第三十八話 少女を保護する事に
「少しは落ち着いたかな?」
「はい、ありがとうございます」
「ご迷惑をおかけしました」
事情聴取も兼ねてという事で、俺達は個室に案内された。
温かい紅茶を口にして、少女達はようやく涙が止まった様だ。
「辛い所、ごめんね。でも、流石にギルド内でいざこざを起こしているから、少し話を聞かせてね」
「いえ、こちらこそすみません」
「私達で分かる事なら」
少女達への事情聴取は、マリシャさんが行ってくれる事になった。
女性が相手だから、きっと少女達も話しやすいのだろう。
「私はギルドマスターのマリシャよ。貴方と少年の名前を教えてね」
「私はザシャです、十一歳です」
「私はクレアです、歳はザシャと同じです。彼はバンで、私達と同じ歳です」
少女達は、今年十二歳になる年齢だという。
シロとミケより一つ年上だ。
髪が長いのがザシャで、短いのがクレア。
二人とも、黒に近い髪色をしている。
「そう、ありがとうね。では、冒険者になろうとした経緯を教えてね」
「はい」
そうして、ザシャとクレアは話を始めた。
元は地方の孤児院出身で、十二歳になる前に孤児院を出ないとならない事。
何をするかを悩んでいた事。
同じ孤児院の少年が、冒険者になって一攫千金を狙っていた事。
本当は冒険者になりたくないのだが、他に選択肢がなくて少年についていった事。
冒険者の方針を巡って、少年と対立していた事。
路銀が尽きそうで、これからどうして良いか悩んでいた事。
「そうなのね。よく、話してくれたわ」
「ぐす、ぐす」
「ふえ、ぐす」
きっと彼女達は、行き場を完全に見失っていたのだろう。
涙ながらにマリシャさんに気持ちを吐露していて、マリシャさんも彼女達を抱きしめていた。
しかし、残念ながら事態は悪化した。
「マスター、少年は安宿からビルゴ達の泊まってる宿に移りましたぜ」
「何か気になるわね。貴方達は直ぐに宿に確認しにいって。サトーもついていって」
「分かりました」
「シロも行くよ」
「ミケも」
俺達はザシャとクレアと共に、三人が泊まっている宿に向かった。
すると、驚きの結果が待っていた。
「さっき泊まっていた少年が、宿泊キャンセルだっていって払い戻しをしていったよ」
「「ええ!」」
「そういえば、荷物も多めに持っていったね」
これはまずいと思い、宿の人に三人が泊まっていた部屋を見せてもらった。
「そんな、荷物が何もない」
「これから、どうすればいいのだろう」
ザシャとクレアの荷物も含めて、部屋の中には何も荷物が置いてなかった。
つまり、ザシャとクレアは今身につけている物しか手元にない事になってしまった。
「孤児院から貰った少しばかりのお金は、皆で出し合ってこの宿の宿泊料に当てました」
「パンは、そのお金も持っていってしまった様です」
ザシャとクレアは、力なく崩れ落ちてしまった。
つまり二人には、今夜泊まる場所も食べ物を買うお金も着替えすらも無くなってしまったのだ。
とりあえず現状を報告する為に、俺達は悲嘆にくれるザシャとクレアと共にギルドに戻った。
「サトー、大変な事になったのう」
「ビアンカ殿下」
個室に戻ると、そこには何故かビアンカ殿下が紅茶を飲んでいた。
どうやらギルドから屋敷に連絡がいった様だ。
とりあえず、俺達も座る事にした。
「ザシャとクレアと申したか。妾は王国王女ビアンカじゃ」
「えっ、あ」
「お、王女様?」
ビアンカ殿下、いきなりガツンとやりすぎではないですか?
ザシャとクレアがビアンカ殿下の正体を知って、完全に固まっているぞ。
「サトー、こういうのは最初にガツンとやるべきじゃ」
「ビアンカ殿下、俺の心の中を覗かないで下さいよ」
「サトーの顔にバッチリ書いてあったのじゃ」
ビアンカ殿下は、ふふんと得意げに俺に向かってウインクをしていた。
俺とビアンカ殿下の様子を見て、ザシャとクレアは少し落ち着いた様だ。
「まあ、この後の事もあるから簡潔に話そう。あのバンという少年は、闇組織と接触した疑惑がある。なので、冒険者ギルドだけでなく街の騎士隊からも捜索の対象となった。まあ、お主らにした事も含むがな」
「はい」
「分かりました」
バンには既に窃盗の容疑もかけられているし、ザシャとクレアはビアンカ殿下の言葉を冷静に受け止めていた。
「そして、バンとの接点があるお主らを闇組織から守る為に、お主らを屋敷で保護する事になった」
「「えっ?」」
「成程、ビルゴはザシャとクレアに強くあたっていたし、証拠隠滅に動く可能性もありますね」
「そういう事じゃ。サトーは、相変わらず理解が早くて助かるぞ」
バンと闇組織との関わりが懸念される以上、闇組織は関係者の殺害をする可能性がある。
ならば、いっそ屋敷で保護してしまえという訳か。
それなら、バンに対する捜索も一手に行えるぞ。
「「わーい、お姉ちゃんと一緒だ!」」
因みにシロとミケは、スライム達と共にザシャとクレアと一緒に泊まれる事を喜んでいた。




