1妹に婚約者を奪われました
「ごめんね、お姉さま。ミシャール家にふさわしいのは私みたい……」
私の目の前で、いや……私と両親の目の前で悲劇のヒロインのような表情をしているのは妹のパルパラだ。そして、パルパラが腕を組んでいるのは私の婚約者……いや、元婚約者のジョージ・ミシャール。伯爵家の長男でこの辺では一番大きな領地を持つミシャール伯爵家の後継ぎである。
「クロエ、君には失望したよ。君の勉学はすべてパルパラにやらせていたのだって聞いたよ。パルパラは君に迫害され、利用され……僕が惚れた知性のある君は嘘だったんだね……。僕の愛する知的で優しいのはすべてパルパラだったんだ」
(この人は何を言っているんだろう)
ジョージ様の後ろでパルパラがかすかに微笑んだ。
私はミシャール家の領地の中に昔から邸宅を構える男爵家・ルルー家の長女クロエ。ジョージとは学園の同級生。私は勉強だけは得意だったこともあり首席として卒業。それが見込まれて縁談があったのだ。もちろん、両親共に権力のある伯爵家の長男との縁談ともあれば即断で了承。私もジョージも知らない仲ではないこともあって婚約へと至ったのだ。
ではどうしてこんなことになったのか? それは我が妹、パルパラのしたたかで綿密な計画があったからだ。
パルパラは「姉に迫害されている可哀想な妹」を演じ続けたのだ。事実、パルパラはルルー家のものでありながら勉学はてんでダメで私が勉学を教えていた。もちろん、「優しく」ではあるけれど……。
私が目を離した隙にジョージ様と手紙のやりとりをするようになり、おバカで優しいジョージ様はそんな悲劇のヒロインに恋をしてしまったのだ。
(全くの嘘なのだけれどね)
「そこで、ことを穏便に済ませるためにご両親と先方と、ミシャール家の次期当主として話し合ってきた」
「先方?」
「あぁ、ポエジー家のことだよ」
ポエジー家はパルパラに縁談が来ていた伯爵家だ。ポエジー家は農場と牧場を田舎の方に広く持っているとかで学園にもご子息はほとんど来ていなかったっけ。
「クロエ、喜べ。パルパラの提案で君にはポエジー家に嫁いでもらうことになったよ」
「えぇ、都会や煌びやかなものが大好きなお姉さまにとって罪の償いになりつつも、結婚という女の幸せを奪わない……私にとって最大限のできることですわ」
パルパラの勝ち誇った顔。後ろを振り返れば私の目を見ようともしない両親。両親は身分の高いミシャールには逆らえないのだ。
パルパラは私のことを「都会や煌びやかなものが大好き」と言ったがそれは違う。パルパラ自身がそういうのが好きで……というかそれを目当てに私からジョージを奪ったんだということが透けて見える。やっぱりこの子は頭が良くないのね……。でも、それ以上にそんなことにも気がつかないジョージも同じくらいバカだと思った。
「明日の結婚式はパルパラを花嫁として迎え、君には酷なことだから参列はなしでかまわないよ。あぁ、大丈夫、ドレスならパルパラに合わせたものをこちらで用意させてあるからね」
パルパラがジョージ様の腕を掴んで幸せそうに微笑んだ。
明日は結婚式のはずだった。
明日は私が幸せになるはずだったのに。