第八十九話 建物を制圧
一方、ブレッドは俺と戦いつつかなり焦っていた。
「くそ、何故建物の中からの援護がないんだ!」
どうもブレッドは、建物の中にいる人物からの援護を期待して俺達に少人数での戦いを挑んだらしい。
しかし、一向に待っても建物の中から俺達を狙った攻撃はなかった。
すると、建物の中でも動きがあった様だ。
バリーン。
ズサー。
「「「「ヒイイ!」」」」
冒険者は建物の壁際にしゃがんで避難しているのだが、すぐ近くの窓から屈強な男が飛び出してきたのだ。
屈強な男は、完全に白目を向いているな。
冒険者はもう何が何だか分からない様だけど、大人しくしてくれているのでとても助かっている。
窓から路上に吹っ飛んだ屈強な男を見たブレッドは、今更ながら建物の中からの援護がない理由に気がついた様だ。
「ぐっ、既に建物の中に突入していたのかよ」
「そう、あくまでも俺達は陽動部隊だ。本命は既に建物の中ですよ」
「ちっ」
俺達の目的は拠点の制圧と誘拐された子どもの救出であって、ブレッドを倒す事はおまけみたいな物だ。
ブレッドは何とかして俺から離れようとしているが、俺もしつこくブレッドに食らいつく。
その間に、シロとミケに加えてマリリさんとマルクさんも建物の中に突入していった。
ドカン。
バリバリ。
ズドーン。
建物の中から激しい音と人の叫び声が聞こえるが、その間も俺とブレッドは戦いを続けている。
そして、シロ達が建物に突入して数分後、マルクさんが建物の中から出てきた。
それと同時に、闇夜を切り裂く様に馬が二頭俺達の所にやってきた。
こちらにやってきたのはワース商会で活動していた馬で、馬の上にはラルフ様が乗っていた。
「リン様、建物内の制圧が完了しました。子ども達も無事に保護し、運び出そうとした品物も押さえてあります」
「そうか、ちょうど良かった。ワース商会も制圧した。魔物を出現させる魔導具を使ったものもいたが、魔物も全て倒した。まあ、魔物は主に馬が倒したがな」
「「ヒヒーン」」
マルクさんとラルフ様の報告で、拠点の制圧は完了。
馬は、ブレッドを嘲笑うかのように得意げにいなないていた。
「ぐ、くそ!」
ブレッドは完全に焦っていて、強引に俺から距離をとった。
俺もこれ以上は無理にブレッドを抑え込む必要がないので、俺もリンさん達の方に引き下がった。
すると、おもちを除いたスライム達も割れた窓から俺の元にやってきた。
おもちがいないのは、恐らく建物の中で子ども達の治療をしているからだろう。
更にラルフ様が馬から降りて、ブレッドにとある情報を告げた。
「ブレッド、今回誘拐した子どもや違法な品物を運び出す為に、守備兵を買収していたらしいな。まあ、その守備兵も勿論捕縛しているぞ」
「ぐ、そこまで手を打たれていたか」
守備兵については、リーフ達が防壁の警備に着いた際に真っ先に発覚した。
ラルフ様としても、まさか犯罪者よりも先に守備兵が悪人と判定された事にかなり悔しい思いをしていた。
しかも守備兵は、一人ではなく複数名が捕縛されている。
それだけ闇組織が、騎士や守備兵の目を盗んで暗躍していたという事だ。




