜を過ごしていた。

 イアルの幼馴染である王子の計らいで私たちは王宮のゲストルームに宿泊することになったのだ。

 初めてのお城に身が引き締まる思いになりながらも、私は見違えるように勇ましくなったイアルを見つめた。

「はぁ〜、正装って窮屈だなぁ」

 本人は嫌がっているが農作業や動物たちの世話で鍛えた筋肉、生まれ持った美しい顔……王子ですら見劣りするくらいの良い男。

 普段は軽装だったり泥まみれ……ひどいときは牛糞まみれだったりするから意識したことはなかったけれど、やっぱり正装をすると彼がちゃんとした貴族だということがよくわかった。

 というよりも……すごく素敵だ。

「よくお似合いですよ」

「嬉しいけどさ、なんかよそよそしい」

「ここは王宮ですよ。旦那様に敬語を使わない妻なんて……」

「クロエがそうしたいならいいけどさ、俺はどっちでもいいよ」

 ぎゅうと抱きしめられて私は少しだけ安心する。初めての王宮でかなり気が張っていたらしい。息が漏れた。

「クロエ?」

「少し、緊張してたみたい……」

「そっか」

 イアルは抱きしめたまま、私の髪を優しく撫でると小さな声で「もう休もうか」と言った。



***



 幸せな前夜の後、私は早朝からイアルとは別の建物に案内され、王宮付属の侍女たちにあれやこれや世話を焼かれていた。

「クロエ様、息を吐いて〜〜〜それっ!」

「うぐっ!」

「ダメダメ!もっと強く結ばないと!」

「ほらそーれっ! そーれっ!」

 中身が出そうなほどコルセットを締められて、それから髪を複雑に編み込まれたり、あれやこれやメイクをされて……


「クロエ様、お美しいです!」

 鏡に映った私はまるで別人だった。イアルと一緒に考えた「森の女神」にインスパイアされた美しい白いドレスには小さな花びらが散りばめられ、ティアラではなく花冠、ふわふわに編まれた髪の毛にも花びらが散りばめられている。

「あり……がとう」

「それでは、時間になるまでこの部屋でお待ちくださいね」

「えぇ」


 父と母に付き添いはしてほしくないからイアルに頼んでバージンロードは2人で歩くことにしていた。から……少し形式は違うけれどイアルも一緒なら安心だ。

 私はコルセットのせいでハーブティーも飲めないのが苦しかったが、ゆっくりと時間が過ぎるのを待っていたが……


「ごきげんよう、お姉さま」

 嫌な声の主が私の部屋に入ってきて事態は一変する。

「パルパラ……どうしてここに?」

「大事なお姉さまに会いたいと()()()()したら入れてくれたの」

「そう……」

「お姉さま、この結婚を辞退してくださらない? だって、ポエジー家に嫁ぐのは元々私だったのだし、なによりイアルバン様だって私を好きになるに決まってるわ」

 パルパラはぎろりと私を睨んだ。

 私は大声を出そうか、それともこの場から逃げようか……。迷っていた。絶対に良いことにはならない。

「ねぇ、お姉さまいいでしょ? いますぐここから逃げ出してよ。馬車とお金は用意したから。それに、きっとミシャール家もお姉さまがお嫁さんに来れば喜ぶんじゃないかしら。頭が良くておとなしくて何でも言うことを聞いてくれるから」

 そういってパルパラは腕を捲ってみせる。そこにはアザや生傷がいくつもできていた。

 原因には心当たりがある。

 パルパラは頭が悪いのに嘘をついて私の功績を自分のものにしてミシャールに嫁入りした。けれど、嫁入りしてみたらマナーも、所作もなっていないパルパラをお義母様が()()したんだろう。

 ジョージはこのお義母様には決して逆らわないヘタレで、パルパラはジョージのいないところで痛い目をみたに違いない。

 自業自得……なのだけれど。

「私は、イアル様と結婚がしたい」

「お姉さまのくせに生意気言わないでよ。もういいなら台無しにしてあげる!」

 パルパラはそういうが早いか、入り口近くに置いてあった観葉植物を手に取ると鉢植えから引っこ抜き、鉢植えの中の泥を私にぶちまけた。

「きゃー!」

 私の悲鳴が建物に響いた。


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