第五十二話 苦渋の決断
「止めるんだ！」
ガキン。
「また、障壁か」
「勇猛なお姫様だ。しかし、もう遅い様だな」
エステル殿下がビルゴに一気に近づいて剣を振るうが、またもやバリアみたいな物に防がれてしまった。
エステル殿下が俺達の方に下がった時、先ず一つの地響きが起きた。
「グガ、ゴガ……」
ドスーン。
魔獣化の薬を打たれたグランは体が歪に大きくなったのだが、突然苦しんで大きな音をたてて倒れてしまい、全く動かなくなってしまった。
「うーん、やはりか。貴族病になっている奴らは、薬の適合が良くないな」
ビルゴはつまらなそうに動かなくなったグランを見下ろしていた。
貴族病っていうのは、恐らく生活習慣病だろうな。
グランは若いのにぶくぶくに太っていたから、内臓にもダメージがあったのだろう。
「フシュー、グガアア」
「「ば、バン？ あれがバンなの？」」
そして、バンは体が二回り程筋肉が盛り上がって大きくなり、何故か腕が四本になっていた。
目は血走って大きく見ひらき、獣の様に涎を垂らしていた。
既に異形のものに成り果てたバンを見て、ザシャとクレアは驚きを隠せなかった。
皆が驚愕の表情をしている中、俺は動いていた。
「喰らえ！」
「グゴア！」
俺は、魔獣化したバンにとある魔法を放った。
俺が放った魔法の効果はあったが、人間に戻す所までは至らなかった。
「鑑定で状態異常とあったからもしかしたらと思ったが、ダメだったか」
俺はバンが魔獣化した際に鑑定をしていた。
ステータスが状態異常と出ていたので、状態異常回復の魔法をかけたのだが状態異常を回復する事はできなかった。
「サトー、良い読みだ。残念ながら、悪意がある奴とこの薬は相性が良い。元に戻すのは不可能だよ」
「そうか、だからお前は二人が悪意を見せたタイミングで薬を打ったのか。より薬の効果が高くなる様にと」
「サトー、ご名答だ」
ビルゴの言い分だと、悪意の無い人が無理矢理魔獣化の薬を打たれた場合は元に戻せる可能性があるという事だ。
だが、残念ながらバンを元の人に戻すのはもう難しそうだ。
「グフゥ、フウフウ、ウガァ！」
「「きゃー！」」
俺の魔法で苦しんでいたバンは少し息を整えたら、唸り声を上げて物凄いスピードでザシャとクレアに突っ込んできた。
しまった、思ったよりもバンが速くて俺も二人の元に間に合わない。
ガキン、ズドーン。
「グフゥ？ グォォォ！」
ここで颯爽と対応したのがネズミのホワイトだった。
ホワイトはビルゴの様なバリアを展開して、ザシャとクレアをバンから守った。
そしてホワイトは、強烈なエアバレットでバンを吹き飛ばしたのだ。
「あ、ありがとうホワイトちゃん」
「助かったわ」
「チュー！」
ホワイトは、ザシャとクレアに向かってサムズアップしている。
なんだかホワイトがとってもカッコいいぞ。
「仕方ない、二手に分かれて奴らを倒すぞ！」
「「「はい」」」
アルス殿下の声に俺達が答える。
できればバンの事は倒したくなかったけど、俺も覚悟を決めないとならない様だ。
