3素敵な出会い
馬車で数日ほど走り、車窓には緑がだいぶ多くなってきた頃……。
「お嬢さん、馬を少し休ませますね」
「えぇ、私は近くのお店に行ってみようかしら」
ポエジー家までもう少しところで小さな商店が集まる街道に寄ることになった。
「ありがとうねぇ」
私は馬たちの鼻をなで、それから御者に礼を言うと近くの商店へ向かった。大きな街道の分かれ道になっているこの場所は農家たちが旅人に野菜や料理を売っているらしい。
「どうだい、お嬢さん」
「あら、美味しそうな果実」
「えぇ、これはポエジー様のところで栽培させてもらっている最高級の果実だよ」
「ポエジー様の?」
「おうよ、うちの領主様は寛大でね。その領地のほとんどを俺たち領民に預けてくれてんだ。税もほとんどないようなもんだしお陰でこうしていい作物が育つってわけさ」
私はコインを支払って果実を紙袋いっぱい買った。
紙袋いっぱいの果物は御者への手土産にして私はポエジー邸へと向かった。
馬車がポエジー邸にたどり着いたのは日が沈んでからになってしまった。というのもほとんど舗装されていない道だったせいで一度迷ってしまったのだ。
私の実家に比べてもかなり慎ましい雰囲気のポエジー邸には美しい庭や噴水もなければ豪華絢爛な門ももちろんない。
御者が大きな扉をノックすると、年老いたメイドが慌てて飛び出してきた。
「す、すぐに坊ちゃんを呼んで参ります!」
数分後
ロビーに通された私の前に現れたのはさっきまで庭作業でもしていたような軽装で手には小さな苗を持った青年だった。その腕は筋骨隆々で、健康的な浅黒い肌にこれまた爽やかな短い黒髪。
(金髪蒼眼で華奢なジョージとは対極的だわ)
「すみません、俺すっかり苗の世話に夢中で……イアルバンといいます。イアルと呼んでもらえると嬉しいです」
「いえ、こちらこそ婚約者がいきなり代わるなんて大変な失礼を……なんというか申し訳ありません。クロエ・ルルーです」
「謝らないでください。親同士が勝手に決めたことですから。それに……俺たち多分気が合いそうだ」
というとイアルは私のドレスにたっぷりついた馬の毛を手に取った。
「あっ……」
「俺は何人か婚約者候補の方と会ってきましたが……ドレスに馬の毛をつけている人は初めてです」
私は恥ずかしさで顔が熱くなった。
「馬車の馬たちが可愛くって……」
「わかります! 俺も動物好きで……実はこの邸宅を任されるようになってから動物たちのために庭を開拓したり……あっ、すみません。俺、つい好きなことになると」
なんて素敵な人なんだろう?
伯爵家の後継ぎでありながらも何の嫌味もなければ堅苦しさもない。正直初めて出会うタイプだ。
「さっ、おつかれでしょう? すぐにおやすみの準備を。それから、ささやかながら……今週中に式をと思っておりまして、良いでしょうか?」
「是非! お願いしますわ!」