4結婚式の招待客
「嘘……じゃないわよね」
「びっくりした?」
「すごく」
私の前でドヤっと腕を組んだイアル。
私は結婚式の会場と招待客のリストを眺めて目玉が飛び出しそうになった。
<会場>
中央ラガルド城 第1教会
まさか、王族たちが住んでいる中央ラガルド城の、しかも第1教会のチャペルで……?
「クロエも俺たちポエジー家は辺境のダメダメ貴族だ〜って思ってた? 実はさ、うちが農業や酪農を始めたのは色々理由があってさ」
「理由?」
「元々は、代々王族の騎士をしていた家系だったんだ。王宮のすぐ近く、中央付近に領地を持ってたんだけど俺の曽祖父が大の動物好きでさ。どうしてものんびり暮らしたいってんで王様の引き止めも虚しく辺境の領地と交換しちゃったってわけ。まぁ、俺みたいな変わり者には願ってもない幸福だけど、親父なんかは苦労してたよ」
「存じ上げなかったわ……。でも、社交界にもポエジー家はあまり顔を出さないじゃない?」
「あぁ、そういうのは苦手でさ。学園だってほぼ不登校だったし」
「じゃあ、イアルも騎士に?」
「まぁ、そうだな。けど、最近は戦争もないし週1くらいで通う程度って感じさ。まぁ、王子とは幼馴染みたいなものだし……でも寂しい思いはさせないよ」
私は得意げなイアルに返事をしつつ招待客の中で嫌な2人を見つけた。
<招待客>
ジョージ・ミシャール
パルパラ・ミシャール
「やっぱり、クロエには花の冠が似合うよなぁ〜、いや、バラもいいけど聡明なクロエにはもっと慎ましいのがいいか? う〜ん」
私の不安をよそにイアルは1人で盛り上がっている。
「クロエ、ハーブティー淹れてくるよ。あっ、そうだ。今朝、農場で採れた野菜をクッキーにしたんだっけ。食べながら結婚式の計画を考えよう」
「計画?」
「おう、例えば……ドレスはこんなのがいい!とかそういうのある……だろ?」
私は驚いて返事を返せなかった。伯爵家となればその家の風習や家訓があり、何事に関してもルールややり方が決まっていたりする。特に、ミシャール家ではそういうことが山のように多かった。私も嫁入り前だというのに大量のミシャール家の書籍を読まされたっけ。
確か、ミシャール家の結婚式は代々別荘としている避暑地にある小さな教会で親族のみで行うんだっけ。
「どうした……? もしかして、結婚は嫌?」
子犬のようなつぶらな瞳で見つめられてはたまらない。イアルは自覚ないが正直学園にいたら一番をとるくらいのいい男だ。
「あの、びっくり、して」
「びっくり?」
イアルは私の隣に腰掛けると不安そうに私の肩を撫でた。イアルからは暖かい森の香りがする。
「普通。伯爵家ってしきたりとかそう言うのがあるでしょう? ミシャール家の婚約者だったころはそういうものに縛られていたから……その自分の希望を言えるのが嬉しくて……」
イアルは私の話を聴き終えると優しく笑い
「うちはしきたりとかそういうのは小さい頃からなかったな。曽祖父がそう言うのが嫌いだったらしい。ここに住み始めたのだって動物が好きってことだけじゃなく、当時、扱いが悪かった農民たちを救いたいって思いがあったらしい」
「素敵……」
「クロエ、実はさ。俺、心配してたんだ。ルルー家はなんでも御令嬢が忙しいとかで一度も面談もなかったし、それに……都会に住む貴族のお嬢さんたちってこういう土臭いのとか嫌いだろ? だから、ちょっとさ」
「それにしてはイアル。あなたってば私がくるのを忘れて苗の世話をしていませんでした?」
「わ、忘れてくれよぉ」
イアルと一緒にいれば大丈夫。
私はそんなふうに安心して結婚式までの時間を過ごすことにした。