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異世界転生は苦労がいっぱい 〜いきなり高貴な人の面倒ごとに巻き込まれたけど、仲間と一緒に難題を解決します〜  作者: 藤なごみ


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第七十一話 誘拐犯と執務官

 コンコン。


「失礼します。エルシー様が起きられました。皆様にお話したい事があるそうです」

「そうか、入ってくれ」


 少しティーブレイクをしていたら、エルシーを見守っていた侍従が部屋の中に入ってきた。

 エルシーが俺達に話したい事は、一旦何だろう。


「し、失礼します。リンさん、部屋を貸して頂き有難う御座います」

「いえいえ、気がついた様で何よりです」


 あ、エルシーがリンさんの方を見て緊張している。

 どうやらエルシーは、リンさんがこのバスク子爵の令嬢だと知ってしまった様だ。


「ふむ、では妾達も改めて自己紹介をせんとな」

「そうだね。私は隠し事が嫌だし」

「えっ、えっ?」


 ビアンカ殿下とエステル殿下も自己紹介と言い出して、エルシーはますます混乱していた。

 ここは頑張って、皆の事を理解してもらおう。

 という事で、皆はエルシー向けに改めて自己紹介を始めた。


「子爵様に王女殿下がお二人も。えっ、ええ!」


 あ、エルシーが驚きすぎて、脳のキャパシティを超えてしまった様だ。

 そして、エルシーは俺の方を怪しむ様に見てきた。


「さ、サトーさんは、本当に貴族ではないのですか?」

「ただの平民です。シロとミケも平民ですよ」

「でも、こんなにも高貴な人と親しげにしているなんて。サトーさんが平民なんて信じられません」


 エルシーは俺の顔を見てとんでもなく驚いているけど、俺だって異世界に来て何でこんなにも高貴な人と知り合ったのか不思議だ。

 自己紹介を終えると、エルシーが真剣な顔をして俺達に話を始めた。


「今日は、私が何故一人で旅をしていたかをお話します。私の旅の目的は、拐われた妹を探す事です」


 おや?

 エルシーの旅の目的が、俺達がさっきまで話していた内容と一緒だぞ。

 エルシーの話を聞いて、全員が顔色を変えた。

 そんな雰囲気の中で、エルシーは話を続けた。


「私は獣人の父と人間の母の間に生まれました。父は犬獣人です。私は母の血が強いのかほぼ人間の姿ですが、妹のキャロルはハーフの犬獣人の姿でした。でも、私達はそんな事は関係なくとても良い仲良しでした」


 ここで、エルシーが一呼吸を置いた。

 どうも誘拐の核心を話す様だ。


「ある日の夜、私達の家に強盗が入りました。強盗の目的は、妹を拐う事でした。り、両親は、ひっく、殺害され、わ、私も、ひっく、刺されました。うっぐ、そ、そして、い、妹が、うっぐ、さ、拐われて」

「そう、そんな辛い事があったのね」

「辛かったよね。良いんだよ、思いっきり泣いても」

「うわーん」


 余りにも辛い告白だ。

 リンさんとエステル殿下がエルシーの両側に座って頭を撫でていると、エルシーの感情が溢れた。

 エルシーはリンさんに抱きついて、涙が止まらなかった。


「エルシーの話は、私も聞いている。エルシーは、その事件の被害者だったのか」

「何とも言えんのう。こんなにも酷い事が起きているとは」


 エルシーが泣き止むまでの間テリー様とビアンカ殿下が話をしていたが、俺も改めて事件の残虐さを知る事になった。

 エルシーは泣き止むのを待って話を再開したが、ここから風向きが変わる事になった。


「私が旅を始めたきっかけは、妹が拐われる時に私の名を呼んでいたのが耳に残っている事です。もう一つは、事件の捜査を行なっていた調査官が突然いなくなったので、バスク子爵領の街に行けば何か手がかりが得られると思ったからです」

「待て、今何と言った? 調査官がいなくなっただと」


 エルシーがとんでもない事を話した。

 調査官が突然いなくなったと聞いて、テリー様がかなり驚いた顔をした。


「はい。ハンザという、眼鏡をかけた真面目そうな人でした」

「確かにハンザという執務官は我が領にいる。眼鏡をかけているのも、真面目だというのも全く同じだ」

「そういえば、私がとある事を言ったらそのハンザと言う人の顔色が変わって、その直後にいなくなりました。犯人が、ブラックなんとかの下っ端は楽ではないと言っていました」

「ブラックなんとかと言うのは、もしやブラッククロウの事ではないのか?」

「そう、そう、その名前です。確かに襲ってきた人は、ブラッククロウと言っていました」


 おお、ここに来て大きな手がかりが出てきたぞ。

 少なくともエルシーの妹の誘拐犯はあの闇組織ブラッククロウの構成員であるのは間違いないし、更にはハンザという執務官の動向も怪しい。


「私はこの事件は知っているが、ブラッククロウが絡んでいるとは知らない。となると、ハンザが何かの理由で報告しなかった事になるな」

「ますます怪しいですね。探りを入れるだけの要素はあります」

「うむ、直ぐに背後関係を調べさせよう」


 テリー様と話をしたけど、かなり怪しい事例だ。

 テリー様は執事を呼び出して、早速指示を出していた。

 その間、ビアンカ殿下がエルシーに話をしていた。


「バスク子爵領の執務官が事件に関わっているとなると、もしその執務官にエルシーの姿を見られるとエルシーが殺害される恐れがある。悪いが、当面はこの屋敷に留まる事になるぞ。元々妾達が追っていた事件と関連性もあるので、この件は妾達が調査する事になるのじゃ」

「はい、その様な危険性がある事を認識しました。その代わりに、この屋敷でお手伝いをさせて下さい。何もしないでただこの屋敷泊まらせて頂くのは、心苦しいのです」

「うむ、それは調整させよう」


 流石に屋敷の中ならエルシーの身の安全は確保できるし、エルシーも理解してくれた。

 後は、俺達が頑張って事件を解決しないと。

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